要約
- ゴンドラの操作の業務の特別教育(安衛則第36条第20号)は学科5時間・実技4時間、合計9時間以上が必要
- 学科は「ゴンドラに関する知識2時間/電気に関する知識2時間/関係法令1時間」、実技は「操作及び点検3時間/操作のための合図1時間」
- 実施義務は事業者にあり、未受講のまま作業させると労働安全衛生法第119条第1号の罰則が適用される
- 厚生労働省の外国人雇用管理指針は「母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法」での実施を求めている
- フルハーネス特別教育・ロープ高所作業特別教育との混同が多いが、それぞれ別の修了が必要
「ゴンドラの操作は日本語で説明してある。でも、外国人スタッフが本当に内容を理解しているかというと、確信が持てない」——ビルメンテナンスや外装清掃の現場担当者から、そういった声を耳にすることが増えています。
この記事では、労働安全衛生規則(安衛則)第36条第20号が定める「ゴンドラの操作の業務」の特別教育の内容と、外国人労働者に外国語で実施するための法的根拠・実務手順を整理しました。2026年9月時点の法令にもとづき、ビルメンテナンス・外装清掃・広告設置工事の現場担当者が「何をすれば法令を満たせるか」を具体的に示します。
ゴンドラの操作の業務の特別教育とは|安衛則第36条第20号
ゴンドラを操作する作業には、事業者に特別教育の実施義務があります。根拠は労働安全衛生規則(安衛則)第36条第20号で、条文は対象業務を「ゴンドラの操作の業務」と定めています。ゴンドラ安全規則第12条第1項にも同じ趣旨の規定があります。
条文が「搭乗」ではなく「操作」と書いている点は、実務では意外と効いてきます。昇降スイッチや操作盤を扱う人が対象であり、名目上の同乗者かどうかではなく、誰が実際に機械を動かすかで判断します。
ゴンドラの定義は、ゴンドラ安全規則(昭和47年労働省令第35号)第1条第1号が労働安全衛生法施行令第1条第11号を引く形で置かれています。同号はゴンドラを「つり足場及び昇降装置その他の装置並びにこれらに附属する物により構成され、当該つり足場の作業床が専用の昇降装置により上昇し、又は下降する設備」と定義しています。この定義に当てはまる機械を使って作業に従事させる場合は、業種を問わず特別教育が必要です。ビルメンテナンスだけの話ではなく、外壁の塗装・補修、広告看板の設置・撤去、窓ガラスの取替えなども対象に含まれます。
未受講のまま作業させた場合、労働安全衛生法第59条第3項違反として、同法第119条第1号の罰則(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が科せられます。罰則を受けるのは事業者です。受講者側ではありません。
根拠法令:労働安全衛生法第59条第3項 → 労働安全衛生規則第36条第20号/ゴンドラ安全規則第12条 → ゴンドラ取扱い業務特別教育規程(昭和47年労働省告示第121号)第2条・第3条
学科5時間・実技4時間の内訳
特別教育の時間数は、学科5時間以上・実技4時間以上の合計9時間以上です。科目と時間の内訳を定めているのは、安全衛生特別教育規程ではなく ゴンドラ取扱い業務特別教育規程(昭和47年労働省告示第121号) です。学科が第2条、実技が第3条に置かれています。
学科は3科目で構成されます。
ゴンドラに関する知識(2時間)
ゴンドラの種類および構造、安全装置(ブレーキ・過荷重防止装置・昇降停止装置など)、点検および整備の方法を学びます。操作前点検の手順もここに含まれます。
ゴンドラの操作のために必要な電気に関する知識(2時間)
電動式のゴンドラを安全に操作するための電気の基礎知識です。漏電・感電のリスクと対処法も含まれます。学科5時間のうち2時間がここに割かれている点は見落とされがちです。
関係法令(1時間)
労働安全衛生法、労働安全衛生規則、ゴンドラ安全規則のうち、ゴンドラ作業に関係する条文を学びます。
実技も2科目に分かれています。
ゴンドラの操作及び点検(3時間)
実機を使い、起動・停止・緊急停止と作業前点検を実際に行わせます。
ゴンドラの操作のための合図(1時間)
作業床の上と地上・屋上との間で合図をやり取りする訓練です。外国人スタッフを含むチームでは、この1時間の設計がそのまま現場の事故率に効いてきます。合図の言葉と手信号を全員が同じ意味で使えるかを確認してください。
