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自動車整備業の外国人労働者 安全衛生教育|特定技能2号受入に備える多言語教育の進め方

特定技能2号の拡大で自動車整備業への外国人労働者の参入が加速しています。リフト作業中の挟まれ・廃液による化学やけど・EV高電圧感電など整備工場固有のリスクと、雇入れ時教育8項目・EV特別教育・化学物質SDS多言語周知の実務手順を整理します。

自動車整備業の外国人労働者 安全衛生教育|特定技能2号受入に備える多言語教育の進め方

自動車整備業への外国人労働者の参入が、急速に進んでいます。特定技能制度の整備分野では2024年6月末時点で5,845人が在留しており(国土交通省公表)、2028年度末までに最大10,000人の受入れが政府計画として示されています。2023年5月には更新上限のない特定技能2号の対象分野にも追加され、長期就労できる外国人整備士が本格的に増える局面に入りました。

整備工場には「リフト作業中の挟まれ」「廃液による化学やけど」「EV・HV整備での高電圧感電」など、他の製造業種にはない固有の危険があります。採用してすぐに現場に出してしまう前に、どんな安全衛生教育が必要か、この記事で整理します。

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自動車整備業の外国人受入が加速している理由

少子化が、整備業界を直撃しています。

自動車整備学校への入学者数は10年以上減り続けており、整備要員の平均年齢は上昇の一途をたどっています。2023年時点で全国の整備実務担当者は約40万人いますが、このまま日本人だけで採用し続けることは現実的ではありません。

そこで政府は2024年4月から2028年度末にかけて、特定技能「自動車整備」分野の受入枠を最大10,000人に設定しました。2024年7月には特定技能2号の評価試験も始まり、いよいよ更新制限なしで長期就労できる外国人整備士の育成が本格化しています。

率直に申し上げると、現場の受入ペースは計画を上回っています。すでに5,845人が在留しており、「急いで採用したが教育が追いついていない」という声が増えているのも、この急成長が背景にあります。

特定技能2号の対象分野追加(2023年5月)と評価試験開始(2024年7月)により、自動車整備業は「短期採用」から「長期育成」のフェーズへ移行しています。安全衛生教育の整備は、長期育成のコストとして早めに織り込む必要があります。

整備工場が抱える4大リスク

整備工場は製造業や建設業とは異なる、固有の危険環境です。外国人労働者を現場に配置する前に、以下の4つのリスクを必ず押さえてください。

リフト下での挟まれ・転落

車両をリフトで持ち上げる作業は、上昇・下降中の挟まれ事故が後を絶ちません。「操作レバーの位置」「停止タイミング」は、ベテランが体で覚えてきた感覚です。日本語で口頭説明するだけでは、外国人労働者に伝わりません。

廃液・冷媒・バッテリー酸による化学やけど

ブレーキフルード(ブレーキ液)、エアコン冷媒、バッテリー電解液(希硫酸)など、整備工場には皮膚や目に深刻なダメージを与える化学物質が日常的に存在しています。容器ラベルや取扱い説明が日本語だけでは、外国人労働者に危険性が伝わりません。

工具による切創・挟まれ

インパクトレンチやグラインダーなどの高速回転工具は、正しい手順を身につける前に使うと切創・挟まれ事故に直結します。工具の名称や使用禁止状況の多言語化が、事故防止の鍵です。

入庫車両の発進・接触事故

「エンジンをかけたまま整備しない」「車両の前後に立たない」は、ベテランには暗黙の了解です。でも外国人労働者には、文字どおり言葉で伝えなければ伝わりません。顧客車両の誤発進は、人身事故だけでなく深刻な顧客トラブルにもなります。

雇入れ時教育で整備業特有の危険を伝える

労働安全衛生法第59条第1項(雇い入れたときの安全衛生教育義務)は、業種・国籍を問わず全事業者に課されています。令和6年4月の改正で業種制限が撤廃されたため、自動車整備業でも安衛則第35条の8項目すべてが対象です。

