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安全衛生教育を実施しないとどうなる?|罰則・是正勧告・送検の流れと安全配慮義務の二重リスク

安全衛生教育の未実施には、労安法第119条の懲役・罰金と安全配慮義務違反の損害賠償という二重リスクがあります。是正勧告から送検までのフロー、外国人雇用企業が特に監督される理由、記録3点セットによる防御を初めての方向けに解説します。

安全衛生教育を実施しないとどうなる?|罰則・是正勧告・送検の流れと安全配慮義務の二重リスク

「うちは今まで事故がないから大丈夫」「形だけ実施すれば問題ないだろう」——安全衛生教育をそう軽く見ていませんか。実は、安全衛生教育を実施しなかった場合、刑事罰(懲役・罰金)と民事賠償という二つのリスクが重なって動きだします。この記事では、法律が定める罰則の中身、監督署の動き方、そして外国人労働者を雇う企業が特に監督の目を向けられる理由を、法律の専門家でない方にも分かるよう一つひとつ整理します。

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安全衛生教育を実施しないリスクは2種類ある

まず整理したいのが、リスクの構造です。安全衛生教育を怠ったとき、会社が直面するのは大きく2種類です。

① 行政・刑事リスク: 労働安全衛生法(以下「労安法」)が罰則を定めており、労働基準監督署(以下「監督署」)が是正勧告を行い、悪質な場合は書類送検に至ります。

② 民事リスク: 労災事故が起きたとき、「教育が不十分だった」として安全配慮義務(簡単に言うと「会社が従業員を危険から守る責任」)違反を問われ、損害賠償を求められます。これは刑事罰とは完全に別の話であり、労災保険給付とも独立して発生します。

ここがポイントなのですが、刑事罰を受けても民事賠償はなくなりませんし、幸い起訴猶予になっても民事で億単位の賠償を命じられることがあります。二つは並行して動く、ということを最初に理解しておいてください。


特別教育の未実施には「懲役刑」の罰則がある(労安法第119条)

特別教育とは、労安法第59条第3項(危険・有害な特定の業務に就かせる前に行わなければならない専門教育)に基づく義務です。フルハーネス、アーク溶接、フォークリフト、低圧電気取扱、プレス機械、粉じん作業など、59種類の業務が指定されています。

この特別教育を実施しなかった場合、**労安法第119条第1号で「6か月以下の拘禁刑(懲役刑に相当)または50万円以下の罰金」**が科されます(出典: 労働安全衛生法 e-Gov法令検索)。

ここで見落とされがちなのが、罰金だけでなく「拘禁刑(懲役刑)」まで規定されている点です。初犯で送検後に起訴猶予になるケースは多いですが、「書類送検された」という事実は業界内に知れ渡ります。公共工事の入札参加資格審査や、元請企業の協力会社審査でも不利になります。

「特別教育が必要かどうか分からなかった」という言い訳は通りません。労安法は「知らなかった」を免責理由とは認めていないからです。


雇入れ時教育の未実施は「罰金のみ」——それでも軽く見ると痛い目に遭う

雇い入れ時の安全衛生教育(労安法第59条第1項、全業種・全労働者が対象の8項目の教育)を未実施の場合は、第119条ではなく**第120条第1号で「50万円以下の罰金」**です。懲役刑の規定はありません。

「懲役がないなら問題ない」——その考え方は危険です。二つの理由があります。

理由①: 是正勧告は罰則とは別に、すぐ動く

罰則は「送検→起訴」という手続きが必要ですが、監督署の是正勧告は違反を確認した時点で即時交付されます。是正報告が遅れると再監督が入り、最終的には書類送検につながることもあります。

理由②: 雇入れ時教育は安全配慮義務の「基礎」になる

労災事故が起きたとき、「雇入れ時にきちんと教育したか」が安全配慮義務の履行を判断する出発点になります。記録がなければ「実施していない」と評価されやすく、民事賠償で不利になります。


是正勧告から書類送検まで——監督署の動き方を知る

「是正勧告」と「書類送検」は別物です。混乱しないよう、実際の流れを整理します。

第1段階: 臨検(立ち入り調査)

監督署の労働基準監督官が事業場を訪問します。定期的な監督・労災調査・労働者からの申告による調査の3パターンがあります。外国人が多い業種では、計画的な「重点監督」として来ることもあります。

調査では、安全衛生教育の記録(実施日・受講者氏名・科目・時間・担当者)の提示を求められます。記録がない場合、「実施していない」と判断されます。

第2段階: 是正勧告書の交付

違反が確認されると「是正勧告書」が交付されます。是正すべき条文・内容・期限が書かれており、期限内に改善して「是正報告書」を提出する義務があります。

第3段階: 再監督

期限後に再度調査が入ります。改善が確認できれば終了。改善されていない場合や、違反の程度が重大な場合は次のステップに進みます。

第4段階: 書類送検

悪質または重大な違反——たとえば特別教育未実施のまま作業させた、死傷事故が発生した——は、労働基準監督官が捜査権を行使して検察に送ります。送検後は検察官が起訴・不起訴を判断します。

実際に送検に至るケースは全体のごく一部ですが、労災死亡事故が絡んでいる場合は確率が格段に上がります。

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罰則より怖い「安全配慮義務違反」——損害賠償が数百万〜数千万円

現場が一番怖いのは、じつは刑事罰よりも民事賠償です。

安全配慮義務違反(労働契約法第5条に基づく、会社が従業員を危険から守る責任の不履行)で訴訟になると、労災保険給付でカバーされない慰謝料・逸失利益の差額を会社が直接負担することになります。

