「クレーンの荷を吊る作業に外国人を入れたいが、玉掛けの資格はどう取らせれば良いのか」。建設・製造・物流の現場担当者から、こうした相談を毎月のように受けます。1トンを境に教育の種類が変わり、しかも片方は登録教習機関でしか受講できない。多言語対応をどう確保するかで、配置のスピードが大きく変わります。
本記事では、玉掛けの技能講習と特別教育の境界、技能講習を外国人労働者に受講させるときの実務的な進め方、ベトナム語・中国語などの多言語対応の現状を、約3000字で整理します。
玉掛けの「技能講習」と「特別教育」の境界(1トン基準)
このセクションでは、クレーンの吊り上げ荷重で教育の種類が分かれる仕組みを整理します。法令を引きながら、自社の現場がどちらに該当するかの判断軸を示します。
玉掛け業務は、労働安全衛生法第61条と労働安全衛生規則第36条第19号で2階建ての教育体系になっています。クレーン・移動式クレーン・デリックの吊り上げ荷重1トン以上の機械で玉掛け作業を行う場合は技能講習(労働安全衛生法第61条に基づく国家資格相当の講習)の修了が必須。1トン未満であれば、事業者が実施する特別教育(労働安全衛生規則第36条第19号に基づく、危険業務従事者への安全教育)で足ります。
吊り上げ荷重とはクレーン自体の最大能力のこと。「吊る荷物の重さ」ではなく「クレーンの定格能力」で判定する点に注意してください。500キロの荷物しか吊らない現場でも、使うクレーンの吊り上げ荷重が2トンであれば、玉掛け作業者は技能講習修了者でないといけません。

ⓘ 「玉掛け」と「クレーン運転」は別の資格
玉掛けは荷物にワイヤーロープやスリングを掛けてクレーンに吊らせる作業。クレーン運転(操縦)は別の資格体系で、こちらも吊り上げ荷重で運転士免許・技能講習・特別教育に分かれます。1人で両方やる場合は両方の資格が必要です。
技能講習の受講要件と時間
ここでは技能講習の受講要件、時間、修了試験の構造を整理します。「うちの外国人技能実習生は受けられるのか」を判断するための情報です。
玉掛け技能講習のカリキュラムは、労働安全衛生規則別表第6で定められています。学科19時間 + 実技8時間で合計27時間。最短3日間の日程が一般的ですが、教習機関によっては4〜5日に分けるところもあります。
学科の内容は4分野で構成されます。
- クレーン等に関する知識(1時間)
- クレーン等の玉掛けに必要な力学に関する知識(3時間)
- クレーン等の玉掛けの方法(7時間)
- 関係法令(1時間)
- 修了試験(学科)
実技は8時間で、クレーンの運転のための合図、玉掛けの方法(ワイヤーロープの掛け方・外し方・荷の重心の見極め)を実機で行い、最後に修了試験があります。
受講資格は満18歳以上、国籍要件はありません。技能実習生・特定技能・在留資格「技人国」など、就労可能な在留資格を持つ外国人であれば受講できます。学科の一部省略(クレーン運転士免許保有者など)の規定はありますが、新規外国人雇用では原則フルコースで考えてください。
⚠️ 修了試験に不合格の場合
学科・実技いずれかで不合格になると、その科目の追試または再受講が必要です。教習機関により対応が異なるので、申込前に「不合格時の救済措置」を確認しておくと安心です。
登録教習機関での受講の流れ
このセクションでは、技能講習を受講させるまでの実務手順を順を追って示します。多言語対応の確認タイミングも含めて整理します。
技能講習は登録教習機関でしか受けられません。登録教習機関とは、都道府県労働局に登録された民間の教習施設のこと。建設業労働災害防止協会・各都道府県のクレーン協会・民間の重機教習所が代表例です。

受講までの実務的な流れを4ステップで示します。
第1ステップは機関選定。厚生労働省の登録教習機関一覧、または都道府県労働局のサイトで、玉掛け技能講習を提供している機関を確認します。地域・日程・受講料・定員で絞り込み。