8項目を自動車整備業に当てはめると、次のように読み替えられます。

  1. 機械・原材料の危険性・有害性 → リフト・工具・化学物質の危険
  2. 安全装置・保護具の性能と扱い方 → ゴーグル・手袋・安全靴の着用方法
  3. 作業手順 → 整備手順の正しい流れ
  4. 作業開始前の点検 → 使用前点検のチェックポイント
  5. 疾病の原因・予防 → 廃液・冷媒・粉じんによる健康障害
  6. 整理・整頓・清潔の保持 → 工具の定位置管理・床の清掃
  7. 事故時の応急措置・退避 → 119番通報・避難経路
  8. その他の安全衛生事項 → 入庫車両の取扱い・顧客対応

現場の方ならご存知のとおり、この8項目を日本語テキストだけで読ませるのは外国人には機能しません。各項目を母国語で、整備工場の実写真や図解つきで提供することが、安全配慮義務を果たす最低ラインです。

「実施した」と「理解させた」は別物です。大阪地裁2024年7月31日判決は、教育記録が存在していても労働者が理解できていなかった場合に安全配慮義務違反と判断しました。

化学物質の教育:廃液・冷媒・バッテリー酸を「見えるリスク」に変える

2024年4月施行の化学物質管理規制改正(自律管理型への転換)により、事業者がSDS(安全データシート)情報を労働者に周知する義務が強化されました。整備工場で注意が必要な主な化学物質を確認しておきましょう。

ブレーキフルード(ポリエチレングリコール系)

皮膚への長期接触で皮膚炎を起こします。「さらさらした無害そうな液体」という見た目から危険物と認識されにくく、作業用手袋を透過するタイプも存在します。外国人労働者に「水に似た液体でも触り続けると危険」という認識を持たせることが必要です。

エアコン冷媒(HFCガス・HFO系)

容器漏れ時の凍傷や酸欠リスクがあります。「透明で無臭のガス」という特性から、外国人労働者が「危なくないもの」と軽視するケースが現場から報告されています。

バッテリー電解液(希硫酸)

EV・HVのリチウムイオンバッテリーや一般の鉛蓄電池に含まれる強酸です。目への飛散は失明の危険があります。「バッテリー交換前に必ずゴーグルをつける」を5言語で周知することが、整備工場の実務基準です。

ここがポイントなのですが、2024年改正により全事業場で化学物質管理者の選任義務が生じています。化学物質管理者はSDS情報を「労働者が理解できる言語」で周知する実質的な義務を負っており、日本語だけのSDS冊子を渡すだけでは監督署の指導対象になりえます。

「透明で無害そうに見える液体でも、繰り返し触ると体を壊す」——この感覚を外国人労働者に持ってもらうことが、整備工場の化学物質教育のゴールです。写真やイラスト入りの多言語説明が、その最短ルートです。

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EV・HV整備に必要な特別教育(令和元年から義務化)

電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の普及に伴い、整備工場では見落とされがちな特別教育の義務があります。

労働安全衛生規則第36条第4号の2(令和元年10月1日施行)により、対地電圧50Vを超える蓄電池を内蔵するEV・HV・PHEV・燃料電池車などの整備業務に従事させる場合、事業者は特別教育(安全のための専門的な訓練)の実施が義務付けられています。

カリキュラムは学科6時間+実技1時間の合計7時間で、主な内容は次のとおりです。

  • 電気自動車等の構造と電気系統の取扱い(3時間)
  • 電気装置の点検・整備方法(2時間)
  • 関係法令(1時間)
  • 実技:電気系統の点検・整備(1時間)

外国人整備士がEV整備を担当する場合、この特別教育を日本語で受講させるだけでは安全配慮義務上の問題が残ります。「高電圧部分には触れない」「絶縁手袋の着用タイミング」など、命に直結する手順を本当に理解しているかが問われます。

実はこれ、現場では「EVは難しいから外国人には触らせない」と回避しているケースも少なくありません。ただ、特定技能2号の整備士が増える中で、多言語版の特別教育教材を確保し、理解度を確認しながら受講させる体制を整えることが、長期的な人材育成の投資になります。

