要約
- 2024年(令和6年)4月1日施行 — 労働安全衛生規則第35条第1項の省略規定が撤廃
- 改正前は 林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業以外 で4項目を省略できた
- 改正後は 全業種・全雇用形態で8項目すべて必須
- パート・アルバイト・派遣・外国人労働者も同等の対象
- 違反時は労働基準監督署からの 是正勧告・指導の対象
2024年(令和6年)4月1日、雇入れ時安全衛生教育の枠組みが大きく変わりました。これまで「業種によっては省略できる」とされてきた4項目が、全業種・全雇用形態で必須化されたのです。
事務職中心の企業や IT・小売・宿泊・サービス業では「自社には関係ない」と捉えられがちでした。しかし今は違います。業種を問わず8項目すべての実施が義務です。本記事では、改正で何がどう変わったのか、対象業務と必須項目の一覧、背景となった統計を、法令対応の担当者向けに整理します。
1. 改正のポイント — 何がどう変わったのか
労働安全衛生規則 第35条第1項は、雇入れ時に教育すべき内容として8つの項目を定めています。改正前は、このうち1〜4の項目(機械の危険性・保護具・作業手順・作業開始前点検)について、特定業種以外は省略可能とされていました。
令和6年4月1日施行の改正で、この省略規定が完全撤廃されました。改正後の制度全体(対象者・8項目の中身・記録・多言語対応)は雇入れ時安全衛生教育 完全ガイドで網羅的に整理しています。
改正前後の比較
| 項目 | 改正前(〜2024年3月) | 改正後(2024年4月〜) |
|---|---|---|
| 対象業種 | 一部業種(※1)のみ8項目フル | 全業種で8項目フル |
| 1〜4項目の省略 | ※1以外は可 | 不可 |
| 適用される雇用形態 | 全員(変更なし) | 全員(変更なし) |
※1 林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業
率直に申し上げると、改正前の運用では「うちは省略対象業種だから」という線引きが現場で通用していました。改正後はその余地がなくなり、事務職中心のオフィス・店舗・倉庫・現場すべてで同じ8項目を実施する必要があります。
2. 改正前の省略規定とは(背景の整理)
なぜ過去にこの省略規定が存在したのか。歴史的には、危険・有害な作業が多い特定業種(林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業)に教育リソースを集中させる、という考え方が背景にありました。
ところがここ十数年、第三次産業(小売・宿泊・サービス・医療福祉など)での労働災害が増加しています。事務系・サービス系の現場でも転倒・墜落・腰痛などのリスクが現実化し、「省略可能」とする合理性が失われていったのです。
⚠️ 改正の経緯(厚生労働省令)
省略規定の撤廃は、令和4年(2022年)5月31日公布の「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」(令和4年厚生労働省令第91号。化学物質の自律的管理への転換を柱とする改正の一部)で定められ、約2年の周知期間を経て2024年(令和6年)4月1日施行となりました。
3. 必須項目8項目 完全一覧(労安規則第35条第1項)
ここが本記事の核です。業種を問わず、すべての雇入れ時教育に含めなければならない8項目を整理します。
Step 1. 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法
業務で使用する機械・工具・原材料の危険性と、安全な取扱い方法。事務職ではコピー機・シュレッダー、店舗ではスライサー・厨房機器なども含まれます。
Step 2. 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及び取扱い方法
保護具(手袋・保護メガネ・マスク等)と安全装置の性能・正しい使い方。「貸与しているだけ」では教育義務を満たしません。
Step 3. 作業手順に関すること
標準作業手順書(SOP)の説明。手順を逸脱したときの危険性まで含めるのが望ましい運用です。
Step 4. 作業開始時の点検に関すること
始業前点検の項目とチェックリスト。設備・工具・保護具の状態確認を習慣化させる教育です。
Step 5. 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防
熱中症・腰痛・粉じん・化学物質曝露・VDT作業による眼精疲労など、業務固有の健康リスクとその予防策。
Step 6. 整理、整頓及び清潔の保持に関すること
いわゆる「3S」「5S」の徹底。転倒・つまずき災害の予防に直結します。
Step 7. 事故時等における応急措置及び退避に関すること
ケガや火災・地震発生時の応急処置と避難経路。外国人労働者には特に多言語での周知が重要です。避難指示や応急措置は母国語で確実に伝え、日常の声かけはやさしい日本語で統一する、と言語を分ける設計が現場では機能します。判断基準は「やさしい日本語」と母国語教材の使い分けに整理しました。
Step 8. その他当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項
業種・職種に応じた個別事項。ハラスメント防止・メンタルヘルス・感染症対策などをここに含めるケースも増えています。
4. 対象業務とは — 業種制限撤廃の意味
