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「やさしい日本語」と母国語教材の使い分け|外国人への安全衛生教育の言語設計

安全衛生教育で「やさしい日本語」と母国語教材はどう使い分けるか。N4レベルでも通じない専門用語の落差、翻訳アプリの誤訳リスク、現場の掲示・標識・朝礼での実践例まで、外国人混在職場の教育担当者へ向けて実務目線で整理しました。

「やさしい日本語」と母国語教材の使い分け|外国人への安全衛生教育の言語設計

外国人の従業員が増えてきた現場で、「看板をひらがなにした」「朝礼はゆっくり話している」という取り組みをよく聞きます。それ自体は正しい方向です。ただ、ひとつ確認しておきたいことがあります。その工夫は、安全衛生教育(入社時や危険な業務に就く前に義務として行う安全の授業)の代わりになるか、ということです。

「やさしい日本語」と「母国語での安全教育」は、同じ場面には使えません。正直なところ、この二つを混同したまま運用している職場が少なくないのが現状です。本記事では、それぞれをいつ・どう使い分けるかを、現場の実践例とあわせて整理します。

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「やさしい日本語」とは何か

やさしい日本語とは、日本語を簡単な言葉と短い文で伝える方法です。

2020年8月、出入国在留管理庁(外国人の在留を管理する国の機関)と文化庁が共同で「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」を公表しました。日本語が苦手な外国人にも行政情報や日常のお知らせが伝わるよう、書き言葉・話し言葉それぞれの作り方をまとめたものです。

やさしい日本語の主なルールはこうです。

  • 一文は30字前後におさめる
  • 難しいカタカナは別の言葉に言い換える(「アコモデーション」→「住む場所」)
  • 漢字にはふりがなをつける
  • 主語を省略しない

厚生労働省も、外国人労働者への通知文などにやさしい日本語を使うよう事業者に促しています。

ここがポイントなのですが、やさしい日本語はあくまで「日常のコミュニケーション」のためのツールです。安全衛生教育の代替にはなりません。その理由を次の節で説明します。

N4でも安全教育の日本語は届かない

技能実習や特定技能(一定の業務で外国人が働ける在留資格)で来日する外国人の多くは、日本語能力試験(JLPT)のN4レベル前後の日本語力を持っています。N4とは「ゆっくり話せば日常会話がある程度理解できる」水準です。

ところが、安全衛生教育で出てくる言葉はこういったものです。

  • 「墜落制止用器具」(落下を防ぐためのベルト・ハーネスのこと)
  • 「局所排気装置」(有害なガスや粉じんを機械で外に出す設備のこと)
  • 「重篤な健康障害」(命に関わるほど深刻な体の異常のこと)
  • 「安全配慮義務」(雇い主が従業員を危険から守る法的な責任のこと)

これらはN4どころか、N1(最上位レベル合格者)でも馴染みの薄い専門語です。試験参考書には載っていません。安全教育の教材には、こういう言葉がごく普通に登場します。

現場の方ならご存知のとおり、作業中は「もう一度聞いてよいですか」と言い出しにくい空気があります。理解できないまま「わかりました」と答えてしまう外国人労働者は多い。それが事故につながります。

「日常会話ができる人に日本語で教育した」だけでは、安全衛生教育の義務を果たしたとは認められないリスクがあります。大阪地裁の2024年7月の判決でも、「教育を実施した記録はあるが、労働者が理解できる言語で行われていなかった」という点で企業側の責任が認められました。記録があるだけでは不十分なのです。

原則は「教育は母国語・指示はやさしい日本語」

整理すると、場面によって使い分けます。

母国語の教材を使う場面

  • 雇入れ時の安全衛生教育(入社時に全員が受ける義務的な教育)
  • 特別教育(フォークリフト・高所作業・電気工事など、危険な業務につかせる前の教育)
  • 理解度確認テスト(教育内容が伝わっているか確かめるテスト)
  • 安全手順書・作業マニュアルの交付

やさしい日本語を使う場面

  • 朝礼での当日の作業説明
  • 現場の掲示・安全標識
  • 日常的な声かけや指示

この使い分けの理由はシンプルです。教育は「深く理解させること」が法的な義務であり、日常の指示は「伝わればよい」という性質のものだからです。

厚生労働省の「外国人労働者安全衛生管理の手引き」にも、外国人労働者への教育は母国語や視覚教材を活用することが明示されています。「やさしい日本語に直した資料を読ませた」「ゆっくり日本語で説明した」だけでは、教育義務を果たしたとは言えません。

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現場での実践例(掲示・標識・朝礼)

「教育は母国語・指示はやさしい日本語」と言われても、現場への落とし込み方がわからないという声をよく聞きます。具体的にはこういった実践が効果的です。

現場の掲示物・安全標識

安全標識にはISO7010で定められた国際ピクトグラム(言語によらず伝わる絵記号)があります。ピクトグラム自体に言語の壁はないのですが、日本の現場ではその下に日本語のみで文章を添えているケースが多い。ここをやさしい日本語+母国語の2段表記に変えるだけで、理解度が変わります。

厚生労働省の京都労働局が、「外国人労働者の労働災害防止のための表示」として多言語対応のイラスト素材を無料公開しています。ベトナム語・中国語・英語などに対応した素材がそのまま使えます。

