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教育プログラム設計更新 2026.10.30·約 32 分で読了

安全衛生教育とは|5種類の義務と外国人への実施方法を一覧で整理

安全衛生教育の種類を労働安全衛生法の条文から整理しました。雇入れ時・特別・職長・業務従事者・健康教育の対象と時間、記録保管、オンライン実施に加え、外国人への実施方法を在留資格・言語別に解説します。

安全衛生教育とは|5種類の義務と外国人への実施方法を一覧で整理

要約

  • 安全衛生教育は 労働安全衛生法第59条・第60条・第60条の2・第69条 に根拠を持つ「事業者の義務」
  • 種類は大きく4つ:雇入れ時教育/特別教育(59業務)/職長等教育/健康教育
  • 令和6年4月の改正で雇入れ時教育の業種制限が撤廃され、全業種・全雇用形態で8項目すべて必須
  • 未実施は労基署の是正勧告・労安法違反として送検事例あり、安全配慮義務違反による民事賠償リスクも別建てで発生
  • 記録は 3年保管が原則、紙より電子的な記録が実務上推奨される
  • オンライン実施は 厚労省が2021年1月通達で公式に容認(4要件を満たす場合)
  • 外国人労働者には 本人が理解できる言語で 実施し、理解の証跡を残すことが安全配慮義務上事実上必須(在留資格別・言語別の実務は第10章)

「安全衛生教育って、結局どこから手を付ければいいんですか?」— 人事・労務担当者から年に何度も受ける質問です。種類が多く、根拠条文も第59条・第60条・第69条と分散していて、初見では全体像が掴みづらい。

本記事では、日本の事業者が押さえるべき安全衛生教育の全体像を、労働安全衛生法の各条文に立ち戻って整理します。雇入れ時・特別教育・職長教育・健康教育の違い、対象者と所要時間、記録保管、オンライン実施の可否、外国人労働者への配慮までを、人事・労務・現場責任者向けに一本化しました。

このページを起点に、各種別の詳細記事へ枝分かれする構造です。「うちの会社はどれを、どこまでやればいいのか」の判断材料に使ってください。

1. 安全衛生教育とは — 労働安全衛生法が定める「事業者の義務」

安全衛生教育とは、労働者の労働災害を防止し、健康を確保するために、事業者が労働者に対して行う教育の総称です。「会社が労働者に対して払うべき安全への配慮」の中核実装と言ってもいい。

根拠は 労働安全衛生法(労安法)。主な条文は次のとおりです。

条文 教育の種類
第59条第1項 雇入れ時の安全衛生教育
第59条第2項 作業内容変更時の安全衛生教育
第59条第3項 特別の教育(特別教育・59業務)
第60条 職長等の教育
第60条の2 危険有害業務従事者への安全衛生教育(業務従事者教育・定期教育)
第69条 健康教育(健康保持増進措置)

公法(行政取締法規)としての義務に加え、私法としての**安全配慮義務(労働契約法第5条)**も同時に課されます。労安法を守るだけでは足りない、というのが判例の積み重ねによる実務解釈です。

ⓘ 公法と私法の二層構造

労安法は「最低基準」(破ると行政処分・刑事罰)、安全配慮義務は「実質的に労働者を守れたか」を問う追加責任(破ると民事賠償)。同じ労災でも入口が2つあり、両方を満たす必要があります。

2. 4種類の安全衛生教育 — 雇入れ時・特別・職長・健康

それぞれの違いを早見表で整理します。

教育種別 根拠 対象 主な内容 所要時間目安
雇入れ時教育 労安法第59条第1項 すべての労働者(雇い入れ時) 業務に関する基礎安全衛生(8項目) 2〜6時間
特別教育 労安法第59条第3項 危険・有害業務に就く者 業務ごとの専門安全教育 業務により4〜21時間程度(フルハーネス6h・フォークリフト12h・アーク溶接21h など)
職長等教育 労安法第60条 新たに職長になる者 部下指導・作業手順・労災防止 12時間以上
健康教育 労安法第69条 全労働者 健康保持増進・メンタルヘルス 任意・継続的

