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飲食業・小売業の外国人労働者 安全衛生教育|切り傷・やけど・転倒の防止実務

飲食店・小売店に増える外国人スタッフの安全を守るための教育実務ガイド。切り傷・やけど・転倒・熱中症の4大リスクを業種別に整理し、雇入れ時教育8項目の当てはめ方と多言語対応のポイントを解説します。(約3,500字)

飲食業・小売業の外国人労働者 安全衛生教育|切り傷・やけど・転倒の防止実務

「新しく入ったベトナム人スタッフが、包丁を素手で洗って指を切った」「フィリピン人の方が厨房の油床で滑って腰を打った」——飲食店や小売店でこうした事故が増えています。外国人労働者の受入れが急速に進む一方、小規模な店舗では安全教育が後回しになりがちです。この記事では、飲食業・小売業に特有の4大リスクと、雇入れ時教育の具体的な実施方法を整理します。

外国人雇用の急増

飲食業・小売業への外国人労働者の流入は、ここ数年で大きく加速しています。特定技能1号「外食業」分野は2026年2月末時点で約4万6,000人に達し、受入れ見込数(上限5万人)到達が見込まれたことから、2026年4月13日以降、在留資格認定証明書の交付が原則停止されています(出入国在留管理庁「特定技能『外食業分野』における在留資格認定証明書交付の一時停止措置について」)。すでに就労中の方の転職などは引き続き審査対象ですが、新規の海外からの受入れは事実上止まった状態です。

つまりこれからの飲食業は、「新しく採る」よりもすでに働いている外国人スタッフに長く安全に働いてもらうフェーズに入りました。定着と安全教育の重要性は、むしろ以前より高まっています。

小売業でも外食業と並行して外国人パート・アルバイトが増加しており、コンビニエンスストアや量販店では外国人スタッフなしで店舗を回せない状況が当たり前になっています。

これだけ人が増えているにもかかわらず、「日本語のマニュアルを渡して終わり」という運用が多いのが現実です。

4大リスクとは

厚生労働省の資料(「第三次産業における安全衛生の課題」)によると、飲食店・小売業の労働災害の上位は以下のとおりです。

飲食業の上位リスク

順位 事故の型 典型例
1位 転倒 油床・濡れた床でのスリップ
2位 切れ・こすれ 包丁・スライサー・缶詰の端での切り傷
3位 高温・低温との接触 フライヤー油・スチームでのやけど

小売業の上位リスク

順位 事故の型 典型例
1位 転倒 売場・バックヤードの床での転倒
2位 動作の反動・無理な動作 重い箱の上げ下ろしによる腰痛
3位 墜落・転落 脚立・棚の高所からの落下

外国人労働者の死傷年千人率は令和7年で2.77(全労働者平均2.32)と、全労働者平均を上回ったままです。第14次労働災害防止計画(2023〜2027年度)では「外国人の死傷年千人率を2027年までに全体平均以下にする」との数値目標が設定されており、この業種の安全教育強化は国全体の課題になっています。

なぜ外国人に多いのか

飲食・小売の現場で外国人が被災しやすい理由は主に3つです。

①言語の壁 日本語のみの手順書・掲示物を読み飛ばしてしまう。「熱い」「滑る」の警告表示が理解されない。

②「大丈夫です」問題 「自分は怪我していない」「報告すると怒られそう」という心理から、ヒヤリハットを上司に伝えない。

③慣れていない設備や食材 母国では扱ったことのない大型スライサー・業務用フライヤー・缶詰カッターなどの危険を体感として知らない。

小さな職場の落とし穴

飲食店・小売店の多くは従業員30人以下の小規模事業場です。安全管理の体制が整っていないことが多く、典型的な問題が2つあります。

推進者の未選任

常時10人以上50人未満の事業場では、推進者の選任が義務です(安衛法第12条の2)。ここで注意したいのが業種による区分です。各種商品小売業・家具等小売業・燃料小売業など施行令第2条第2号に挙げられた業種は安全衛生推進者(安全・衛生の両方を担当)ですが、一般の飲食店やそれ以外の小売業はこれに含まれないため、法令上の義務は衛生推進者(衛生分野のみ)の選任になります。

ただし厚生労働省のガイドラインでは、小売業(各種商品小売業等を除く)・飲食店・社会福祉施設について安全衛生推進者を選任することが望ましいとされています。転倒や切創といった「安全」側のリスクが大きい業態である以上、法令上の最低ラインが衛生推進者であっても、安全面まで見る担当者を置くほうが実態に合います。いずれにせよ未選任のままでは安全教育の担当者が不明確になり、体系的な教育が実施されにくくなります。選任の実務は安全管理者の選任と外国人対応で詳しく整理しています。

OJT(見て覚える)に頼った教育

「先輩の仕事を見ながら覚えてもらう」という運用は、日本語のコミュニケーションが前提です。外国人スタッフにとっては、何を観察すればいいかさえ分からないことがあります。法令上の義務である雇入れ時教育(安衛法第59条第1項・安衛則第35条)を正式に実施してこそ、事業者として責任を果たしたことになります。

雇入れ時教育8項目の当てはめ

安衛則第35条が定める雇入れ時教育の8項目を、飲食・小売業に即して整理します。なお令和6年4月の改正で、それまで非工業的業種に認められていた1〜4号の省略規定が削除され、飲食・小売を含む全業種で8項目すべてが必須になりました(詳細は雇入れ時教育の法改正(令和6年4月))。