学科と異なり、実技は現場での対面実施が前提です。令和3年1月25日の厚生労働省通達(基安化発0125第1号等)は、インターネット等を介したeラーニングによる安全衛生教育を認めていますが、これが適用されるのは学科部分です。したがって「学科はオンラインで個別に完了させ、実技は職場のベテランが対面で担当する」というハイブリッド型が、特別教育の現実的な設計になります。スタッフが複数の建物に分散配置されている場合でも集合研修に合わせて移動する必要がなく、コスト面でも差が出ます。
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ゴンドラの種類と対象業務の整理
施行令の定義にあるとおり、ゴンドラは「つり足場」と「専用の昇降装置」の組み合わせです。建物に恒久的に設置されているものも、工事期間中だけ屋上から吊り下げて使うものも、この構成を満たせば同じくゴンドラとして扱われます。
対象となる業務の代表例は次のとおりです。
- ビルの外壁清掃・洗浄
- 外壁塗装・補修・コーキング
- 窓ガラスの取替え・フィルム施工
- 屋外広告(サイン・看板)の設置・撤去・メンテナンス
- 空調設備・通信機器の外壁取付け作業
一方、この定義に当てはまらない機械は別の特別教育の対象です。ロープに身体を保持して行ういわゆるブランコ作業は安衛則第36条第40号のロープ高所作業特別教育、作業床の高さが10メートル未満の高所作業車の運転は同条第10号の5の特別教育に振り分けられます。機器の種類を確認してから教育計画を立ててください。
外国人労働者に「理解できる言語で」実施しなければならない根拠
根拠は2つの層に分かれています。どちらも押さえておくと、社内で説明するときに話が早くなります。
1つ目が、厚生労働省の告示である「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚生労働省告示第276号)です。安全衛生教育について次のように定めています。
「事業主は、労働安全衛生法等の定めるところにより外国人労働者に対し安全衛生教育を実施するに当たっては、母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うこと。特に、外国人労働者に使用させる機械設備、安全装置又は保護具の使用方法等が確実に理解されるよう留意すること。」
指針である以上、この一文それ自体に罰則はありません。ただし労働局・労働基準監督署の行政指導の根拠になりますし、「母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等」という手段まで告示に書き込まれている点は重く見ておくべきです。なお特別教育を実施すること自体は指針ではなく安衛法第59条第3項の義務で、こちらには前述の罰則があります。
2つ目が安全配慮義務(労働契約法第5条:使用者が労働者の生命・身体等の安全を確保するよう配慮する義務)です。日本語だけで教育を実施すると「形式的には受講記録がある、でも内容は理解できなかった」という状態に陥りがちで、事故後の民事賠償で使用者側が不利になる要因になり得ます。受講記録の有無ではなく、理解できたかどうかが問われる場面がある、という理解で計画を立ててください。
高所作業での外国人被災事例|ビルメンテナンス・清掃業の実情
外国人労働者の労働災害は増加が続いています。厚生労働省の統計では、休業4日以上の死傷者数(死亡を含む)は令和7年に7,124人で、平成28年の2,211人から約3.2倍になりました。死傷年千人率は2.77と、全労働者の2.32を上回っています。厚生労働省や各労働局は、その背景として作業経験の短さに加え、日本語の理解が十分でないために職場の危険が伝わりきらないことを挙げています。
ゴンドラ作業に限定した公表統計は見当たりませんが、高所・単独作業という性質を考えると、教育内容が伝わっていないことの影響は他業務より大きく出ると見込まれます。
ビルメンテナンスや清掃業での典型的な被災パターンとして、次のようなものがあります。
- 操作パネルの誤操作による急降下(「停止」と「下降」ボタンを取り違える)
- 過荷重による安全装置の作動後、復旧手順を誤る