このほか、労安法第60条の2 に基づく「危険有害業務従事者への定期教育」も実務上重要です。玉掛け業務従事者教育・有機溶剤業務従事者教育などがこのカテゴリ。

2-1. 混同しやすい3つのパターン

種類が多いぶん、現場では次の取り違えが繰り返し起きます。

  • 雇入れ時教育を済ませれば特別教育も終わったと思うケース — 別の義務です。フォークリフトに乗せるなら、雇入れ時教育に加えて特別教育を業務に就かせる前に実施します。
  • 職長教育を「資格取得」と捉えるケース — 職長教育は免許ではなく法定の教育義務で、修了しても免許は付与されません。講習機関の修了証はあくまで修了の証明です。
  • 業務従事者教育を「特別教育の再受講」と捉えるケース — 特別教育は業務に就く前の入口、業務従事者教育は就いた後の継続教育で、目的が異なります。

自社で何をやるべきかの判定の目安は、①人を採用した→雇入れ時教育(全員・8項目)、②配置転換した→作業内容変更時教育、③59業務に就かせる→特別教育(業務前)、④対象業種で職長を新任した→職長教育、⑤危険業務の従事者がおおむね5年経過→業務従事者教育、の順に確認すると漏れが出にくい構成です。

3. 雇入れ時安全衛生教育(労安法第59条第1項)

労働者を新たに雇い入れたときに行う最も基礎的な教育です。労安法第59条第1項は次のように定めています。

事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。

3-1. 対象:すべての労働者・全業種

雇用形態・国籍・期間を問わず、新たに雇い入れた労働者全員が対象です。正社員・契約社員・パートタイマー・アルバイト・派遣労働者・出向者・外国人労働者、すべて含まれます。

令和6年4月施行の改正で、それまで一部業種に限られていた省略規定が撤廃され、現在は全業種で8項目すべての実施が必須となっています。

3-2. 教育内容(労働安全衛生規則 第35条 8項目)

  1. 機械等・原材料等の危険性又は有害性、これらの取扱い方法
  2. 安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能及び取扱い方法
  3. 作業手順
  4. 作業開始時の点検
  5. 業務に関して発生するおそれのある疾病の原因と予防
  6. 整理・整頓・清潔の保持
  7. 事故時等における応急措置・退避
  8. その他、業務に関する安全又は衛生のために必要な事項

→ 詳細は 雇入れ時安全衛生教育 完全ガイド と 令和6年4月の法改正の解説 を参照。

3-3. 実施タイミング

「雇い入れたとき」とは、雇用契約締結から業務に就かせる前の段階を指します。教育を完了する前に業務に就かせると同条違反です。

第2項により、作業内容を変更したとき(部署異動・職種変更)にも同等の教育を再度実施する義務があります。

4. 特別教育(労安法第59条第3項・59業務)

危険・有害業務に従事させる前に必要な専門教育です。労働安全衛生規則第36条で59業務が列挙されています。

主要な特別教育業務 該当号
自由研削といしの取替え・試運転 第1号
動力プレスの金型取付・取外し 第2号
アーク溶接 第3号
フォークリフト運転(最大荷重1t未満) 第5号
玉掛け(吊り上げ荷重1t未満) 第19号
高所作業車運転(作業床10m未満) 第10号の5
足場の組立て・解体・変更 第39号
ロープ高所作業 第40号
フルハーネス型墜落制止用器具を用いる作業 第41号

→ 特別教育の多言語対応 完全ガイド|59業務一覧と外国語教材の選び方 で全業務を業種別に整理。

4-1. 「特別教育」と「技能講習」の境界

特別教育は事業者が社内で実施できますが、**より重大な業務は技能講習(労安法第76条・登録教習機関での実施)**が必須です。境界は機械の容量・作業の重大性で決まります。

業務 特別教育(社内可) 技能講習(登録教習機関のみ)
フォークリフト運転 最大荷重1t未満 1t以上
玉掛け 吊り上げ荷重1t未満 1t以上
クレーン運転 5t未満 5t以上

→ 玉掛け技能講習と特別教育の違い(1トン基準)

4-2. 外国人労働者への実施

外国人が危険有害業務に就く場合、本人が理解できる言語で特別教育を実施する必要があります。日本語のみで「教育の記録」だけ残しても、安全配慮義務違反のリスクが残ります。

→ フルハーネス特別教育を外国人労働者に実施する方法

5. 職長等教育(労安法第60条)

