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法令・コンプライアンス更新 2026.10.30·約 14 分で読了

労働安全衛生法59条とは|3つの項の違いと罰則を条文から解説

労働安全衛生法第59条の条文を項ごとに読み解きます。雇入れ時・作業内容変更時・特別教育の違い、省令に委ねられた「遅滞なく」や教育の省略、記録の保存、違反時の罰則まで、条文の言葉に沿って整理しました。

労働安全衛生法59条とは|3つの項の違いと罰則を条文から解説

「安全衛生教育をしなければならない」とは聞くけれど、どの法律のどの条文に書いてあるのか、よくわからない。そんな方も多いはずです。この記事では、安全衛生教育の義務根拠となる労働安全衛生法第59条(通称・労安法59条)を3つの段落ごとに整理します。令和6年4月の改正ポイントと違反リスクも、この1本で確認できます。法令に不慣れな方でも読み切れる構成にしました。

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労働安全衛生法 第59条の全体像

第59条は、事業者(会社)が従業員に対して安全衛生教育を実施する義務を定めた条文です。3つの段落から成り、それぞれ「教育を行うべきタイミング」が異なります。

まず条文の原文を確認しましょう。

第59条(安全衛生教育)

事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。

(第2項)前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。

(第3項)事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。

第1項が「雇い入れたとき」、第2項が「作業内容を変更したとき」、第3項が「危険・有害業務に就かせるとき」。この3つのタイミングを「3層構造」と呼びます。

条文の読み方:中身は省令に委ねられている

第59条を読んでも、何を何時間教えるかは書かれていません。「厚生労働省令で定めるところにより」とあるとおり、中身は労働安全衛生規則(安衛則)に委ねられています。

第59条の言葉 読む先 定めていること
第1項・第2項「厚生労働省令で定めるところにより」 安衛則第35条 雇い入れ・作業内容変更のとき「遅滞なく」教育する8事項と、省略できる場合
第3項「厚生労働省令で定めるもの」 安衛則第36条 特別教育の対象業務
第3項「厚生労働省令で定めるところにより」 安衛則第37条〜第39条 科目の省略、記録の3年保存、細目は厚生労働大臣が定める(安全衛生特別教育規程など)

実務で読み落とされやすいのは次の3点です。

  • 「遅滞なく」:安衛則第35条第1項は、雇い入れ・作業内容変更のときに遅滞なく教育を行うよう定めています。
  • 省略できる場合:同条第2項は「十分な知識及び技能を有していると認められる労働者」について、当該事項の教育を省略できるとしています。特別教育の科目についても第37条に同じ趣旨の規定があります。
  • 記録の保存:第38条が定める3年保存は特別教育の記録です。雇入れ時教育の記録には、同じ規定はありません。

第1項:雇入れ時教育(全労働者が対象)

第1項は、新しく雇い入れたすべての労働者に実施する安全衛生教育を定めています。正社員だけでなく、パート・アルバイト・派遣社員も含まれます。「試用期間中だから」「短期だから」という理由で省略することはできません。外国人労働者も当然に対象で、日本語で一通り説明しただけでは「教育した」と認められないリスクがあります。

安衛則第35条の8項目

具体的な教育内容は、労働安全衛生規則(安衛則・教育内容を詳しく定めた省令)第35条に8項目が列挙されています。

  1. 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法
  2. 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法
  3. 作業手順
  4. 作業開始時の点検
  5. 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防
  6. 整理、整頓及び清潔の保持
  7. 事故時等における応急措置及び退避
  8. その他、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項

5番〜8番は業種に関わらず前から必須でしたが、1番〜4番については以前は業種によって省略できる規定がありました。

令和6年4月1日の改正で「全業種・全8項目」が義務化

改正前は、安衛令第2条第3号に掲げる業種(林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業・製造業のほか、電気業・ガス業・通信業・各種商品卸売業・小売業・旅館業・ゴルフ場業・自動車整備業・機械修理業なども除いた、金融・保険・サービス業などのいわゆる非工業的業種)では、1番〜4番の項目(機械の危険性・保護具の扱い・作業手順・点検方法)を省略してよい規定が存在していました。

この省略規定が、令和6年(2024年)4月1日の改正で完全撤廃されました。IT企業・小売・飲食・サービス業も含め、すべての事業者が8項目すべてを実施する義務を負います。