第2ステップは多言語対応の確認。後述しますが、ベトナム語や中国語の通訳手配ができる機関は限定的です。電話で「外国人受講者の通訳同席は可能か」「指定講師による母語講習は可能か」を直接確認するのが確実。
第3ステップは申込・受講料納付。1名あたり2〜3万円、3日間日程が標準的です。申込時に住民票・在留カード写しなどの本人確認書類を求められることが多い。
第4ステップは学科・実技受講と修了試験。3日間(学科19時間 + 実技8時間)の日程で受講、最終日に修了試験。合格すると技能講習修了証が発行され、これが玉掛け業務に従事できる証になります。
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多言語対応している教習機関の探し方
現場担当者からの最頻出質問が「ベトナム語で受けられる玉掛け技能講習はどこにあるか」。2026年5月時点の実情を、Labona 編集部で確認できた範囲で整理します。
技能講習を母語で完結させられる機関は、現状では多くありません。理由は3つ。第一に、技能講習修了試験を母語で実施するには教習機関側で試験問題の翻訳・採点体制を整える必要があり、運営コストが大きい。第二に、講師が母語で安全用語を教えられる人材は限定的。第三に、登録教習機関の制度上、カリキュラムや教材の変更には労働局への届出が要るため、柔軟な多言語化が進みにくい構造があります。
実態としては次のパターンに集約されます。
- 日本語の集合講習 + 通訳同席: もっとも一般的。事業者または受講者が通訳を手配し、講師の説明をリアルタイムで通訳
- 特定言語の専用日程: 一部の機関がベトナム語・中国語など特定言語に絞った日程を季節限定で開催(建設業の繁忙期前など)
- 教習機関への出張対応: 受講者がまとまれば、教習機関が事業所まで出張して通訳付きで実施するケース
「全国どこでもベトナム語で受講可」という機関はありません。地域差が大きいので、自社所在地から通える範囲で複数機関に問い合わせるのが現実的です。
通訳同席での受講
通訳同席で受講させるとき、現場でつまずきやすいのは「通訳を誰が手配するか」「修了試験のとき通訳はどう関わるか」の2点です。実務上の論点を整理します。
通訳の手配は教習機関により対応が分かれます。「事業者側で通訳を連れてきてください」と言われるケースが大半で、教習機関が通訳を斡旋することは稀。技能実習生の監理団体に通訳を依頼するか、外部の産業通訳サービスを利用する形になります。費用感は1日あたり3〜5万円が目安。
修了試験での通訳の関わり方は、教習機関のルールに従う必要があります。学科試験中の通訳介在を認めない機関が多い一方、実技試験中に「危険防止のための指示通訳」を認めるところはあります。申込時に「修了試験中の通訳同席ルール」を必ず確認してください。
ⓘ 通訳の質が結果を左右する
力学・荷重計算・ワイヤー強度のような専門用語は、汎用通訳では誤訳が起きやすい。可能であれば「クレーン・玉掛け分野の通訳経験がある人」を選んでください。事前に教材を共有して用語をすり合わせるだけで、受講中の理解度が大きく変わります。
技能講習修了証の意味
ここでは、技能講習修了証が法的にどの位置付けの書類なのか、特別教育の受講証明書と何が違うのかを明確にしておきます。
技能講習修了証は、労働安全衛生法第61条に基づく国家資格相当の証明書です。発行主体は登録教習機関ですが、根拠は法令にあり、全国どこの事業者でも有効。転職しても効力が残ります。携帯義務はありませんが、現場で監督署や元請から提示を求められたときに備えて、本人がコピーを持っておくと安全です。
特別教育の受講証明書(事業者が独自に発行)は、その事業者での就労を裏付ける社内書類です。法令上の効力は技能講習修了証ほど強くなく、転職時に新しい事業者で改めて教育を受けるケースもあります。
外国人労働者の場合、技能講習修了証の氏名表記はパスポート記載のローマ字綴りで発行されることが多い。在留カードの漢字表記と異なる場合があるので、本人確認時の照合に注意してください。
