要約
- 2027年4月1日から育成就労制度が施行(技能実習制度の後継)
- 育成就労労働者は労安法上の「労働者」 → 雇入れ時教育・特別教育・職長教育がすべて適用
- 「日本語で教育したが理解されていなかった」は 安全配慮義務違反のリスクあり
- 受入企業が今すぐ準備すべき5つのことを後段で具体化
2024年6月に成立した改正入管法により、これまでの 技能実習制度に代わる「育成就労制度」が 2027年4月1日に施行 されることが正式決定しました。受入企業にとっての最大の論点のひとつが、外国人労働者への安全衛生教育の義務範囲が実務上どう変わるか です。
検索しても「制度全体の解説」は多い一方、「安全衛生教育の義務」に踏み込んだ記事はほとんどありません。本記事では、現行の労働安全衛生法(労安法)との関係を整理しながら、受入企業が施行までに準備しておくべき具体的なアクションを5つに絞って解説します。
そもそも育成就労制度とは
育成就労制度は、技能実習制度の問題点(実態としての「労働力確保」と建前としての「国際貢献」の乖離・転籍制限・人権問題)を踏まえて設計された、新しい外国人材の受入枠組みです。
主な変更点(技能実習制度との比較)
| 項目 | 技能実習制度(〜2027年3月) | 育成就労制度(2027年4月〜) |
|---|---|---|
| 目的 | 技能移転による国際貢献 | 人材確保+人材育成 |
| 在留期間 | 最長5年(1号〜3号) | 原則3年(特定技能1号への移行を前提) |
| 転籍 | 原則不可 | 1〜2年経過後に同一分野内で可能 |
| 日本語要件 | なし(業種により推奨) | CEFR A1(日本語能力試験 N5 相当)以上 |
| 監理団体 | 監理団体(許可制) | 監理支援機関(許可制) |
| 対象分野 | 90職種165作業 | 特定技能とほぼ同一の分野(順次決定中) |
技能実習で実態として行われていた人材確保を正面から認める制度に変わる、と考えると分かりやすいでしょう。
育成就労労働者は「労働者」である
育成就労制度の議論で最も重要なのに見落とされがちなポイント がここです。
育成就労労働者は、労働基準法・労働安全衛生法上の「労働者」として保護されます。
これは技能実習生と同じです。つまり、労安法 第59条(雇入れ時等における安全衛生教育)も、第60条(職長等の教育)も、第61条(就業制限)も、すべてそのまま適用されるということです。
受入企業に課される安全衛生教育の義務(労安法ベース)
労働安全衛生法に基づき、育成就労労働者の受入企業(=雇用主)は次の教育を実施する義務があります。
1. 雇入れ時安全衛生教育(労安法第59条第1項)
すべての労働者を雇い入れたときに行う教育です。建設業・製造業・物流業を含むほぼ全業種で必須です。
令和6年4月の拡充により、これまで一部業種に限定されていた教育項目が、原則すべての業種で必須化されました。 育成就労労働者にもこの拡充後の内容が当然適用されます。
教育する内容(労働安全衛生規則第35条):
- 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法
- 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法
- 作業手順
- 作業開始時の点検
- 業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防
- 整理、整頓及び清潔の保持
- 事故時等における応急措置及び退避
- その他業務に関する安全又は衛生のために必要な事項
2. 作業内容変更時の安全衛生教育(労安法第59条第2項)
労働者の作業内容を変更したとき(部署異動・職種変更等)にも、雇入れ時と同じ内容の教育を実施する義務があります。
3. 特別教育(労安法第59条第3項)
危険又は有害な業務に従事させるときに必要な教育。フルハーネス型墜落制止用器具の使用、フォークリフトの運転、アーク溶接、低圧電気取扱業務など、59種類の業務 が対象です。
4. 職長等教育(労安法第60条)