「うちはデスクワークしかないから関係ない」という判断は、2024年4月以降は通用しません。オフィスワーカーを雇い入れるときでも、8項目の安全衛生教育と記録保管が必要です。

一方で、8項目は最低ラインです。倉庫・配送のように業務固有のリスクが多い職場では、8項目に現場特有の項目を重ねる設計が要になります。物流業での組み立て方は物流業の外国人労働者 安全教育の組み立て方(倉庫・配送)を参照してください。

→ 雇入れ時安全衛生教育 完全ガイド(法令・8項目・オンライン・多言語対応)

第2項:作業変更時教育(異動・配置換えのとき)

第2項は、第1項の教育義務を「作業内容を変更したとき」にも適用するという規定です。

具体的には、たとえば次のような場面が対象になります。

  • 事務職から製造ラインへの配置転換
  • 使用する機械・設備の変更(別機種のプレス機に移るなど)
  • 新しい化学物質・原材料を扱い始めるとき
  • 作業方法が変わり、新たなリスクが生じるとき

「もう社員だから今さら教育は不要」という思い込みが実は一番危ない。職種や担当業務が変われば、その業務に関する安全衛生教育をやり直す必要があります。

「作業内容の変更」の判断基準

どこからが「変更」に当たるかは、条文に数値の基準がありません。作業の方法・機械・材料等が変わり、安全衛生上の問題が生じるおそれがあるかどうかを目安に判断します。

率直に申し上げると、この判断には企業側の裁量が入ります。悩んだときは、教育を実施する方向で判断するのが安全です。実施にかかるコストより、万が一の事故リスクの方がはるかに大きいですから。記録を残しておけば、いざ監督署の調査が入ったときにも対応できます。

第3項:特別教育(危険・有害な業務に就かせるとき)

第3項は、危険または有害な特定業務に従事させる前に実施する「特別教育」の義務です。要は、業務専用の専門教育です。第1項の一般的な安全教育とは別に、その業務に特化した学科・実技を定められた時間数で実施しなければなりません。

対象業務は安衛則第36条に列挙された59種類

対象となる具体的な業務は、労働安全衛生規則(安衛則)第36条に定められており、現在59種類にのぼります。代表的な業務を挙げると——

  • フルハーネス型墜落制止用器具を用いて行う作業(第41号)
  • アーク溶接等の業務(第3号)
  • 玉掛け業務(つり上げ荷重1トン未満のクレーン等)(第19号)
  • 自由研削といしの取替え等の業務(第1号)
  • 足場の組立て・解体・変更の業務(第39号)
  • ロープ高所作業の業務(第40号)

これらの業務は、特別教育を修了するまで従事させてはいけません。「見様見真似で覚えさせた」「口頭で説明した」では特別教育を実施したとはみなされません。修了記録の保存まで含めて、はじめて義務を果たしたことになります。外国人労働者をこれらの業務に就かせるなら、学科を本人が理解できる言語で行うところまで設計に含めてください。

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Labona では、このうちフルハーネス特別教育・低圧電気取扱特別教育・玉掛け特別教育(1t未満)の学科を5言語の eラーニングとして公開しています(実技は事業者側で実施)。

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違反時の罰則

第59条に違反した場合の罰則は、項によって異なります。第3項(特別教育)の違反は労働安全衛生法第119条第1号により6か月以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金、第1項(雇入れ時教育)・第2項(作業内容変更時教育)の違反は第120条第1号により50万円以下の罰金です(拘禁刑の規定はありません)。なお「懲役」は2025年6月の刑法改正施行により「拘禁刑」に改められています。

ただし、罰則だけを見ると少し一面的です。刑事罰より先に「行政指導」の形で影響が出るケースが多い。労働基準監督署の監督(立入調査)で教育記録の不備が発覚すれば、是正勧告を受けます。是正勧告は公表されることがあり、取引先や元請から「安全管理に問題のある会社」と判断されるビジネスリスクになります。

さらに、安全衛生教育を実施しないまま労働災害が発生した場合は、刑事罰とは別に民事上の安全配慮義務違反(雇い主が従業員を危険から守る法的義務の違反)として損害賠償請求に直面することがあります。労災保険の給付とは別建てで、企業が被災者や遺族に直接賠償する義務です。賠償額が数千万円規模になった判例も複数あります。

→ 安全配慮義務と外国人労働者|判例から学ぶリスク

関連条文:第60条・第60条の2・第69条

第59条を押さえたら、隣接する3つの関連条文もあわせて確認しておきましょう。安全衛生管理の全体像がつかめます。

労安法第60条(職長教育)