⚠️ 修了証の偽造・他人名義使用のリスク
技能講習修了証の偽造や他人名義の使用は、労働安全衛生法違反かつ私文書偽造です。建設業界で稀に問題化するので、雇用時の現物確認・発行教習機関への照会は怠らないでください。
Labonaの対応範囲(特別教育は対応、技能講習は教習機関の領域)
ここでは正直に、Labonaでできることとできないことを整理します。読み手の判断材料として正確に書きます。
Labonaは外国人労働者向けの安全衛生教育eラーニングです。玉掛けに関しては、吊り上げ荷重1トン未満の特別教育に対応しています。学科の音声・字幕は順次5言語へローカライズを進めており、現時点では日本語版を順次公開、英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語の4言語は順次拡充中です。実技は事業者側の有資格者にお願いする運用です。
技能講習(1トン以上)には対応していません。これは登録教習機関の独占領域であり、eラーニング事業者が修了証を発行することは法令上できません。技能講習が必要な場合は、本記事で示した手順で登録教習機関を探してください。Labonaができるのは、技能講習の受講前後に必要な「雇入れ時教育」「リフレッシュ教育」の多言語実施までです。
まとめ
玉掛けの教育体系は1トンを境に技能講習と特別教育に分かれます。技能講習は登録教習機関での受講が必須で、学科19時間 + 実技8時間の合計27時間。多言語対応は「日本語講習 + 通訳同席」が主流で、ベトナム語・中国語の専用日程は地域・季節で限定的です。
外国人労働者に技能講習を受けさせる場合、教習機関の選定段階で多言語対応の可否を直接確認し、通訳手配・修了試験中のルール・費用を申込前にすり合わせること。修了証は国家資格相当の書類なので、雇用時の現物確認と照会も忘れずに。
技能講習の領域はLabonaでは扱えませんが、1トン未満の特別教育と、技能講習を補完する雇入れ時教育の多言語実施はLabonaの守備範囲です。クレーン作業に外国人を配置する全体設計の中で、使い分けてください。
よくある質問
Q1. 技能実習生でも玉掛け技能講習を受けられますか?
受けられます。受講資格は満18歳以上で、国籍要件はありません。在留資格が「技能実習」「特定技能」「技人国」などの就労可能なものであれば問題なし。ただし監理団体の事前承認が必要なケースがあるので、技能実習生の場合は監理団体に相談してから申込んでください。
Q2. 玉掛け技能講習の修了証は他社に転職しても使えますか?
使えます。技能講習修了証は労働安全衛生法に基づく国家資格相当の証明書で、発行教習機関や勤務先に関係なく全国で有効です。転職先で改めて受講する必要はありません。本人が原本を保管し、就職先に提示する運用が標準です。
Q3. 特別教育で済むのに技能講習を受けさせるのは過剰ですか?
過剰ではありません。実務上、現場のクレーン設備が変わって1トン以上を扱うケースが将来発生する可能性を踏まえると、技能講習を取らせておく方が配置の自由度が高くなります。コストと将来の業務範囲を天秤にかけて判断してください。
Q4. 講習を母語で実施できる教習機関はありますか?
特定言語の専用日程を季節限定で開催している機関は一部にあります。「全国どこでも母語で受講可」という機関はないと考えてください。最寄りの登録教習機関に「ベトナム語(または中国語)対応の日程はあるか」「通訳同席は認められるか」を直接電話で確認するのが確実です。
参考一次資料
- 労働安全衛生法 第61条(技能講習)— e-Gov 法令検索で「労働安全衛生法」を検索
- 労働安全衛生規則 第36条第19号(玉掛け特別教育)— e-Gov 法令検索で「労働安全衛生規則」を検索
- 厚生労働省「登録教習機関一覧」— 厚生労働省ホームページ内で検索



