「うちの現場の作業、特別教育の対象かどうか分からない」「外国人を新しく配属するけれど、59種類のうちどれが必要なのか手早く確認したい」。建設・製造の管理者から、この種の問い合わせを月に何件か受けます。労働安全衛生規則第36条には59の業務が並んでいて、初見では構造を把握しづらい。本記事では59業務をカテゴリ別に整理し、外国人雇用で実施するときの壁と多言語対応の現状まで通しで確認できる形にまとめます。
特別教育の全体像
ここでは「特別教育とは何か」「なぜ59種類もあるのか」という土台を最初に押さえます。
特別教育は、労働安全衛生法第59条第3項(危険・有害業務に従事する労働者へ事業者が特別な教育を行うことを義務付けた条文)に基づく制度です。具体的にどの業務が対象かは、労働安全衛生規則第36条に列挙されており、改正のたびに追加されてきた結果、現在は1号から59号まで番号が振られています。
ⓘ 「59種類」とは号番号の数
第36条第1号から第59号まで号番号で並んでいるので「59業務」と呼ばれます。一部の号にはさらに細分(イ・ロ・ハ)があり、実務的な業務区分はもう少し多くなります。号番号は規則改正で空き番号や追加が発生するため、最新版の条文での確認が必須です。
特別教育の実施義務は事業者にあります。受講料・時間・教材費はすべて事業者負担、賃金が発生する勤務時間内での実施が原則です。「労働者が自費で外部講習を受けてきた」という運用は、安全衛生教育の本来の趣旨から外れます。
業務カテゴリ別の整理
59業務を1つずつ追うと骨が折れます。先に大きなカテゴリで全体像をつかむと、自社の現場が「だいたいどの辺りか」が見えてきます。
労働安全衛生規則第36条の59業務は、明確なカテゴリ分けが法令側でされているわけではありません。実務的には、業務の性質で次のように分類すると整理しやすい。
- 粉じん作業系(研削砥石、アーク溶接、酸欠作業など)
- 建設機械・車両系(車両系建設機械、ローラ、コンクリート打設用機械など)
- クレーン・玉掛け系(小型クレーン、デリック、玉掛け1t未満など)
- フォークリフト・荷役系(最大荷重1t未満のフォークリフト、ショベルローダー)
- 高所作業系(フルハーネス、足場の組立、ロープ高所作業など)
- 電気・通信系(低圧電気取扱、高圧・特別高圧電気、絶縁用防具着脱など)
- 産業ロボット・機械系(教示、検査、機械プレスなど)
- 特殊環境系(ダイオキシン類、四アルキル鉛、東日本大震災関連除染作業など)

カテゴリの境界はゆるく、たとえば「アーク溶接」は粉じん・電気・高所のいずれにも関連します。実際に自社の作業を確認する際は、号番号と作業内容を一対一で突き合わせるのが安全です。
1〜20号:基本作業系
1〜20号の領域は、製造業・建設業の多くの現場で出てくる基本的な機械・作業が並びます。古い号番号ほど制度創設時から指定されている「クラシック」な業務という見方もできます。
代表的な業務は次のとおり。
- 第1号: 研削といしの取替え又は試運転の業務
- 第2号: 動力により駆動されるプレス機械の金型・シャーの刃部の調整・取付け
- 第3号: アーク溶接機を用いて行う金属の溶接・溶断等の業務
- 第4号: 高圧(直流750V超〜7000V以下、交流600V超〜7000V以下)若しくは特別高圧の充電電路、又は当該充電電路の支持物の敷設・点検等
- 第5号: 最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転(道路上を走行させる運転を除く)
- 第6号: 最大荷重1トン未満のショベルローダー又はフォークローダーの運転
- 第7号: 最大積載量1トン未満の不整地運搬車の運転(道路上を走行させる運転を除く)
- 第8号: 制限荷重5トン未満の揚貨装置の運転
- 第9号: 機械集材装置の運転
- 第10号: チェーンソーを用いて行う立木の伐木、かかり木の処理、造材の業務
11号〜20号には、伐木に関連する業務(チェーンソー以外)、ボイラーの取扱い、小型ボイラーの取扱い、つり上げ荷重5トン未満のクレーンの運転、つり上げ荷重1トン未満の移動式クレーンの運転、デリックの運転、建設用リフトの運転、つり上げ荷重1トン未満のクレーン・移動式クレーン・デリックでの玉掛け、ゴンドラの取扱い、酸素欠乏危険場所での作業などが含まれます。
「フォークリフト1トン未満」と「フォークリフト1トン以上」では、前者が特別教育、後者が技能講習という線引きになっています。荷重区分の確認は実務上のミスが起きやすい箇所です。
21〜40号:機械・電気系
21〜40号の領域は、化学・粉じん・電気・機械系の専門業務が多く、特定の業種・工程に紐づきます。自社の業務が該当する場合、号番号ごとの細かな要件確認が必要です。
代表的な業務を抜粋します。