新たに職長(現場で部下を直接指揮する者)に就く者に対する教育です。建設業・製造業の一部・電気業・ガス業・自動車整備業・機械修理業が対象業種。

5-1. 教育内容(労働安全衛生規則第40条)

  • 作業方法の決定及び労働者の配置(2時間以上)
  • 労働者に対する指導又は監督の方法(2.5時間以上)
  • 危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)及びその結果に基づく措置(4時間以上)
  • 異常時等における措置(1.5時間以上)
  • その他、現場監督者として行うべき労働災害防止活動(2時間以上)

合計 12時間以上。事業者が社内実施することも、外部の労働災害防止団体に委託することも可能です。

5-2. 「職長安全衛生責任者教育」との関係

建設業では「職長・安全衛生責任者教育」として、職長教育+安全衛生責任者教育(労安法第16条)を一体実施するのが一般的。これも Labona の職長・安全衛生責任者教育 eラーニング(学科・5言語)で対応できます。

対象業種の一覧(2023年4月の拡大分を含む)、科目ごとの法定時間、受講方法と費用相場、WEB講習が認められる条件は、職長教育とは?対象業種・カリキュラム・費用・安全衛生責任者教育との違いで個別に解説しています。

6. 業務従事者教育・健康教育(労安法第60条の2・第69条)

6-1. 危険有害業務従事者への定期教育(労安法第60条の2)

特別教育とは別に、「現に危険有害業務に従事している労働者」に対し、おおむね5年ごとに行う定期教育です。厚労省は「労働災害の動向に対応した教育(業務従事者教育)」の通達を出しており、玉掛け業務・有機溶剤業務・特定化学物質業務などが典型例。

「特別教育を一度受けたから永久に大丈夫」ではなく、技術・法令の変化に追従して継続的に再教育する設計です。

6-2. 健康教育(労安法第69条)

健康保持増進のための教育。一般健康診断・特殊健康診断・THP(トータル・ヘルスプロモーション)・メンタルヘルス対策などが含まれます。直接的な「研修時間」というよりは、健康診断結果に基づく個別指導や安全衛生委員会での啓発活動が中心。

7. 安全衛生教育を実施しなかった場合のリスク

安全衛生教育の未実施は、複数の経路で事業者にリスクを与えます。

7-1. 行政・刑事リスク

  • 労働基準監督署による是正勧告・指導
  • 悪質な場合は労安法違反として 送検(書類送検)
  • 重大事案では監督署の特別監督対象となり、他の労働条件まで包括的に調査される

7-2. 民事賠償リスク(安全配慮義務違反)

労災が発生し、教育未実施・不適切実施が認められた場合、労働契約法第5条(安全配慮義務)違反として民事賠償の対象になります。

直近の重要判例:外国人労働者への安全配慮義務|賠償リスクと判例(大阪地裁2024年7月31日判決)

賠償額は事案により数百万円〜数千万円規模。労災保険でカバーされる治療費・休業補償の超過部分が対象となります。

7-3. 事業継続リスク

  • 元請・取引先からの取引停止・指名停止(建設業では実務上きわめて重い)
  • 公共工事の入札参加資格停止
  • メディア報道による信用失墜
  • 採用活動への悪影響

→ Labona の安全教育 eラーニングを資料請求する

8. 記録保管 — 3年義務と実務上のポイント

労働安全衛生規則第38条は特別教育の記録を3年保管と明示しています。雇入れ時教育については法定の保存年限はありませんが、安全配慮義務を果たした立証資料として3年以上の保管を推奨します(労基署の指導・労災対応の慣行)。

8-1. 記録すべき項目

必須項目 例
受講者氏名・社員番号 田中太郎 / E1234
受講日時 2026-04-01 09:00-12:00
教育内容 8項目すべて(各項目の所要時間)
教育担当者 安全衛生管理者 山田次郎
受講方法 集合研修 / eラーニング
理解度確認結果 合格 / 85点
受講証明の発行 あり(PDF の学科受講証明書など)

8-2. 紙より電子記録

紙の管理簿は監督署の立入時・元請の監査時に「探し出すのに数日かかる」事態を招きます。eラーニング形式の自動記録は、退職者の記録も自動アーカイブされ、CSV エクスポートで即時提示できる。実務的にも、コンプライアンス上も推奨されます。

