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法令・コンプライアンス更新 2026.10.30·約 13 分で読了

大阪地裁2024年7月31日判決|日本語だけの安全教育が違反とされた理由

日本語の読み書きがほとんどできない外国人に、日本語の教材と短い実演だけでプレス機を扱わせた会社の責任を認めた大阪地裁判決(報告による)を解説。判断の軸と賠償額、会社が取れる3つの対策を整理しました。

大阪地裁2024年7月31日判決|日本語だけの安全教育が違反とされた理由

要約

  • 2024年7月31日の大阪地裁判決は、日本語の教材と先輩の短い実演だけでプレス機を扱わせた会社の安全配慮義務違反を認めたと報告されている(判決文は未公表・関西労働者安全センターの報告による)
  • 判断の軸は、教育をした形式ではなく、危険性と取扱方法が本人に十分伝わっていたか
  • 賠償額は約1,000万円。労災保険とは別に会社が負う民事賠償である
  • プレス機に限らず、操作方法が理解されなければ重大事故につながる業務すべてに関わる

「安全教育は実施しました」と答えられる企業でも、今回の判決は他人事ではありません。2024年7月31日、大阪地裁は、日本語を読めず会話もほとんどできない外国人労働者に、日本語だけの教材と先輩の短い実演だけでプレス機を扱わせていた会社について、安全配慮義務違反を認め、約1,000万円の賠償を命じたと報告されています(判決文は公表されておらず、本記事は関西労働者安全センターの報告に基づきます)。製造業・建設業・物流業で外国人を雇用するすべての企業に関わる判決です。この記事では、事案の経緯・判決の考え方・現場での対応策を順に押さえます。

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大阪地裁が認定した事故の経緯

事故が起きたのは2015年です。判決まで9年かかりました。なぜ今注目されるかというと、その間に争われた「教育の実質」という論点が、現在の外国人雇用の現場にそのまま当てはまるからです。

被災者は大阪府八尾市の金属加工会社で2014年2月頃から働いていた外国人の男性です。日本語は読めず、会話もほとんどできない状態でした。プレス機(金属板を型で打ち抜く機械)の操作を覚えたのは、同じ国の出身の先輩従業員による5分程度の実演だけ。分からない点はその先輩に教えてもらって作業しており、プレス機のセッティングなどは他の従業員が行っていて、男性にはその知識がありませんでした。

大阪地裁2024年7月31日判決(判決文は未公表。関西労働者安全センターの報告による)は、日本語の読み書きがほとんどできない外国人労働者に、日本語のみの教材と短時間の実演だけでプレス機を扱わせ、危険性や安全装置の点検方法を十分に教えていなかったとして、会社の安全配慮義務違反を認めたと報告されています。

2015年1月、男性は工場内でプレス機に指を挟まれ、後遺症を伴う重傷を負いました。その後、損害賠償を求める訴訟に発展し、2024年7月31日の大阪地裁判決を迎えます。

判決の核心——「十分な説明を受けていたとは評価できない」

報告によれば、裁判所は、教育をしたかどうかの形式ではなく、作業と指導の実態から、被災者がプレス機の危険性と取扱方法を十分に教わっていたかを判断しました。

報告によれば、大阪地裁は次の点を確認・判断しました。

  • 男性は日本語を読めず会話もほとんどできないのに、安全教育の教材は日本語だけで、男性の母国語の教材はなかった
  • 操作は先輩の5分程度の実演で覚えたもので、プレス機の危険性と取扱方法について十分な説明を受けていたとは評価できず、作業開始前に安全装置を点検する方法の指導も受けていなかった
  • 安全な操作方法を教育していれば事故は防げた

この結果、会社の安全配慮義務違反(労働契約法第5条が定める、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう使用者が必要な配慮をする義務)が認められ、約1,000万円の賠償が命じられたと報告されています。

