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化学物質自律管理 2026年4月までの段階施行|外国人へのSDS周知

化学物質の自律管理は2022年公布から2024・2025・2026年と段階的に施行されました。各フェーズで何が変わったかを一次資料で整理し、新たに対象となった物質のSDS・GHSラベルを外国人労働者へ周知する実務を解説します。

化学物質自律管理 2026年4月までの段階施行|外国人へのSDS周知

「化学物質管理者は選任した。でも去年まで対象外だった薬品が対象になっていないか?」——2025年以降、この質問が増えています。化学物質の自律管理制度は2022年の公布から段階的に施行され、2025年4月と2026年4月に対象物質の範囲が大きく動きました。制度の考え方そのものは変わっていませんが、自社が使っている薬品が「いつから対象になったか」は変わっています。この記事は、制度の入門解説ではなく、フェーズごとに何が動いたかの整理と、新たに対象になった物質を外国人労働者へ周知する段取りに絞ってまとめます。

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段階施行のスケジュール — 2022〜2026年の全体像

制度は一度に始まったのではなく、公布から4年かけて段階的に動いています。まずどのフェーズで何が変わったかを押さえてください。

2022年5月: 改正労働安全衛生法関連省令が公布。GHS(化学品の危険有害性を国際共通のルールで分類・表示する仕組み)に基づくラベル表示・SDS交付の対象拡大、リスクアセスメント(危険有害性の事前調査)の見直し、化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任義務新設の方針が確定しました。

2024年4月1日(第1フェーズ施行): 最初の大きな節目です。リスクアセスメント対象物を製造・取り扱う事業場での化学物質管理者の選任(労働安全衛生規則第12条の5)と、リスクアセスメントの結果として労働者に保護具を使わせる場合の保護具着用管理責任者の選任(同第12条の6)が義務になりました。あわせて、2022年2月に公布された政令改正による234物質の追加が、この日から適用されています。この段階の詳細は化学物質管理者制度と外国人労働者の記事にまとめています。

2025年4月1日(第2フェーズ施行): 対象物質の決め方が変わりました。労働安全衛生法施行令の改正(令和5年政令第265号)により、別表に個別の物質名を列挙する方式から「クロム及びその化合物」のような包括的な記載方式に改められ、国のGHS分類で危険性・有害性があると区分された化学物質が広く対象に入る構造になっています。同じ日から、危険な場所での作業の一部を一人親方等に請け負わせる場合にも、退避や立入禁止といった労働者と同等の措置を講じることが事業者に義務づけられました。

2026年4月1日(第3フェーズ施行): 厚生労働省の特設サイトは「令和8年4月に約2900物質となり、今後も危険有害性が確認された物質を追加していきます」と説明しています。GHS分類で危険有害性が確認された物質を積み上げていく方針の帰結で、ここで打ち止めではありません。

この記事の執筆時点(2026年9月)では第3フェーズまで施行済みです。自社で使っている薬品が対象かどうかは、厚生労働省が公開しているラベル表示・SDS交付義務対象物質の一覧、または「職場のあんぜんサイト」の物質検索で確認できます。フェーズごとの数字を追うより、手元のSDSを一覧に突き合わせるほうが実務は早く進みます。

自律管理型への転換 — 旧規制との本質的な違い

改正前の化学物質規制は、国が「この物質はこう管理せよ」と個別に規定する個別規制型でした。有機則(有機溶剤中毒予防規則)・特化則(特定化学物質障害予防規則)・鉛則(鉛中毒予防規則)などです。業種ごと・物質ごとに規則が存在し、それぞれに定期健康診断・設備要件・教育義務が規定されていました。

改正後は自律管理型に移行します。事業者が自らリスクアセスメントを行い、ばく露の程度に応じた管理措置を選択・実施する仕組みです。国が「この物質は○○せよ」と全部決めてくれるのではなく、「あなたの職場でどのくらいばく露するか調べて、それに見合う対策を取りなさい」という考え方に変わります。

メリットは柔軟性です。同じ物質でも使用量・作業方法・換気条件によってリスクが変わるため、自律管理型のほうが実態に即した対策が取れます。デメリットは、事業者側の知識と管理体制が要求される点です。そして段階施行の局面では、**「対象物質が増える=棚卸しをやり直す作業が定期的に発生する」**という運用負荷が上乗せされます。

2025〜2026年の変更点 — 「数が増えた」の中身

第2・第3フェーズで動いたのは、物質数だけではありません。対象の決め方と、保護の対象者の範囲も動いています。

① 対象物質の決め方が「列挙」から「包括」へ

2025年4月1日施行の政令改正で、労働安全衛生法施行令別表第9に個別の物質名を並べる方式が、包括的な記載方式に改められました。「うちは有機則・特化則の対象物質を使っていないから関係ない」と考えていた現場でも、混合物の成分として含まれる物質が対象に入っているケースがあります。判断は薬品名ではなく、手元のSDSと最新の対象物質一覧の突き合わせで行ってください。