- 第21号: 特殊化学設備の取扱い、整備及び修理の業務
- 第22号: エックス線装置又はガンマ線照射装置を用いて行う透過写真の撮影の業務
- 第23号: 加工施設、使用施設等の管理区域内において核燃料物質等を取扱う業務
- 第24号: 原子炉施設の管理区域内における核燃料物質等を取扱う業務
- 第25号: 粉じん作業に係る業務(じん肺予防のための作業)
- 第26号: ずい道等の掘削、覆工等の業務
- 第27号: マニプレータ及び記憶装置を有する産業用ロボットの教示等の作業
- 第28号: 産業用ロボットの可動範囲内において行う検査等の作業
- 第29号: 自動車(二輪自動車を除く)用タイヤの組立てに係る業務のうち、空気圧縮機を用いて当該タイヤに空気を充てんする業務
- 第30号: ダイオキシン類含有物のばく露防止措置等が必要な業務
31号〜40号には、東日本大震災に伴う原子力発電所事故由来の除染等業務、四アルキル鉛等業務、廃棄物焼却施設での解体等、石綿(アスベスト)取扱い、足場の組立・解体・変更業務、ロープ高所作業、コンクリート造の工作物の解体作業、特定粉じん作業、墜落制止用器具(フルハーネス型)を使用して行う作業などが入っています。
近年追加されたフルハーネス(第41号)や石綿関連は、施行から日が浅く、社内記録の整備が追いついていない事業者が多い領域です。
41〜59号:特殊作業系
41〜59号は、近年の労働災害動向や新技術を反映して追加された業務が中心です。「うちは関係ない」と思っていた現場が実は対象だった、というケースが起きやすい範囲でもあります。
代表的な業務を抜粋します。
- 第41号: 高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところで、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを使用して行う作業
- 第42号: ボーリングマシンの運転業務
- 第43号: 建設工事の作業を行う場合における、ジャッキ式つり上げ機械の調整又は運転の業務
- 第44号: 作業床の高さが10メートル未満の高所作業車の運転(道路上を走行させる運転を除く)
- 第45号: 動力により駆動されるプレス機械の金型・シャーの刃部の調整・取付けの業務
- 第46号: 自然電位法(カソード防食)等に伴う特殊な電気作業
- 第47号: 廃棄物の焼却施設において焼却炉等を解体する業務
- 第48号: 石綿(アスベスト)が使用されている建築物等の解体作業
- 第49号: 除染等業務(東京電力福島第一原子力発電所事故)
- 第50号: 特定線量下業務
51号〜59号は、規則改正で追加されてきた新規の業務(建設機械の運転・整備関連の細分、伐木業務の細分化、農薬散布作業、研磨剤を用いた高速回転作業など)が中心です。号番号と業務内容の対応は規則改正のたびに変動しているため、社内の安全衛生規程は最新版で確認することを推奨します。
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技能講習との混同を避ける
外国人雇用の管理者からよく出る質問が「技能講習と特別教育は何が違うのか」。法的位置づけが別の制度なので、ここで一度線を引いておきます。
特別教育(労安法第59条第3項)は事業者が実施する社内教育の位置づけで、学科・実技を合わせて数時間程度の業務が多い。受講証明書は事業者が発行し、外部の登録機関への申請は不要です。
技能講習(労安法第61条)は、登録教習機関での受講が義務付けられた就業制限業務に対する公的な資格制度。たとえば玉掛け作業でも、つり上げ荷重1トン以上のクレーン等で行う場合は技能講習(修了証は国家資格相当)、1トン未満は特別教育、と荷重で線引きされます。

ⓘ 線引きミスのリスク
「特別教育でいいだろう」と判断して技能講習対象の業務を行わせた場合、事業者は労働安全衛生法違反(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)の対象になります。受講者本人も就業制限違反になるため、配属前の業務区分確認は管理者の必須プロセスです。
判断に迷ったら、都道府県労働局・労働基準監督署の安全衛生課に業務内容を伝えて確認するのが確実です。書面で確認結果を残しておくと監査時の証跡になります。
外国人雇用での実施時の壁
ここからは外国人労働者へ59業務の特別教育を実施する場合に直面する、実務上の壁を整理します。
第一の壁は該当業務の把握。日本人なら職場の慣習で「これは資格がいる作業」と分かる場面でも、外国人労働者本人にその予備知識はありません。配属前に管理者が59業務リストと突き合わせて、該当する号を特定する作業が必要です。
