「ベトナム人スタッフにフォークリフトを操作してもらいたい。教育は何語で受けさせるべきか」。物流・製造業の現場責任者から、よく届く質問です。日本人向けの集合研修にそのまま参加させて済ませている事業者も多いですが、ベトナム人本人の理解度を確認しないまま現場に出した場合、事故発生時の責任関係が複雑になります。
本記事では、フォークリフト特別教育・技能講習の枠組み、ベトナム語対応教材の現状、実技指導の具体的な進め方を3000字で整理します。物流倉庫・製造ラインでベトナム人のフォークリフト運転を任せたい企業向けです。
特別教育と技能講習の境界
ここではまず制度の二段構造を整理します。「特別教育」と「技能講習」を混同して話す人がいるため、正確に分けます。
労働安全衛生法は、フォークリフトの操作教育を最大荷重で二段に分けています。
- 特別教育: 最大荷重1トン未満のフォークリフト。学科6時間 + 実技6時間(最短)
- 技能講習: 最大荷重1トン以上のフォークリフト。学科11時間 + 実技24時間(最短)
倉庫業の中型フォークリフトは1トン以上が大半なので、現場で必要になるのはほぼ技能講習です。一方、製造ラインの小型機(カウンターリフトの簡易タイプなど)は1トン未満も多く、特別教育で済むケースがあります。
ⓘ どちらが必要か迷ったらメーカー仕様を確認
最大荷重は車両のネームプレート(運転席付近の金属プレート)に記載されています。ここに「最大荷重 850kg」とあれば特別教育、「1500kg」なら技能講習。リフトの種類(リーチ・カウンター・ウォーキー)は関係ありません。
ベトナム人のフォークリフト需要
「なぜベトナム語に特化した記事か」を、現場のデータで裏付けます。
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」によれば、ベトナム人労働者数は中国・フィリピンを上回り、2024年時点で在留外国人の中で職場別に最大シェアを占める国籍の一つです。特に物流倉庫・食品工場・自動車部品工場での雇用が顕著で、フォークリフト操作が業務に組み込まれるケースが急増しています。
技能実習制度から育成就労制度への移行(2027年4月)を見据え、受入企業はフォークリフト教育を「日本語のみ」から「母国語併用」に切り替える動きを進めています。背景には、技能実習機構の指導強化と、日本語不十分による事故の判例蓄積があります。

ベトナム語教材の現状
「ベトナム語の教材は何があるか」を、Labona 編集部で確認した範囲で整理します。
学科のベトナム語動画教材は、過去5年で選択肢が増えました。主な提供元は以下のような構成です。
- 公的翻訳資料: 厚生労働省・JITCO(国際人材協力機構)のテキスト翻訳。動画形式は限定的
- 民間eラーニング: 動画完全音声ベトナム語対応の有料サービスが3〜4社
- 建設業特化の翻訳教材: 建設業労働災害防止協会の翻訳冊子(フォークリフト単体ではない)
教材選定のチェックポイントは3つ。第一に音声がベトナム語ナレーションか(字幕のみは現場で機能しにくい)。第二に用語の現場対応(リフトのアタッチメント名称が翻訳されすぎて現場で通じない例あり)。第三に理解度テストがベトナム語か。
⚠️ 「日本語版を観させた + ベトナム語の補足プリント」は不十分
音声が日本語だと、本人は身振り・字幕の読み取りに集中してしまい、安全上の警告音声を聞き逃します。動画教材は最初から母国語音声で観せるのが原則です。
実技指導のコミュニケーション設計
学科をベトナム語動画でカバーしても、実技6時間は現場の指導者が対面で見ます。この部分が事故予防の本丸です。
ベトナム人受講者への実技指導で機能する設計は、以下の構成。
- 3言語タグ: フォークリフトの操作レバー・ペダルにベトナム語・日本語・英語のラベルを貼る
- 手本→模倣→単独の三段階: いきなり単独運転させず、指導者の運転を後席で見学→指導者同乗で操作→単独運転、の順
- 無線インカム: 倉庫内で離れて指示する場合、ベトナム語が話せる現場リーダーから無線で確認
- 動画記録: 実技中の運転を動画で撮り、振り返り時に指導者・受講者で一緒に観る
「言葉が分からないから危険」のではなく、「言葉以外でも伝わる手順を整える」のが現場の実装です。優秀な指導者ほど、受講者の言語に関係なく身体動作・視線・声の調子で意図を伝えます。
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教育期間と就労タイミング
入社後どのタイミングで教育を受けさせるか。これは法令と労務管理の両面から判断します。
法令上、フォークリフトを実際に操作する前に教育を完了している必要があります。「教育中だから少しだけ動かす」は違反です。雇入れ時の安全衛生教育とは別枠で、フォークリフトを業務にする日の前にスケジューリングします。
実務的なタイミングは2パターン。