教育の記録が残っていたかどうかは、報告には書かれていません。ただ、この判断の仕方からすると、「教育をした」という形式や記録があるだけでは足りず、「その教育は相手に届いていたか」が問われると考えておくべきです。

厚生労働省の通達「外国人労働者に対する安全衛生教育の推進等について」(平成31年3月28日 基発0328第28号。平成3年基発第39号「安全衛生教育及び研修の推進について」を改正し、外国人労働者向けの推進要綱を加えたもの)は明確に示しています。「当該外国人労働者の母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を確実に理解できる方法により行うこと」と。同じ趣旨は「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚生労働省告示第276号)にも「母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うこと」と定められています。判決がこれらの通達・指針に触れたかは報告からは分かりませんが、判決の考え方はこれらと同じ方向を向いています。

賠償額約1,000万円——労災保険とは別の話

「1,000万円は大企業の話だろう」と感じる方もいるかもしれません。ただ、これは国が支払う労災保険(治療費・休業補償など)とは別に、会社が直接負担する民事賠償の金額です。

民事賠償の主な内訳には次の項目が含まれます。

項目 内容
後遺障害逸失利益 後遺症で将来得られなくなる収入の損失分
慰謝料 後遺症・入通院による精神的苦痛
弁護士費用 訴訟費用の一部

手指に後遺障害が残った場合、年齢が若いほど「将来の収入損失期間」が長くなり賠償額が増えます。今後、同種事案が積み重なれば1,000万円を超える判決は十分に出てきます。金銭的損失に加え、取引先への信用低下といった数字に出ない影響も無視できません。

今回の被告は金属加工会社でした。安全配慮義務は会社の規模に関係なく負うもので、賠償リスクも規模を問いません。

労災保険は「国が払う保険給付」、民事賠償は「会社が直接払う賠償金」。両方が同時に発生する点が、外国人労働者の労災事案の大きな特徴です。

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波及範囲——プレス機を扱う製造業だけの話ではない

日本語が不自由な外国人労働者を機械設備の近くで働かせているのは製造業に限りません。この判決の論理は「操作方法が理解されなければ重大事故につながる業務すべて」に当てはまります。

リスクが高い代表的な業務は次のとおりです。

業種 代表的な業務
建設業 足場の組立て・解体、高所作業(フルハーネス着用)、玉掛け
物流業 フォークリフト操作、荷役・荷崩れ防止
製造業 プレス、旋盤、溶接、有機溶剤取扱い

これらはすべて、特別教育(危険有害業務に就く前に事業者が実施義務を負う教育)または雇入れ時教育(労働安全衛生法第59条)の対象です。

2024年(令和6年)の統計では、外国人労働者の死傷年千人率(1,000人あたりの死傷者数)は2.71です(厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」)。同じ令和6年10月末時点で、製造業には技能実習生だけで217,632人が就労しており(厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ。技能実習の在留資格で働く470,725人の46.2%)、語学の壁が事故リスクに直結しています。

外国人労働者の死傷率は依然として日本人労働者全体より高い水準にあります。この数字の背景に、今回の判決が問うた「言語の壁」があります。

安全配慮義務の法的全体像については「安全配慮義務と外国人労働者——判例から学ぶ「理解できない教育」のリスク」もあわせてご参照ください。

実務上の3つの教訓

この判決を踏まえ、現場責任者・法務・総務が今すぐ点検すべき対策を3点に絞ります。

教訓1:「教育を受けた記録」より「理解した記録」を残す

日付・内容・参加者リストだけでは不十分です。「教育の内容が伝わったこと」を証明できる記録が必要です。母国語で書かれた確認チェックシートへの本人署名、理解度テストの実施と結果保管、実技確認後のサインオフなどが有効な手段です。万一の監督署の調査でも即座に提示できる形にしておく必要があります。

教訓2:日本語のみの教材は今すぐ見直す

厚生労働省の通達が定めているのに、現場ではまだ日本語の教材しかない、という企業は少なくありません。正直なところ、教材の多言語化は「やりたいができていない」リストの上位に入りがちです。とはいえ、この判決の後では「着手できていない」ことのリスクが格段に上がりました。