第二の壁は多言語教材の有無。59業務のうち、玉掛け・フォークリフト・フルハーネスのように外国人労働者の従事比率が高い業務は、民間eラーニング教材が日本語以外でも整備されてきています。一方で、産業用ロボットの教示・特殊化学設備の取扱い・石綿関連のように、専門性が高く受講者数が限られる業務は、母国語教材が事実上存在しないものも多い。
第三の壁は理解度の確認。受講させただけでは安全配慮義務(会社が従業員を危険から守る責任)の履行と認められません。母国語での簡易テスト、または現場での再現実技(実際に器具を装着・操作してもらう)で「分かった」を客観的に裏取りすることが必要です。
第四の壁は記録の保管。労働安全衛生規則第38条で受講記録の3年保管が義務付けられています。外国人労働者の場合、氏名のローマ字綴り・在留カード番号の併記、教育を実施した言語の明記など、日本人より記録項目が増えがちです。
Labonaの対応範囲
ここでは正直に、Labonaでできることと現状できないことを整理します。
Labonaは外国人労働者向けの安全衛生教育eラーニングを提供しています。2026年5月時点で本番公開しているのは「雇入れ時の安全衛生教育」「玉掛け業務特別教育(1トン未満)」「職長・安全衛生責任者教育」で、現時点では日本語版を順次公開し、英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語の4言語は順次拡充中です。
59業務すべてをLabonaが教材化できているわけではありません。需要の大きい業務(フルハーネス・フォークリフト・粉じん作業・低圧電気取扱など)から順に制作中で、特殊化学設備や核燃料物質取扱いのように受講者数が限られる業務は当面対象外の予定です。記録管理は受講ログ・修了証発行・3年保管をシステム側で自動化しています。
実技指導は法令上、事業者側の有資格者または十分な経験者が担う前提です。Labonaは学科部分のeラーニング・記録管理・多言語化を担当し、実技は現場の指導者にお任せする運用で設計しています。
→ Labona に問い合わせる(教材ラインナップの詳細確認も可)
まとめ
労働安全衛生規則第36条の59業務は、研削砥石やアーク溶接のような古典的な業務から、フルハーネスや石綿関連のような近年追加された業務までを含みます。カテゴリ別に大まかな全体像をつかんだうえで、自社の現場に該当する号番号を特定し、技能講習との線引きを確認するのが第一歩。
外国人労働者を該当業務に配属する場合は、母国語教材の有無を確認し、理解度の事後確認と記録の3年保管をセットで整備してください。「日本語で受講させたから法令上OK」という運用は、近年の判例傾向から見て賭けです。本人が理解できる形での教育と、その証跡が、事故時の事業者責任を分けます。
よくある質問
Q1. 59業務すべての一覧はどこで公式に確認できますか?
労働安全衛生規則第36条の条文に号番号順で列挙されています。e-Gov法令検索で「労働安全衛生規則」を検索し、第36条を参照してください。改正のたびに号番号や業務内容が変動するため、社内文書のコピーではなく原典での確認を推奨します。
Q2. 特別教育を一度受けたら、転職後も有効ですか?
法的には、特別教育の受講記録は事業者ごとに管理する建て付けです。転職時に前職の受講証明書を持参すれば、新しい事業者が「教育済み」と判断できますが、新事業者の現場に固有のリスクに関する追加教育は推奨されます。受講証明書の原本管理は本人と前職事業者の両方で残しておくのが安全です。
Q3. eラーニングだけで59業務の特別教育を完結できますか?
学科部分はeラーニングで実施可能ですが、ほとんどの業務で実技が必須です。フルハーネス・玉掛け・フォークリフトなど、実技が定められている業務では、現場の有資格者または十分な経験者による対面指導が必要。eラーニング+実技集合のハイブリッド設計が現実的です。
Q4. 外国人受講者の理解度を担保する具体的な方法は?
3点セットを推奨します。1つ目は母国語音声付きの動画教材、2つ目は学科後の母国語簡易テスト(5〜10問程度の理解度確認)、3つ目は実技での再現確認(実際に器具を装着・操作してもらい、写真記録を残す)。テストと再現実技の結果は受講記録と一緒に3年保管します。
参考一次資料
- 労働安全衛生法 第59条第3項(特別教育の事業者義務)— e-Gov 法令検索で「労働安全衛生法」を検索
- 労働安全衛生規則 第36条(特別教育を必要とする業務)— e-Gov 法令検索で「労働安全衛生規則」を検索
- 労働安全衛生規則 第38条(特別教育の記録保管)— 同上
- 厚生労働省「特別教育規程」関連通達 — 厚生労働省ホームページ内で検索
- 厚生労働省 外国人労働者向け 多言語安全衛生教育教材 — 厚生労働省ホームページ内「労働基準・安全衛生」配下を参照