- 強風時に作業を続け、ゴンドラが建物に衝突する
- ロープの点検を怠り、経年劣化したワイヤが破断する
いずれも、機器の仕組みと安全手順を「自分の言葉で」理解していれば回避できる事故です。緊急時の対応(緊急停止の方法、救助要請の手順)も含めて母国語で理解させることが、安全配慮義務の核心です。
フルハーネス特別教育・ロープ高所作業特別教育との違い
ゴンドラ作業に関連して、よく聞かれる混同が2つあります。
フルハーネス型墜落制止用器具特別教育(安衛則第36条第41号)との関係
安衛則第36条第41号の対象は「高さが2メートル以上で作業床を設けることが困難なところにおいて、フルハーネス型の墜落制止用器具を用いて行う作業」です。ゴンドラは作業床を備えているため、ゴンドラの中で作業している限りこの号には当たりません。ただしゴンドラへの乗り移りや、作業床の外に身を出す作業など、作業床がない状態でフルハーネスを使う場面があるなら、フルハーネス特別教育を別途修了させる必要があります。ゴンドラ特別教育の修了では代替できません。自社の作業がどちらに当たるかは、作業手順書を見て個別に判断してください。
ロープ高所作業特別教育(安衛則第36条第40号)との関係
第40号の対象は、高さ2メートル以上で作業床を設けることが困難なところにおいて、上方の支持物にロープを緊結して吊り下げ、そのロープに身体を保持しつつ行う作業です(40度未満の斜面での作業は除きます)。ゴンドラは機械が作業床を提供する仕組みなので、対象業務が根本的に異なります。ゴンドラの特別教育を修了してもロープ高所作業には従事できず、逆も同様です。
両方の業務に従事させる事業者は、それぞれの特別教育を修了させる必要があります。
5言語対応の選択肢と選定基準
外国人スタッフにゴンドラの操作の業務の特別教育を外国語で実施するには、大きく3つのルートがあります。
① 自社翻訳による教材作成
既存の日本語テキストを自社で翻訳する方法です。初期費用は抑えられます。ただし「安全装置」「過荷重防止」「昇降停止装置」などの専門用語は一般的な翻訳ツールでは対応しきれないことが多く、誤訳のリスクが伴います。法令が改正されたときの更新コストも継続して発生します。
② 外部翻訳ベンダーへの委託
翻訳専門会社に依頼する方法です。品質は高まります。しかし1言語あたり数十万円の費用と数週間のリードタイムが発生します。日英越中インドネシア語の5言語をそろえようとすると、費用が相当膨らみます。
③ 多言語対応eラーニングの活用
最初からゴンドラ取扱業務の特別教育として設計された多言語コンテンツを利用する方法です。選定時に確認すべき基準は次のとおりです。
- ゴンドラ取扱い業務特別教育規程第2条の学科3科目(ゴンドラに関する知識2時間・電気に関する知識2時間・関係法令1時間)を、時間配分まで含めて網羅しているか
- 理解度テスト(修了確認)が組み込まれているか
- 受講記録(誰がいつ何分受講したか)が安衛則第38条の3年保存に耐える形で保管・エクスポートできるか
- 日英越中インドネシア語の5言語に対応しているか
「動画を見せた」だけでは記録として不十分です。受講完了と理解度確認の記録が自動で残る仕組みが、元請監査や労基署調査への対応を楽にします。
Labona のゴンドラ取扱業務特別教育(学科)は現在準備中です。公開前でも受注制作として個別に対応できますので、必要時期が決まっている場合はご相談ください。実技は事業者様にて実施いただきます。
まとめ
「ゴンドラの操作の業務」の特別教育は、安衛則第36条第20号とゴンドラ安全規則第12条に基づく事業者の法的義務です。科目と時間はゴンドラ取扱い業務特別教育規程が定めており、学科は「ゴンドラに関する知識2時間・電気に関する知識2時間・関係法令1時間」、実技は「操作及び点検3時間・操作のための合図1時間」の合計9時間以上です。外国人労働者への実施は「母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、その内容を理解できる方法」で行うことが厚生労働省の指針に書かれています。フルハーネス特別教育やロープ高所作業特別教育とは対象業務が異なり、必要ならそれぞれ別に修了させなければなりません。まず自社で使用しているゴンドラの台数と、操作する外国人スタッフの人数・使用言語を洗い出すことから始めましょう。