「対象業務」という言葉が改正後にやや混乱を招いています。整理すると次のとおりです。
- 対象業種:業種制限は撤廃された(=すべての業種が対象)
- 対象業務:当該労働者が従事する業務に関連する8項目を実施
つまり、コンビニのレジ担当者にフォークリフトの取扱い教育は不要ですが、「レジ業務で使う機械の危険性」「店舗で起こり得る転倒・強盗対応」「保護具(手袋など)の取扱い」は8項目それぞれに即して実施しなければなりません。
ここがポイントなのですが、「実施しなくてよい項目」は存在せず、各項目を当該業務の文脈で具体化する、というのが改正後の正しい運用です。
5. 改正の背景|統計が示す災害の現実
厚生労働省「労働災害発生状況」によれば、令和5年(2023年)の休業4日以上の死傷者数は 135,371人で前年比+3,016人(約+2.3%)、3年連続で増加傾向にあります。特に増えているのが第三次産業です。
業種別の傾向を整理すると次のようになります。
- 小売業:転倒・切れこすれ・動作の反動が多い
- 社会福祉施設:腰痛・転倒・暴力(被災)が増加
- 飲食店:切れこすれ・やけど・転倒
- 陸上貨物運送業:墜落転落・荷役時の動作の反動
第三次産業の災害は、これまで「大きな事故が起きにくい業種」と見なされてきた領域で増えており、厚生労働省の第14次労働災害防止計画(令和5〜9年度)でも第三次産業の対策が重点の一つに据えられています。雇入れ時の基礎教育の徹底は、その入口にあたる対策です。
この拡充は「事務系・サービス系業種でも基礎教育を本気でやってほしい」という厚労省からの強いメッセージです。
6. 実施期限と運用上のポイント
施行日は 2024年4月1日。すでに義務化済みです。原則として 雇入れ後すぐ・業務に就かせる前 に完了させる運用が求められます。
未実施が発覚すれば、労働基準監督署からの是正勧告・指導の対象です。悪質な場合は労働安全衛生法違反として送検される可能性もあります。
そして見過ごせないのが、事故発生後の民事責任。「教育をしていなかった」と判明すれば、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に基づく損害賠償リスクにも直結します。
外国人労働者を含めて8項目を母国語で揃える必要がある場合は、Labona の雇入れ時安全衛生教育(日本語・英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語)が法定8項目をカバーしています。
省略規定が撤廃された今、「うちは関係ない業種」という言い訳は法令上も実務上も通用しません。
まとめ
令和6年4月の拡充は、雇入れ時安全衛生教育を**「特定業種の義務」から「全事業者の基本動作」へ**位置づけ直した改正です。施行から2年以上が経過した現在、労基署の指導でも省略規定撤廃を前提とした確認が標準化しており、未対応のままだと臨検指導で必ず指摘されるフェーズに入りました。
未対応の事業所は、自社の8項目カバレッジを早急に点検してください。とくにこれまで省略していた業種では、教育コンテンツの再設計とともに、外国人労働者を含めた多言語対応の検討が次のステップになります。そのとき最初にぶつかる「外国語教材だけで法令上足りるのか」という疑問には、安全衛生教育を「外国語の教材だけ」で実施してよいかで答えています。
要点
- 2024年4月1日から労安規則第35条第1項の省略規定が完全撤廃された
- 全業種・全雇用形態で8項目すべての実施が法的義務である
- 「対象業種」の制限はないが、項目内容は当該業務に即して具体化する
- 未実施は労基署の是正勧告・安全配慮義務違反のリスクに直結する
- 外国人労働者には本人が理解できる言語での実施が事実上必須となる
よくある質問
Q. 令和6年4月の改正前は、どの業種が8項目を省略できましたか?
林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業以外の業種では、8項目のうち1〜4(機械の危険性、保護具、作業手順、作業開始前点検)を省略できました。改正後はこの省略規定が完全撤廃され、全業種で8項目すべての実施が必須です。
Q. 改正後、コンビニのレジ担当者にもフォークリフトの取扱い教育が必要ですか?
不要です。「対象業種」の制限は撤廃されましたが、「対象業務」は当該労働者が従事する業務に関連する内容で8項目を実施する、という意味です。レジ業務であれば「レジ業務で使う機械の危険性」「店舗で起こり得る転倒・強盗対応」など、業務の文脈に即して具体化します。
Q. 8項目のうち、今も省略できる項目は残っていますか?
残っていません。令和6年4月1日の改正により、全業種・全雇用形態で1〜8のすべての項目を実施することが法的義務となりました。
Q. 未実施が発覚した場合、どんなリスクがありますか?
労働基準監督署からの是正勧告・指導の対象になります。悪質な場合は労働安全衛生法違反として送検される可能性もあります。さらに事故が発生した場合、「教育をしていなかった」ことが安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に基づく損害賠償リスクに直結します。
Q. 改正の背景にはどのような統計がありますか?
厚生労働省「労働災害発生状況」によれば、令和5年(2023年)の休業4日以上の死傷者数は135,371人で前年比+3,016人(約+2.3%)、3年連続で増加傾向にあります。特に小売業・社会福祉施設・飲食店・陸上貨物運送業といった第三次産業での災害増加が、改正の背景にあります。