→ 雇入れ時教育の記録保管(3年義務)の実務

9. オンライン実施・eラーニングの可否

結論:可能です。

厚生労働省は2021年1月25日付の通達「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」で、オンライン形式の教育を公式に容認しました。

9-1. 必須要件(4つ)

  1. 教育内容が法定項目を満たすこと
  2. 受講者本人を特定できる仕組みがあること(顔認証・ID/PW・ランダム理解度確認 等)
  3. 理解度を確認できること(章末クイズ・修了試験 等)
  4. 記録を3年保管できること

「動画を流すだけ」は要件不足。本人特定と理解度確認 が運用上のキーポイントです。

※上記4つは通達の要件を実務向けに整理したものです。通達原文では「受講者の受講状況を確認できること」「受講者が質問できる機会を確保すること」「教育内容・時間を満たすこと」「記録を保存すること」といった表現で示されています。

9-2. 実技を伴う業務

特別教育の実技部分(フォークリフト・玉掛け・フルハーネス等)は原則として対面実施が必要です。学科eラーニング + 現場OJT のハイブリッドが標準パターン。

→ 雇入れ時安全衛生教育のオンライン実施 法的要件と実務上の注意点

10. 外国人労働者への実施

日本で働く外国人労働者は令和7年10月末時点で 2,571,037人(厚労省2026年1月30日公表)。労災千人率は 2.71 で、全労働者平均を上回っています(内訳は外国人労働者の労災統計【2026年最新】)。

法令上、外国人だから免除はありません。労安法第59・60・61条は国籍を問わず適用されます。その上で**「本人が理解できる言語で」実施し、理解の証跡を残す**ことが、安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から事実上必須となっています。

10-1. 在留資格ごとの落とし穴

法令上の義務は同じでも、在留資格によって実務の落とし穴は変わります。

技能実習 — 入国後講習は雇入れ時教育の代替にならない

技能実習生は配属前に監理団体等による入国後講習を受けますが、その中心は日本語・生活知識・法的保護情報です。労安法上の雇入れ時教育は実習実施者(受入企業)の義務であり、入国後講習では代替できません。

配属時に雇入れ時教育を、危険有害業務に就かせる前に特別教育を、それぞれ本人が理解できる言語で実施してください。「講習を受けてきたから大丈夫」で作業に就かせるのは、59条違反の典型パターンです。

→ 詳細: 育成就労 vs 技能実習|安全教育の違いを完全比較

特定技能 — 転職があるたびに雇入れ時教育が発生する

特定技能1号には支援計画(事前ガイダンス・生活オリエンテーション等)の実施義務がありますが、これも安全衛生教育の代替ではありません。別建てで雇入れ時教育・特別教育が必要です。

さらに特定技能は転職が可能な在留資格です。前職で教育を受けていても、自社で雇い入れた時点で雇入れ時教育の義務が新たに発生します。中途受け入れが多い企業ほど、すぐ実施できる多言語教育の体制が効いてきます。

→ 詳細: 特定技能外国人の安全衛生教育|支援計画との関係

育成就労(2027年4月施行)— 義務は変わらず、実施回数は増える

技能実習の後継となる育成就労制度でも、安全衛生教育の義務そのものは変わりません。変わるのは人の動きです。転籍(転職)の制限が緩和されるため、労働者の入れ替わりが増え、雇入れ時教育の実施回数はむしろ増える見込みです。

とはいえ、現実は「2027年になってから」と後回しにされがちです。多言語で回る教育体制を今のうちに整えておくほうが、結果として安くつきます。

→ 詳細: 育成就労制度の安全衛生教育義務/育成就労 vs 技能実習|安全教育で何が変わるか

10-2. どの言語から揃えるか

最初にやるべきは全言語対応ではなく、自社(と協力会社)の外国人労働者の国籍・言語の棚卸しです。自社データがない・これから採用する段階なら、国内の労働者数の統計順が目安になります(厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況・令和7年10月末時点)。

国籍 人数(令和7年10月末) 推奨言語
ベトナム 約61万人 ベトナム語
中国 約43万人 中国語(簡体字)
フィリピン 約26万人 英語(タガログ語)
ネパール 約24万人 ネパール語(または英語)
インドネシア 約23万人 インドネシア語
ミャンマー 約16万人 ビルマ語(または英語)
ブラジル 約13万人 ポルトガル語