優先すべき言語は、自社に在籍する外国人労働者の母国語から決めます。ベトナム語・中国語・インドネシア語が、現状の在留外国人構成から見て対応頻度の高い3言語です。

厚生労働省は「マンガでわかる働く人の安全と健康」を最大14言語(教材により11言語)で無料公開しています(中央労働災害防止協会・JISHA も外国語テキストを提供)。まず使える資料から手を付けてください。雇入れ時の法定8項目を母国語の動画と理解度テストまで一貫して実施したい場合は、Labona の雇入れ時安全衛生教育(5言語対応)のような業種横断の多言語 eラーニングも選択肢になります。

多言語対応の全体設計については「外国人労働者の安全衛生教育 完全ガイド」で詳しく解説しています。

教訓3:「先輩に聞けばいい」は安全体制として機能しない

今回の被災者は、分からない点を同じ国の出身の先輩に教えてもらいながら作業していました。一見すると「困ったときに相談できる環境がある」とも見えます。しかし裁判所は、こうした作業・指導の実態からは、プレス機の危険性と取扱方法について十分な説明を受けていたとは評価できないと判断したと報告されています。

非公式の伝達ルートは、その先輩が退職・異動・欠勤した瞬間に消えます。入社直後から、事業者が責任を持って全労働者に対して内容を直接届ける体制こそが、労働安全衛生法が求めるものです。雇入れ時教育の実施と記録の詳細は「雇入れ時安全衛生教育 完全ガイド」をご参照ください。

まとめ

2024年の大阪地裁判決(報告による)が示したのは、日本語を理解できない労働者に、日本語だけの教材と短い実演で機械を扱わせていたのでは、危険性と取扱方法を十分に説明したとは評価されない、ということです。

「教育をした」という記録や形式があるだけでは、安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たしたことにはなりにくいと考えるべきです。理解できる言語での教育と、理解を確認した記録の両方がセットです。今日中に自社の教育体制を点検し、日本語のみの教材が残っていれば多言語化の優先順位を上げてください。

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よくある質問

Q. 日本語のみの安全衛生教育は、すべて安全配慮義務違反になりますか?

労働者が日本語を十分に理解していれば、日本語での教育で問題ありません。今回問われたのは「日本語を理解できない労働者に対する日本語のみの教育」です。採用時に日本語能力を確認し、理解できることを記録しておくことが重要です。

Q. 通訳者を同席させれば安全配慮義務を果たせますか?

通訳の同席は有効な手段のひとつです。ただし、通訳者の専門用語の正確性を確認すること、通訳が不在の日の代替手段(多言語テキスト・動画教材)も合わせて準備しておくことが必要です。通訳だけに依存する体制は、通訳者の退職・欠勤で一瞬で機能しなくなります。

Q. 今回の判決は技能実習生・特定技能労働者にも適用されますか?

在留資格を問わず、雇用契約がある労働者すべてに安全配慮義務は適用されます。技能実習生・特定技能・日雇い労働者を問いません。育成就労制度(2027年施行予定)でも外国人労働者の権利保護がさらに強化される方向であり、対応が遅れるほどリスクは積み上がります。

Q. 小規模企業でも同様のリスクがありますか?

あります。安全配慮義務は従業員規模に関係なく、すべての使用者が負います。今回の被告会社も金属加工会社でした。むしろ、多言語教材の整備体制が整いにくい中小企業ほど注意が必要です。

Q. 厚生労働省の無料多言語教材だけでは不十分ですか?

厚生労働省の多言語マンガ教材(最大14言語)は無料で活用できる有力な出発点です。ただし、特定機械の操作手順や自社固有の作業リスクまではカバーしきれない場合があります。汎用教材に加えて、自社の作業手順書を母国語で補足するか、業種特化の多言語 eラーニングを組み合わせることで実効性が高まります。

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