職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者に対する教育。建設業・製造業(一部)・電気業・ガス業・自動車整備業・機械修理業が対象です。
ここからが本題:「日本語が分からない労働者」への教育は成立するか
労安法は「教育を実施せよ」と命じていますが、「日本語で実施せよ」とは命じていません。
実は厚生労働省も、「外国人労働者に対する安全衛生教育は、その内容を理解できる方法で行わなければならない」という趣旨の通達を出しており、これは安全配慮義務の解釈とも一致しています。
つまり実務的には、「教育を実施したが、本人が理解できなかった」状態は、労安法上の教育義務を果たしたとは言えない可能性が高い のです。
過去には、日本語のみで安全教育を行った企業が、外国人労働者の労災事故において安全配慮義務違反を問われた裁判例もあります。
結論
育成就労制度の施行を前に、外国人労働者の母国語または十分に理解できる言語で安全衛生教育を実施する体制 を整えておく必要があります。
受入企業が今すぐ準備すべき5つのこと
施行は 2027年4月 ですが、準備は今から始めるべきです。1年前から動けば余裕、半年前からだと厳しい というのが現場の実感です。
Step 1. 受入予定国・言語の棚卸し
自社が育成就労で受入を予定している国(または現在の技能実習生の国籍)を把握し、対応すべき言語を確定します。
| 受入実績の多い国 | 対応すべき言語 |
|---|---|
| ベトナム | ベトナム語 |
| インドネシア | インドネシア語(または英語) |
| フィリピン | 英語(タガログ語) |
| 中国 | 中国語(簡体字) |
| ミャンマー | ビルマ語(または英語) |
| ネパール | ネパール語(または英語) |
Step 2. 既存の安全衛生教育コンテンツの言語ギャップを洗い出す
社内で使っている安全衛生教育の教材(動画・テキスト・テスト)が、どの言語に対応しているかを棚卸しします。多くの場合、日本語のみ という結果になります。
Step 3. 多言語化の方法を選定する
選択肢は大きく3つあります。
- 既存教材を翻訳する: 確実だが、字幕作成・吹替・テスト翻訳までやると数十万円〜数百万円のコストがかかる
- 多言語対応の eラーニングサービスを導入する: 自社制作より安価で、メンテナンスの手間も移せる
- 厚労省の多言語マニュアルを補助的に使う: 無料だが、業種特化や更新性に難あり
Step 4. 受講記録の保管体制を整える
労安法上、安全衛生教育の実施記録は 3年間の保管義務 があります(規則第38条)。育成就労労働者についても同じです。紙の管理から、デジタルでログが残る eラーニングへの移行が現実的です。
Step 5. 監理支援機関との認識合わせ
新制度では、監理団体に代わる「監理支援機関」が受入企業の指導・監督を行います。監理支援機関側も安全衛生教育の実施状況を確認する立場になるため、「うちはこういう体制でやっている」と説明できる資料を整備しておく ことが重要です。
まとめ
育成就労制度(2027年4月施行)の下では、外国人労働者は労安法上の保護対象であり、雇入れ時教育・特別教育・職長教育などの義務がそのまま適用されます。
ただし、教育は 「労働者本人が理解できる方法で」 行わなければならず、日本語のみの教育では安全配慮義務違反のリスクが残ります。
特に多言語化の準備は、コンテンツ制作・翻訳・テスト設計を含めると 準備期間 6〜12ヶ月 を見ておく必要があります。今すぐ手を付ける価値があります。
要点
- 育成就労労働者は労安法上の「労働者」。雇入れ時教育・特別教育・職長教育がすべて適用される。
- 教育は「本人が理解できる言語で」実施する必要がある。日本語のみは安全配慮義務違反のリスク。
- 受入予定国・言語の棚卸しから始める。ベトナム/中国/インドネシア/英語の優先順位が高い。
- 教育記録は3年保管が法定義務(規則第38条)。eラーニングのデジタル記録への移行が現実解。
- 施行は2027年4月。多言語化の準備は6〜12ヶ月かかるため、今すぐ着手すべき。