② 保護の対象が一人親方等にも広がった

2025年4月1日から、危険な場所での作業の一部を一人親方等に請け負わせる場合、退避や立入禁止といった労働者と同等の措置を講じることが事業者に義務づけられました(厚生労働省「個人事業者等の安全衛生対策について」)。化学物質を扱う工程を協力会社の個人事業者に任せている現場では、周知や措置の相手は自社が雇用する労働者だけではなくなります。

③ 引き続き「周知」までやって一区切り

リスクアセスメントは実施して終わりではなく、結果と講じる措置を対象業務に従事する労働者へ周知するところまでが規則上の義務です(労働安全衛生規則第34条の2の8第1項)。記録は次回のリスクアセスメントまで、3年以内に再実施した場合は3年間の保存が必要です。

濃度基準値の適用時期 — 増えるタイミングが物質数と別に動く

濃度基準値は対象物質の拡大とは別のスケジュールで追加されます。ここを混同すると測定計画がずれます。

濃度基準値は、労働安全衛生規則第577条の2第2項に基づいて厚生労働大臣が定めるもので、ばく露をこの値以下に抑えることが求められます。適用は告示ごとに時期が分かれています。

  • 令和5年4月27日告示: アクリル酸エチル等67物質。適用日は2024年4月1日
  • 令和6年5月8日告示: 追加の設定
  • 令和7年10月8日告示: 78物質を追加。適用は2026年10月1日

つまり、2026年10月から新たに測定・評価の対象になる物質があるということです。最新の設定物質は厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の濃度基準値一覧で確認できます。対象物質の一覧と濃度基準値の一覧は別ファイルなので、棚卸しでは両方を見てください。

新たに対象になった物質を外国人にどう伝えるか

フェーズ移行で厄介なのは、「去年は説明していない薬品」が今年から対象になる点です。ここが外国人労働者の多い現場でつまずきます。

自律管理型の制度では、SDS(安全データシート=危険有害性・取扱い方法・緊急時対応をまとめた文書)とGHSラベル(容器に貼る警告表示)が管理の起点になります。どちらも日本語で作成・提供されるのが標準です。

リスクアセスメントの結果と措置内容を対象業務の労働者に周知する義務(安衛則第34条の2の8第1項)に、使用言語を定めた規定はありません。ただし周知の方法として認められているのは掲示・書面交付・電子媒体の設置であり、読めない言語で掲示しても「周知した」実態にはなりません。大阪地裁2024年7月31日判決も、日本語の教育資料を渡しただけでは教育を実施したとはみなさないと判断しています(判例の詳細記事参照)。「SDSを渡した」「ラベルを貼った」で止めれば、安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点でも危うい状態です。

多言語での周知そのものの設計手順はリスクアセスメントの多言語実施ガイドにまとめてあるので、ここではフェーズ移行に固有の段取りだけを扱います。

フェーズ移行期の棚卸し3ステップ

対象物質が増えた年にやるべきことは、新規教育ではなく「差分を洗い出して、増えた分だけ伝える」ことです。

Step 1: SDSの再突合(差分の洗い出し)

自社で使用している化学物質のリストと、最新のラベル表示・SDS交付義務対象物質一覧を突き合わせます。混合物は成分ごとにSDSの危険性区分(健康有害性・物理化学的危険性)を確認してください。前回の棚卸し以降に新しく対象に入った物質だけを抜き出せば、周知すべき範囲が確定します。あわせて濃度基準値の一覧も確認し、測定が必要になる物質を分けておきます。

Step 2: 増えた分の「1枚もの」を母国語で作る

新規対象物質について、以下の4点を母国語で1枚にまとめます。全文翻訳は不要です。

  • この化学物質にどんな危険性・有害性があるか
  • どの作業でばく露するか、その程度は
  • 保護具の着用方法(呼吸用保護具・手袋・保護眼鏡の種類と使い方)
  • 事故・漏洩時の緊急対応手順

GHSラベルの絵表示は国際共通ですが、意味は絵だけでは伝わりません。厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に絵表示9種類の名称と意味の一覧(日本語)があるので、これを土台に母国語テキストを添えた掲示物を作るのが現実的です。

Step 3: 周知の記録に「いつ・誰に・何語で」を残す

理解度は口頭確認だけでなく、母国語の選択式テストなど形の残る方法で確認します。記録には対象者・実施日に加えて使用言語を書いてください。フェーズ移行のたびに追加周知した履歴が残っていることが、監督署や元請監査での説明材料になります。なお安衛則第38条は特別教育の記録を3年間保存する義務を定めた規定で、化学物質の教育記録そのものを直接縛るものではありませんが、リスクアセスメントの記録保存(3年間)と足並みをそろえておくと管理が楽です。