英語があれば足りる、というのはよくある誤解です。ベトナム・中国・インドネシア出身の労働者は、英語より母国語のほうが理解度が高いため、この3言語は個別に用意します。迷ったら ベトナム語 → 中国語(簡体字)→ インドネシア語 → 英語 の順です。母国語教材と「やさしい日本語」の使い分けは こちらの記事 で整理しています。

10-3. 理解度確認:教材を渡しただけでは証跡にならない

労災発生時に問われるのは「本人が内容を理解していたか」であり、母国語の冊子を渡した事実は理解の証明になりません。実務で残すべきは、次の3点セットです。

  1. 理解できる言語での教育実施(母国語の動画・音声つき教材。字幕だけでは日本語が読めない層に届きません)
  2. 母国語での理解度テスト(教育後に本人の言語で確認テストを実施し、合格を確認する)
  3. 受講・合格ログの電子保管(特別教育の記録は3年保存が法定〈安衛則第38条〉。雇入れ時教育の記録も安全配慮義務の立証資料として3年以上の保管を推奨)

実例をひとつ。当社サービスの運用で実際にあった例ですが、建設業の現場で、外国人受講者が日本語のみの修了試験を通過できないケースがありました。教材は多言語でも、試験が日本語のままでは最後の関門で詰まります。多言語の修了試験に切り替えたところ本人は無理なく通過し、企業側には「母国語で理解を確認した」という証跡が残りました。教育と試験の言語を揃える — 地味ですが、ここまでやって初めて証跡が完成します。

判例の整理は 外国人労働者への安全配慮義務 を参照してください。

10-4. ありがちな失敗

失敗1. 「日本語の動画+多言語字幕」だけで止める

字幕は読んで理解できる労働者にしか効きません。日本語が読めない労働者には字幕も読めない — 当たり前のことですが、実によく見落とされます。音声・ナレーションまで母国語化してください。

失敗2. 実施記録を紙で残す

記録の保管(特別教育は3年が法定、雇入れ時教育も3年以上を推奨)に対し、紙運用は「元請照会で探せない」「退職者の記録が散逸」「監査時に提示できない」の三重苦です。電子的な受講ログが残る eラーニング形式が、実務上もコンプライアンス上も推奨されます。

失敗3. 「やったことにしてしまう」

多言語対応していない教材を形だけ実施したことにするケース。労災調査で「記録はあるが、本人が理解していたか不明」となれば、前述のとおり安全配慮義務違反を問われるリスクが残ります。理解度テストの証跡までがワンセットです。

10-5. 多言語化の進め方(7ステップ)

  1. 国籍・言語の棚卸し — 誰が何語で働いているかを把握(協力会社含む)
  2. 必要な教育の洗い出し — 雇入れ時・特別教育・職長教育を対象者×頻度でマトリクス化
  3. 言語ギャップの可視化 — 日本語のみ/字幕あり/吹替ありを教材ごとに整理
  4. 対応方法の選定 — 自社翻訳/多言語 eラーニング/厚労省マニュアルの3択。**自社翻訳は数百万円、eラーニング外部利用なら数万円〜**とコスト差が大きく、ここが最大の意思決定
  5. 受講管理・記録保管の設計 — 3年保管に耐える電子記録の仕組みを準備
  6. 試験運用 — 全社展開の前に1チーム・1拠点で課題を洗い出す
  7. 全社展開+年次更新 — 法令改正・教材更新に追従する運用ルーチンを確立

各アプローチの比較は 多言語安全教育の3つのアプローチ比較 と Labona vs 自社翻訳 vs 翻訳ベンダー にまとめています。業種別の進め方は 建設業・製造業・物流業 を参照してください。

11. 自社の安全衛生教育を整える5ステップ

Step 1. 適用対象業種・業務の棚卸し

自社の事業内容・現場業務を労安規則第36条(特別教育59業務)と照合し、どの業務が特別教育の対象か洗い出す。職長を置く現場は職長教育の対象。

Step 2. 法定教育の実施計画を作る

教育種別 対象者 頻度 実施方法
雇入れ時 新規採用者全員 雇入れ時 eラーニング推奨
特別教育 危険有害業務従事者 配属前 学科 eラーニング + 実技対面
職長等 新任職長 就任時 集合 or eラーニング
業務従事者定期 該当業務継続者 おおむね5年ごと eラーニング