2024年7月31日 大阪地裁判決のポイント

2024年の大阪地裁判決では、ベトナム人労働者がプレス機を操作中に指を切断した事故が争われました。会社側は「安全教育を実施した」と主張しましたが、裁判所が問題にしたのは次の点です。

  • 安全教育の教材がすべて日本語のみだった
  • ベトナム語が理解できない労働者に対して、同僚による5分程度の実演しか行っていなかった
  • プレス機の危険性や非常停止の操作方法が伝わっていなかった

裁判所は「理解できる方法で教育していれば事故は防げた」として会社の安全配慮義務違反を認め、約1,029万円の損害賠償を命じました(出典: OSH Management「外国人労働者への日本語のみの安全教育は安全配慮義務違反か?」)。

率直に申し上げると、「教育した記録がある」だけでは不十分です。「相手が理解できる方法で実施した」という実質が問われます。

詳しい判例の分析は「安全配慮義務と外国人労働者|判例から学ぶ「理解できない教育」のリスク」と「大阪地裁2024年7月31日判決の解説」をご参照ください。


外国人を雇う会社が特に「見られる」理由

外国人労働者を雇用している企業は、現在、監督署の重点監督対象になっています。

第14次労働災害防止計画(2023〜2027年度)は、外国人労働者の労災防止を重点課題の一つに掲げています。特に外国人技能実習生・特定技能外国人を使用する事業場への監督指導が強化されており、厚生労働省は毎年の監督結果を公表しています。

臨検で特に確認される点は以下の3つです。

  • 特別教育の受講記録(受講者・日時・科目・時間・講師名)が整備されているか
  • 教育教材が外国人労働者の母国語で用意されているか、または理解できる方法で実施されているか
  • 雇入れ時教育の記録が全員分、3年以上保管されているか

現場の方ならご存知のとおり、「日本語だけの教材を配って終わり」という方法は、監督官の目にはほぼ確実に問題ありと映ります。育成就労制度の拡大にともない外国人が増えている業種では、多言語教育の整備が急務になっています。


「知らなかった」は免責にならない——記録3点セットで自社を守る

「義務があること自体を知らなかった」は、労安法違反の免責事由になりません。

「今まで事故がなかったから問題なかった」という話も同じです。事故が起きていないのは「教育が機能しているから」かもしれませんし、「たまたま事故が起きていないだけ」かもしれません。監督官も同じ視点で見ています。

一方で、適切に記録を整備していれば、それが強力なエビデンスになります。次の「記録3点セット」が重要です。

1. 教育実施記録

実施日・受講者氏名・科目・実施時間・担当者・使用教材の名称を記録します。特別教育は労安則第38条で3年間の保管が義務付けられています。雇入れ時教育も実務上3年以上の保管が標準です。

2. 理解度確認の記録

テストの正答率、口頭確認の内容、教材の言語を記録します。「実施した」だけでなく「理解させた」証拠として機能します。

3. 使用した教材そのもの

多言語版であれば言語を明記した上で保管します。大阪地裁判決が示したとおり、「どのような言語・方法で教えたか」が争点になります。

この3点が揃えば、監督署への是正報告でも、万一の民事訴訟でも、自社の立場を守ることができます。

教育記録の保管方法についての詳細は「安全衛生教育の記録保管|3年義務の根拠と紙・電子の比較」をご覧ください。


まとめ

安全衛生教育の未実施は、刑事罰(特別教育違反は6か月以下の懲役刑)と民事賠償(安全配慮義務違反)という二重リスクをもたらします。監督署の是正勧告から書類送検までの流れは、「知らなかった」では止められません。外国人労働者を雇用する企業は第14次労災防止計画の重点対象として特に厳しく見られています。2024年の大阪地裁判決が示したように、「日本語で教育した記録がある」だけでは安全配慮義務を果たしたとは言えません。教育実施記録・理解度確認の記録・教材の3点セットを整備することが、自社を守る最も現実的な対策です。

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よくある質問

Q. 特別教育を実施しなかった場合、必ず送検されますか?

送検されるのは違反の中でも悪質・重大なケースです。初回の臨検では通常「是正勧告」が出され、期限内に改善して是正報告を提出すれば送検に至らないケースが大半です。ただし、死傷事故が発生した場合や再監督後も改善がない場合はリスクが高まります。

Q. 特別教育と雇入れ時教育、どちらの罰則が重いですか?

特別教育の未実施が重く、労安法第119条で「6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」です。雇入れ時教育は第120条で「50万円以下の罰金」のみ(懲役刑なし)です。ただし、民事賠償リスクはどちらの未実施でも同様に生じるため、両方の実施が必要です。

Q. 外国人に日本語だけで教育を実施しても法律上は大丈夫ですか?

労安法には「日本語で実施すること」という明文規定はありません。ただし、安全配慮義務の観点から「労働者が理解できる言語で実施する」ことが求められます。2024年の大阪地裁判決では、日本語のみの安全教育がベトナム人に伝わらなかったことを安全配慮義務違反と認定し、約1,029万円の賠償を命じました。実務上は母国語教材の活用が必須です。

Q. 是正勧告を受けたらすぐに取引停止になりますか?

是正勧告そのものは行政指導であり、即座に取引停止になるわけではありません。ただし、元請企業が協力会社を評価する際や公共工事の入札参加資格審査で、是正勧告の事実が評価に影響することがあります。早期に是正して報告書を提出することが重要です。

Q. 安全衛生教育の記録はどれくらい保管すれば良いですか?

特別教育の記録は労安則第38条で3年間の保管が義務付けられています。雇入れ時教育には明示的な保管期間の規定はありませんが、安全配慮義務の証拠として3年以上の保管が実務標準です。可能であれば退職後5年程度の保管を推奨します。


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