朝礼での安全確認

当日の作業内容と注意箇所を共有する場です。実は、ここはやさしい日本語が最も生きる場面です。

  • 一文30字以内、主語を必ず入れる(「山田さんは3階の足場で作業します」)
  • 指差し呼称(指差しながら声に出して確認する動作)は言語を超えた確認動作として有効
  • その日の最大のリスクを1点だけ全員に言わせる

外国人が多い班では、やさしい日本語で書いた当日の作業シート(A4・1枚)を前日に配布し、朝礼前に自分の言語の辞書アプリなどで予習してもらう工夫も広がっています。

朝礼後の個別声かけ

理解できているかを確認するため、「今日どこに気をつけますか?」と一人ひとりに問いかけます。「大丈夫ですか?」「わかりますか?」と聞いても全員「はい」と答えます。答えさせる形にすることで、理解度が見えてきます。

翻訳アプリに頼りすぎると事故が起きる

「スマホの翻訳アプリを使えば伝わる」という現場も増えています。日常的なやりとりなら問題ないことも多い。とはいえ、安全衛生の専門用語となると話が変わります。深刻な誤訳が起きます。

茨城県外国人材支援センターが公表した事例では、建設現場でAI翻訳を使ったところ、「筋交い(斜めに入れて建物を補強する材料)」が「筋肉の交わり」、「建地(足場を垂直に支える柱)」が全く意味の違う言葉に変換されていました。

ここがポイントなのですが、翻訳アプリが出力した言葉が正しいかどうかを、外国人労働者自身では判断できません。意味が違っていても「わかりました」と答えてしまいます。これが事故の前段階になります。

率直に申し上げると、翻訳アプリは「日常のちょっとした確認」には使えますが、教育の核となるコンテンツには使ってはいけません。専門的な安全衛生教育の翻訳には、業種の用語に精通した翻訳者が必要です。あるいは、最初から多言語で設計された教材を使うのが最も確実です。

多言語化のアプローチ比較については、こちらも参考にしてください。

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Labonaで解決できること

Labonaは、建設・製造・物流分野の安全衛生教育を、日本語・英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語の5言語で提供するeラーニングサービスです。

正直、翻訳の品質管理まで社内でやり切るのは難しい。それが現場担当者の本音だと思います。

教材はすべて日本語で制作したものを、安全衛生分野に精通した翻訳者が各言語へ翻訳し、ネイティブ音声のナレーションを付けています。「やさしい日本語に直した資料を読ませる」のではなく、各言語で最初から設計された教材で教育を完結できます。

受講記録は受講者の言語・日時・理解度テストの得点つきで保管されます。監督署や元請からの確認要求にも、すぐに対応できます。

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まとめ

「やさしい日本語」は、現場の日常コミュニケーションを助ける有効なツールです。一方、安全衛生教育そのものは母国語の教材で行わなければ、法的な義務を果たしたことにはなりません。

特定技能・技能実習・育成就労で来日した外国人がN4レベルの日本語力を持っていても、安全教育の専門用語は別物です。翻訳アプリの誤訳リスクも、専門的な場面では無視できません。

使い分けの原則は「教育は母国語・日常指示はやさしい日本語」。掲示・標識・朝礼はやさしい日本語で補い、雇入れ時教育や特別教育は母国語の教材で実施する。この区別を現場に定着させることが、外国人労働者の安全を守ることに直結します。

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よくある質問

Q. やさしい日本語だけで雇入れ時安全衛生教育を実施しても法律上問題ないですか?

法令上、教育を「日本語で行え」という規定はありません。ただし、労働者が理解できない形での教育は「教育を実施した」と認められないというのが厚生労働省の立場です。やさしい日本語であっても専門用語の多い安全衛生教育を十分に理解させることは難しく、母国語の教材の利用が安全配慮義務の観点からも推奨されます。

Q. 社内に母国語を話せる人がいれば通訳させれば十分ですか?

通訳は有効な手段ですが、安全衛生の専門用語を正確に訳せるかが課題です。日常会話が得意な外国人労働者でも、「局所排気装置」「重篤な健康障害」などを正確に母国語で説明できるとは限りません。重要な教育内容には専門的な翻訳品質が確保された教材を用意したうえで、通訳はフォロー役として使うのが安全です。

Q. 安全標識をやさしい日本語に書き換えるだけでは不十分ですか?

標識のやさしい日本語化は、日常的な注意喚起として非常に効果的です。ただし、安全衛生教育(雇入れ時・特別教育など)の代替にはなりません。標識は「危険な場所を示す」役割、教育は「なぜ危険なのか・どう行動するか」を深く理解させる役割です。両方がそろって機能します。

Q. 翻訳アプリはいっさい使わないほうがよいですか?

日常のちょっとした確認(「今日の昼休みは12時からです」など)であれば問題ありません。ただし、教育コンテンツ・安全手順書・機械の操作説明など、誤解が事故に直結する場面での翻訳アプリへの依存は避けるべきです。専門用語の誤訳が生じても、外国人労働者側では気づくことができないのが最大のリスクです。

Q. 「やさしい日本語」と「母国語の教材」を両方整備するのはコストがかかりますか?

やさしい日本語の掲示物・朝礼シートは、自社でも比較的少ない工数で作れるものが多いです。母国語の教育コンテンツは翻訳の品質確保が重要なため、多言語対応eラーニングを活用するのが現実的です。コスト感は別記事「多言語安全教育の3つのアプローチ比較」で整理しています。

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