Step 3. 教材・サービスを選定

法定時間数・項目網羅性・本人特定機能・記録保管・修了証発行・多言語対応・1名から導入可能か、を比較表で評価。

Step 4. 受講管理・記録保管の仕組み

3年保管に対応できる電子記録システム。退職者の記録の取扱いと、元請監査時の提出フォーマットも事前に決めておく。

Step 5. 実施・改善のサイクルを回す

理解度テストの結果集計、低スコア項目の再教育、法令改正への追従。「実施した」で終わらせず、「理解された」を確認するところまでが安全衛生教育の運用です。

Labona で学科をカバーできる教育

12. まとめ

安全衛生教育は、労働安全衛生法第59・60・60の2・69条に根拠を持つ事業者の中核義務です。雇入れ時教育・特別教育・職長教育・健康教育の4本柱を、自社の業種・業務・労働者構成に応じて設計・運用する必要があります。

特に令和6年4月以降は、雇入れ時教育の業種制限撤廃により事務系・サービス系業種にも8項目すべての実施義務が広がりました。「うちは関係ない」が通用しないフェーズです。

そして外国人労働者を雇用する企業では、本人が理解できる言語での実施が安全配慮義務上事実上必須となっています。法令の最低基準を満たすだけでなく、「実質的に労働者を守れたか」までを問われる時代に入っています。

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要点

  1. 安全衛生教育の根拠は労安法第59・60・60の2・69条。種類は雇入れ時/特別/職長/健康/業務従事者定期の5系統。
  2. 令和6年4月から雇入れ時教育は全業種・全雇用形態で8項目フル実施が必須。
  3. 特別教育は59業務、技能講習との境界は機械容量・作業重大性で決まる。
  4. 記録は3年保管が原則、紙より電子記録が実務上推奨。
  5. オンライン実施は厚労省通達で公式に容認。本人特定・理解度確認・3年保管が要件。
  6. 外国人労働者には本人が理解できる言語で実施する必要があり、日本語のみは安全配慮義務違反リスクを残す。
  7. 未実施は労基署是正勧告・送検・民事賠償・取引停止の複合リスクを生む。

よくある質問

Q. 安全衛生教育にはどんな種類がありますか?

大きく4種類です。雇入れ時教育(労安法第59条第1項)・特別教育(同第3項・59業務)・職長等教育(第60条)・健康教育(第69条)。このほか、危険有害業務に継続して従事する労働者向けに、第60条の2に基づく業務従事者教育(おおむね5年ごとの定期教育)もあります。

Q. 令和6年4月の法改正で何が変わりましたか?

雇入れ時教育について、それまで一部業種に認められていた項目の省略規定が撤廃されました。現在は全業種・全雇用形態で、労働安全衛生規則第35条の8項目すべての実施が必須です。

Q. eラーニングで安全衛生教育を実施できますか?

可能です。厚生労働省が2021年1月25日付の通達でオンライン実施を公式に容認しています。ただし「動画を流すだけ」では不十分で、法定項目の網羅・受講者本人を特定できる仕組み・理解度確認・3年保管という4要件を満たす必要があります。特別教育の実技部分は原則対面実施が必要です。

Q. 教育記録はどのくらいの期間、保管する必要がありますか?

特別教育は労働安全衛生規則第38条により3年間の保管が義務です。雇入れ時教育には条文上の明示規定はありませんが、実務上は同じく3年保管が標準とされています。

Q. 外国人労働者への安全衛生教育で気をつけることは何ですか?

法令上、外国人だからといって教育が免除されることはありません。加えて、安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から「本人が理解できる言語で」実施することが事実上必須です。対応言語はまず自社の在籍国籍から決め、迷ったらベトナム語・中国語・インドネシア語・英語の順に検討します。

Q. 技能実習の入国後講習や特定技能の支援計画で、雇入れ時教育の代わりになりますか?

なりません。いずれも労安法上の雇入れ時教育・特別教育とは別物で、受入企業が本人の理解できる言語で別途実施する必要があります。

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