「EVには触らせない」という回避策は短期的には安全ですが、長期就労する外国人整備士のスキルアップを止めてしまいます。特別教育の多言語対応は、採用競争力にも影響します。

多言語対応の実務ステップ

整備工場で多言語安全教育を始める際の、現実的な手順を示します。

Step 1: 在籍者の国籍・言語を把握する

特定技能を通じた受入が多い整備業ではベトナム語・インドネシア語・中国語の比率が高い傾向があります。採用前に対応すべき言語を確定させましょう。

Step 2: 雇入れ時教育を母国語で実施する

法令上「日本語で実施すること」という規定はありません。「本人が理解できる言語で」実施することが安全配慮義務上の要請です。採用直後が最も事故リスクが高い時期であり、雇入れ時教育は最初に手を打つべき優先事項です。

Step 3: EV整備配属前に特別教育を実施する

EV・HV整備に配属する前に安衛則第36条第4号の2の特別教育(学科6時間+実技1時間)を受講させ、理解度確認テストの結果と記録を3年間保管します。

Step 4: 化学物質のSDS要約を多言語で周知する

工場内の取扱化学物質(ブレーキ液・冷媒・バッテリー液等)のSDS要約を、日本語・英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語で作業場に掲示または配布します。

Step 5: 記録を整備する

雇入れ時教育・特別教育ともに、受講日・対象者名・実施言語・理解度確認結果を記録します。特別教育は安衛則第38条で3年間の保管義務があります。元請・監督署に提示できる形で保管することが、万が一の際の備えになります。

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まとめ

自動車整備業への外国人労働者の参入は、特定技能2号の整備も進み今後さらに加速します。整備工場特有のリスク(リフト事故・化学やけど・EV高電圧感電)を考えると、多言語安全教育の整備は「いつかやること」ではなく、採用と同時に動き出すべき課題です。

まず雇入れ時教育を母国語対応の教材で実施し、EV整備担当者には安衛則第36条第4号の2の特別教育を追加で行う。化学物質のSDS情報も多言語で周知する。この3点セットが、整備工場における安全配慮義務の現実的な起点です。


よくある質問

Q. 外国人整備士に対しても雇入れ時教育は義務ですか?

はい、義務です。労働安全衛生法第59条第1項は業種・国籍を問わず全労働者への雇入れ時教育を義務付けています。令和6年4月の改正で業種制限も撤廃されたため、自動車整備業でも安衛則第35条の8項目すべてが対象です。外国語で実施しても法令違反にはなりませんが、日本語の教材を渡すだけでは安全配慮義務を果たしたとはいえません。

Q. EVを整備させるために特別教育は必須ですか?

はい、必須です。対地電圧50Vを超える蓄電池を内蔵するEV・HV・PHV等の整備業務に従事させる場合は、安衛則第36条第4号の2に基づく特別教育(学科6時間+実技1時間)の実施が義務です。未実施のまま従事させると労働安全衛生法違反(50万円以下の罰金)の対象になります。

Q. 化学物質のSDSは必ず多言語版を用意しないといけませんか?

法令上「多言語版SDSの作成義務」を明示した条文はありません。ただし、外国人労働者が危険性を理解しないまま作業して事故が起きた場合、「日本語だけのSDS提供」が安全配慮義務違反の証拠になりえます。SDS全文でなくても、危険情報・保護具・応急措置を多言語で周知することを強く推奨します。

Q. 特定技能2号は日本語能力が高いから日本語教材で問題ないのでは?

特定技能2号の取得要件に日本語能力試験の合格は含まれていません(自動車整備分野では技術評価試験が主な要件)。日常会話ができても安全衛生の専門用語を正確に理解しているとは限りません。命に関わる内容は、理解度確認テストを母国語で実施することをお勧めします。

Q. 技能実習から育成就労制度に移行する外国人整備士にも教育が必要ですか?

在留資格が変わっても、新しい業務や作業環境に変更がある場合は「作業内容変更時教育」(労安法第59条第2項)が求められます。育成就労では監理支援機関がサポートに関わる場合もありますが、安全衛生教育の実施義務は最終的に事業者が負います。

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