よくある質問
Q. ゴンドラの特別教育はオンラインだけで完了できますか?
学科(5時間)はオンラインで受講できます。令和3年1月25日の厚生労働省通達(基安化発0125第1号等)が、要件を満たすeラーニングによる安全衛生教育を認めているためです。一方で実技(4時間)は実機を使う科目なので、現場での対面実施が前提になります。「学科オンライン+現場で実技」のハイブリッド型が現実的な組み方です。
Q. 外国人スタッフが日本語で受講した場合、特別教育の記録として認められますか?
記録として残すこと自体は可能です。ただし厚生労働省の指針は「理解できる方法により行うこと」を求めており、内容を理解していない状態での受講は、安全配慮義務を果たしたとは言いにくくなります。事故が起きた後の民事賠償で使用者側の主張が通りにくくなる要因になり得るため、母国語対応をお勧めします。
Q. フルハーネス特別教育とゴンドラの特別教育は同時に修了できますか?
それぞれ独立した特別教育なので、科目と時間はそれぞれ満たす必要があります。ただし同日・同期間に両方の教育を実施することは法令上禁止されていません。複数の特別教育をまとめて計画すると、受講のための拘束時間を減らせます。
Q. 特別教育の記録はいつまで保管する義務がありますか?
労働安全衛生規則第38条により3年間の保存が義務付けられています。条文が求めているのは「当該特別教育の受講者、科目等の記録」で、実務上は実施年月日・受講者氏名・科目・時間数・実施者を残しておくと、元請や労働基準監督署から求められたときにそのまま出せます。即時エクスポートできる形で管理しておくと安心です。
Q. 一人で操作できるゴンドラでも特別教育は必要ですか?
必要です。安衛則第36条第20号の対象は「ゴンドラの操作の業務」であり、一人乗り・二人乗りといった規模や操作の難易度は要件に影響しません。実際に操作する作業員は全員、事前に特別教育を修了させてください。逆に、操作をまったく行わない同乗者はこの号の対象ではありませんが、その場合も雇入れ時教育や作業手順の周知は別途必要です。
Q. 特定の業種だけに義務が課されているのですか?
業種を問わず義務があります。ビルメンテナンス・清掃業だけでなく、外壁塗装・補修、広告設置、建設・電気工事など、施行令第1条第11号のゴンドラを操作させるすべての事業者が対象です。
関連ガイド
参考一次資料
- 労働安全衛生規則 第36条第20号(ゴンドラの操作の業務)- e-Gov法令検索
- ゴンドラ安全規則(昭和47年労働省令第35号)第1条・第12条 - e-Gov法令検索
- 労働安全衛生法施行令 第1条第11号(ゴンドラの定義)- e-Gov法令検索
- ゴンドラ取扱い業務特別教育規程(昭和47年労働省告示第121号)- 厚生労働省法令等データベース
- 労働安全衛生法 第59条第3項・第119条 - e-Gov法令検索
- 外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(平成19年厚生労働省告示第276号)- 厚生労働省法令等データベース
- インターネット等を介したeラーニング等により行われる安全衛生教育等の実施について(令和3年1月25日 基安化発0125第1号等)- 厚生労働省
- 外国人労働者の労働災害発生状況 - 職場のあんぜんサイト(厚生労働省)
- 外国人労働者の安全衛生管理 - 厚生労働省