新たに職長(ちょくちょう・現場のリーダー役)に就く人に実施する教育を定めた条文です。建設業・製造業など特定の業種で義務となっており、12時間以上のカリキュラムが必要です。第59条の一般教育とは別の義務なので、混同しないよう注意してください。外国人を職長に任命する現場も増えてきました。

対象業種(2023年4月の拡大分を含む)・カリキュラムの科目と時間・費用相場・WEB講習の条件は、職長教育の完全ガイド(対象業種・カリキュラム・費用・安全衛生責任者教育との違い)で個別に整理しています。

労安法第60条の2(業務従事者教育)

危険・有害業務にすでに従事している労働者に対して、技術・知識の向上を図るための教育を定めた条文です。特別教育(第59条第3項)が「就業前の義務」なのに対し、こちらは「就業中の継続教育」にあたります。おおむね5年ごとの実施が推奨されています。強制義務ではなく、努力義務の扱いです。

労安法第69条(健康保持増進措置)

従業員の健康づくりを支援する努力義務条文です。教育義務とは性格が異なりますが、安全衛生管理の体系として第59条と一体で理解しておくと、社内の年間教育計画を組み立てやすくなります。

3条文を一覧にすると次のとおりです。

条文 内容 対象・タイミング 義務区分
第60条(職長教育) 職長に就く人への12時間以上の教育 建設業・製造業等、就任時 義務(特定業種)
第60条の2(業務従事者教育) 危険・有害業務従事者の技術・知識向上教育 就業中、おおむね5年ごと 努力義務
第69条(健康保持増進措置) 従業員の健康づくり支援 継続的 努力義務

まとめ

労働安全衛生法第59条は、安全衛生教育を実施する法的根拠の核心となる条文です。3段落をシンプルに整理すると——

第1項は全労働者への雇入れ時教育。安衛則第35条の8項目を実施する義務で、令和6年4月以降は業種を問わずすべて必須。第2項は作業内容を変更したときに同じ義務が再び発生すること。第3項は安衛則第36条に列挙された59種類の危険・有害業務に就かせる前の特別教育義務。

違反時は特別教育(第3項)で6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、雇入れ時・作業内容変更時(第1項・第2項)で50万円以下の罰金ですが、現実のリスクは「是正勧告→信頼失墜」と「教育なし→労災→民事賠償」という流れで現れます。記録保管まで含めて一体で対応することが、企業を守る実務上の鉄則です。

→ 安全衛生教育の記録保管ガイド(3年義務の根拠と電子化)

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よくある質問

Q. パートやアルバイトも第59条の対象ですか?

はい、雇用形態に関わらず、雇い入れたすべての労働者が対象です。短期雇用や試用期間中であっても省略できません。派遣労働者の場合、雇入れ時教育の実施義務は派遣元(派遣会社)にあります。派遣先での特別教育は、実際に業務を行わせる派遣先に義務があります。

Q. 令和6年4月の改正で具体的に何が変わりましたか?

改正前は非製造業・非建設業などの業種で、安衛則第35条の1番〜4番の項目(機械の危険性・保護具・作業手順・点検)を省略できる規定がありました。この省略規定が撤廃され、すべての業種・すべての事業者が8項目すべてを実施することになりました。

Q. 作業変更時教育は「何時間やればいい」という規定がありますか?

法令上、作業変更時教育の時間数に明確な基準はありません。変更した作業内容に関係する8項目のうち必要なものを適切に実施することが求められます。実施した日時・内容・受講者名を記録として残しておきましょう。

Q. 特別教育は社内の人間が実施してよいですか?

はい、特別教育は事業者が実施主体であり、社内で行うことも外部機関に委託することも可能です。ただし実施者自身が当該業務に関する必要な知識・技能を持っている必要があります。登録教習機関への委託は、内容の信頼性と記録保管の両面で安心感があります。

Q. オンライン・eラーニングで第59条の教育を完了させることはできますか?

令和3年(2021年)1月25日付の厚生労働省通達により、本人確認・理解度確認・記録の3年保管・法定項目の網羅という4要件を満たせばオンライン実施が公式に認められています。実技を伴う特別教育は、学科部分のみオンライン対応が可能です。詳しくは以下のガイドをご覧ください。

→ 安全衛生教育のオンライン実施 完全ガイド(厚労省4要件)


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