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業種別 対応優先度

以下の業種では、段階施行で新たに対象になった物質や、個別規則と重なる義務に特に注意が必要です。

溶接業(建設・製造): 溶接ヒュームは労働安全衛生法施行令別表第3第2号に掲げられた特定化学物質(第2類物質)で、2021年4月から特定化学物質障害予防規則の対象です。屋内作業場での全体換気等の実施と有効な呼吸用保護具の使用が求められ、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場で面体のある呼吸用保護具を使わせるときは、1年以内ごとに1回、適切に装着されているかを確認して記録を3年間保存する義務があります(特化則第38条の21第9項)。溶接ヒューム濃度の測定は、作業方法を新たに採用するとき・変更するときに求められるもので(同条第2項)、毎年行う定期測定ではありません。外国人溶接工への多言語教育とあわせて整理してください。詳しくはアーク溶接特別教育の外国語実施ガイドを参照してください。

塗装業(建設・製造): 有機溶剤(トルエン・キシレン・酢酸エチル等)は引き続きリスクアセスメント対象です。塗装業では呼吸域での有機溶剤ばく露が高く、換気設備と呼吸用保護具の両方が必要になります。有機溶剤業務従事者安全衛生教育の記事も参照してください。

洗浄業(電子部品・食品): トリクロロエチレン等の塩素系溶剤を使う洗浄ラインは特定化学物質としての規制を受けます。段階施行で対象が広がったのは、こうした主要溶剤の周辺にある補助剤・希釈剤のほうです。棚卸しでは主剤だけでなく、少量しか使わない薬品のSDSまで見てください。

食品加工(粉体処理): 冷媒や洗浄剤に加え、粉体の取扱い工程では可燃性粉じんの管理も論点になります。使用量が少なく台帳に載っていない薬品が残っていないか、現場の保管棚を実際に見て確認するのが確実です。

まとめ

化学物質の自律管理は2022年公布・2024〜2026年の段階施行で構築されました。2025年4月には対象物質の決め方が個別列挙から包括方式に変わり、2026年4月時点では厚生労働省が約2900物質と説明する規模になっています。濃度基準値はこれとは別の告示スケジュールで増え、2026年10月に適用される追加分もあります。

やるべきことは制度の作り直しではなく、フェーズごとの差分の棚卸しです。①最新の対象物質一覧と濃度基準値一覧に手元のSDSを突き合わせて新規対象を洗い出す、②増えた分だけ母国語の1枚ものを作る、③いつ・誰に・何語で周知したかを記録する——この3つを施行のたびに回してください。「外国人には日本語で伝えた、あとは本人次第」で止めると、周知義務(安衛則第34条の2の8)も安全配慮義務(労働契約法第5条)も満たしたことになりません。

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よくある質問

Q. 化学物質管理者を選任していない事業場はどうすればよいですか?

リスクアセスメント対象物を製造し、または取り扱う事業場ごとに化学物質管理者を選任する義務があります(安衛則第12条の5第1項)。選任は事由が発生した日から14日以内に行い、氏名を事業場の見やすい箇所に掲示するなどして関係労働者に周知する必要があります(同条第3項・第5項)。まず使用している化学物質にリスクアセスメント対象物が含まれるかを確認し、含まれる場合は速やかに選任してください。

Q. GHSラベルは日本語のままでよいですか?外国語版は義務ですか?

ラベルそのものを外国語で作成する義務は現在ありません。ただし、外国人労働者がGHSラベルの意味を理解できない状態で化学物質を取り扱わせることは、安全配慮義務上の問題があります。ラベルの日本語テキストに対応する多言語の補足掲示を職場に貼るか、作業前に母国語で説明する機会を設けることが実務上推奨されます。

Q. リスクアセスメントの結果はどこまで外国人労働者に開示する必要がありますか?

周知の義務は安衛則第34条の2の8第1項が定めており、対象は「リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者」です(安衛則第12条の5は化学物質管理者の選任と管理事項を定めた規定で、周知義務の根拠条文ではありません)。外国人労働者をこの対象から除外する理由はなく、理解できる形での周知が求められます。周知すべき事項は物質名・業務内容・リスクアセスメントの結果・講じる措置の内容の4点です。全文翻訳が難しくても、「どんな危険があるか」「どの保護具を使うか」「漏洩時の手順」の3点は最低限、母国語で伝えてください。

Q. 有機則・特化則など既存の個別規則と自律管理制度はどちらが優先されますか?

有機則・特化則等の個別規則は廃止されておらず、対象物質についてはこれまでどおり適用されます。自律管理型の義務(リスクアセスメント・管理者選任等)は、個別規則に加わる形です。個別規則の対象にならない物質がリスクアセスメント対象に含まれている場合は、自律管理型の義務だけが適用されます。

Q. 中小事業場(従業員10人未満)も対象ですか?

リスクアセスメント対象物を取り扱う事業場は規模を問わず対象です。ただし化学物質管理者の選任要件は事業場の区分で分かれており、リスクアセスメント対象物を製造している事業場は厚生労働大臣が定める講習を修了した者(またはこれと同等以上の能力を有すると認められる者)から選任する必要があります。それ以外の事業場は、安衛則第12条の5第1項各号の事項を担当するために必要な能力を有すると認められる者からでも選任できます(同条第3項第2号)。自社がどちらに当たるか判断に迷う場合は、都道府県労働局への確認を推奨します。

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