- 入社1〜2週目に集中実施: 学科をeラーニングで2日、実技を現場で3日、計5日でフォークリフト免許を取得して就労開始
- 既存業務に組み込みながら3〜4週で実施: 日本語の業務に従事しつつ、週1〜2日のペースで教育、5週目から本格運転
前者の方が事業者の管理コストは低い一方、本人の負荷は高い。後者は本人ペースで吸収できるが、教育期間中の業務配分の管理が要ります。
倉庫運用での事故パターン
「ベトナム人だから事故が多い」のではなく、「教育が不十分な人は誰でも事故を起こす」が現場の真実です。よくある事故パターンを3つ。
第一にバック走行中の歩行者接触。荷物を抱えてバック走行する際、後方確認が甘くなる事故が業種を問わず多発しています。教育では「警報音を鳴らしながら走る」「定期的に降りて確認」を徹底します。
第二に荷崩れ。パレットへの荷物の積み方を理解せず運搬し、走行中に崩れて第三者に当たる事故。荷物の重心、ツメの差し込み深さ、走行速度の関係を、ベトナム語版の事例動画で見せると伝わりやすい。
第三に他のリフトとの接触。倉庫内で複数のフォークリフトが交差するゾーンでの事故。教育では「優先順位の決め方」「警報音の意味の統一」を、図解付きで説明する必要があります。

母国語テストの設計
理解度テストをベトナム語で実施する場合、何を問うべきか。実務で機能するテスト設計のポイントを整理します。
- 単純な選択式だけでなく、写真を見て危険箇所を指摘する形式を混ぜる
- 「正しい操作の手順を並べ替える」形式で、現場の業務フローを再現
- ベトナム語で書かれた「危険標示」を読んで意味を回答(言語理解と安全知識の両方を測れる)
- 合格基準は80%以上、不合格者には再教育を実施(理解できないまま現場に出さない)
テスト結果は記録として3年間保管。eラーニングシステム経由で実施した場合、自動でログが残ります。
Labona の対応
ここで Labona の対応状況を、選択肢の一つとして提示します。
Labona のeラーニングは、玉掛け業務特別教育・職長安全衛生責任者教育を提供しており、日本語版から順次公開、英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語の4言語は順次拡充中です。フォークリフト関連は2026年5月時点で開発中で、リリース時期は問い合わせフォームでご案内しています。
フォークリフト教育に必要な「学科を母国語で完了させ、実技は現場で集中指導」という運用構成は、Labona の他講座と同じ。受講ログ・修了証発行・記録管理の自動化は他講座と共通機能です。
→ Labona に問い合わせる(フォークリフト対応の進捗確認も可)
まとめ
ベトナム人にフォークリフト教育を実施する際の要点を再掲します。
特別教育(1トン未満)と技能講習(1トン以上)の境界を最初に確認。学科は母国語音声の動画教材を、実技は3言語タグ・三段階の段取り・無線インカム・動画記録で。教育完了前の運転は違反、実施タイミングは集中型か段階型を選ぶ。事故パターンは「バック走行」「荷崩れ」「リフト同士の接触」の3パターン、ベトナム語事例で予防教育を設計。
「日本語が分からないから危ない」ではなく、「言語以外で伝わる手順を整える」のが現場の実装です。教育に投資した分だけ、事故と賠償リスクは確実に下がります。
よくある質問
Q1. ベトナム人本人が日本のフォークリフト免許を取得する必要はありますか?
技能講習を修了すれば技能講習修了証が、特別教育を受講すれば受講証明書が発行されます。これが日本での「フォークリフト運転資格」の証明です。本国の免許は日本では効力を持ちません。
Q2. 母国でフォークリフト運転経験がある場合、教育は短縮できますか?
法令上、海外での運転経験を理由とした教育の省略は認められていません。日本固有の警報音・標識・安全規格を学ぶ必要があるため、経験者でもフルコースで受講するのが原則です。ただし実技の進度は速いケースが多いので、指導者の運用判断で実技時間を効率化できます。
Q3. 集合研修と eラーニングはどちらが良いですか?
学科はeラーニング(母国語動画+理解度テスト)、実技は現場での集合指導、というハイブリッドが標準です。学科を集合研修で日本語のみで実施するパターンは、外国人にとって理解の壁が高くなります。
Q4. 技能講習はベトナム語で受講できますか?
技能講習は登録教習機関での実施が必須で、ベトナム語対応の登録教習機関は限定的です。多くの場合、通訳同席で日本語講習を受講する形になります。事前に教習機関に通訳手配の可否を確認してください。
参考一次資料
- 労働安全衛生法 第59条第3項(特別教育)— e-Gov 法令検索で「労働安全衛生法」を検索
- 労働安全衛生規則 第36条第5号(フォークリフト特別教育の対象)— e-Gov 法令検索で「労働安全衛生規則」を検索
- 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」— 厚生労働省ホームページ内で最新版を検索