No. 法令上の項目 飲食・小売業での具体例
機械等・原材料の危険性と取扱い方法 スライサー・フライヤー・缶詰カッターの正しい操作手順
安全装置・保護具の性能と取扱い方法 耐切創グローブ・防熱エプロン・安全靴の着用方法
作業手順 調理器具の使用順・清掃手順・商品補充の動線ルール
作業開始時の点検 刃物の欠けの確認・床の乾燥確認・フライヤー油の温度確認
疾病の原因と予防 熱中症・食中毒・腰痛・切り傷感染の予防知識
整理・整頓・清潔の保持 床の油汚れの即拭き取り・通路確保・冷蔵庫の温度管理
事故時の応急措置と退避 切り傷・やけど時の止血・冷却手順・緊急連絡先の確認
その他必要な安全衛生事項 非常口の場所・避難経路・熱中症症状の申告方法

雇入れ時教育の未実施には罰則があります。安衛法第59条第1項に違反した場合、同法第120条第1号により50万円以下の罰金が科され得ます(拘禁刑の規定はありません)。実務上はまず労働基準監督署の是正勧告を受け、改善されなければ送検リスクを負う流れです。何より、教育の不実施が労災につながった場合は安全配慮義務違反として民事賠償を問われます。

外国人への対応のポイント: 上記8項目の説明資料を母国語(ベトナム語・中国語・インドネシア語など)で用意し、口頭説明を補完することが安全配慮義務の観点から重要です。日本語だけの説明は「実施したこと」にはなっても「理解させたこと」にはならない——そう評価された裁判例があります。大阪地裁2024年7月31日判決は、日本語の読み書きが困難なベトナム人労働者にプレス機の安全教育を日本語資料のみで行っていた事案について、母国語の資料や通訳による教育を欠いたことを安全配慮義務違反と認定しました。

多言語対応の実務

調理器具・厨房機器の安全使用を言語の壁を越えて伝える

飲食・小売業での多言語対応は、4つのアプローチの組み合わせが効果的です。

ピクトグラム+多言語テキストのセット掲示

「刃物の刃は内向きに置く」「フライヤー付近では走らない」「油床は即時拭き取る」といった禁止事項と注意事項を、ISO 7010に準拠した安全標識とともに母国語テキストで壁面に掲示します。絵だけでは「使ってはいけない」のか「注意して使う」のかが判別できないため、テキストとの組み合わせが必須です。標識の選び方と掲示のコツは安全標識・ピクトグラムの多言語活用法にまとめています。

動画マニュアルの活用

スライサーやフライヤーの操作手順は、「実演動画+母国語字幕」の形式が最も伝わります。スマートフォンで見られる2分程度の動画を作業場入口のQRコードからアクセスできるようにすると、入社時だけでなく作業開始前の確認にも使えます。

デモ→模倣→確認の3ステップOJT

言語に頼らず「見せる→やってもらう→確認する」のステップで実技指導します。「分かりましたか?」と聞くのではなく、実際に操作してもらい、正しくできているかを目で確認します。

緊急時の多言語カード

やけどを負ったとき・指を切ったときの応急処置手順を、母国語で1枚のカードにまとめて各スタッフに持たせます。「①流水で10分冷やす」「②管理者を呼ぶ」「③救急は119番に電話する」という構成で、パニック状態でも手順を追えるようにします。日本の緊急番号(救急・消防119/警察110)は母国と異なるため、番号そのものをカードに大きく記載しておくことが重要です。

熱中症・転倒への対応

熱中症対策は2025年6月から義務化

2025年6月施行の安衛則改正により、事業者に熱中症対策の計画策定・周知義務が課されました(罰則付き)。飲食業の厨房は夏場に室温が40℃を超えることもあり、特に注意が必要です。外国人労働者は「大丈夫」と無理をしがちで、また断食月(ラマダン)の期間中は水分補給が難しくなるケースもあります。対応の詳細は、熱中症対策の義務化(2025年6月施行)と外国人労働者 をご参照ください。

転倒防止は4S活動から

転倒は飲食・小売両業種で最多の事故類型です。油床・水濡れ床は外国人にとっても日本人にとっても同じく危険ですが、外国人の場合は「この床は滑る」という感覚知識が少ないことがあります。母国の厨房や店舗とは異なる床材への注意を、入社初日に必ず伝えましょう。転倒防止の多言語教育の詳細は、転倒・つまずき災害防止と外国人労働者 をご参照ください。

Labonaの活用

法定8項目に対応した Labona の雇入れ時安全衛生教育(5言語対応)は、本人の言語設定で受講できます。受講日時・使用言語・理解度テストの結果が記録として残るため、「日本語で説明した」ではなく「母国語で理解させた」ことを労働基準監督署の臨検や元請監査に示せます。

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まとめ

飲食業・小売業は外国人の受入れが急拡大する一方、小規模事業場が多く体系的な安全教育が後手に回りやすい業種です。切り傷・やけど・転倒・熱中症という4大リスクに対して、法令上義務である雇入れ時教育(安衛則第35条の8項目)を母国語で実施することが、安全配慮義務を果たすうえでの最低ラインです。

「日本語のマニュアルを渡した」だけでは不十分です。ピクトグラム・動画・多言語カードを組み合わせ、「理解させた」というエビデンスを記録に残しましょう。

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よくある質問

外国人スタッフへの雇入れ時教育は日本語でやらないといけませんか?

法令に「日本語で実施せよ」という規定はありません。むしろ、労働者が理解できない言語のみで教育を行った場合、安全配慮義務を果たしていないと評価される可能性があります(大阪地裁2024年7月31日判決。日本語が読めないベトナム人労働者への日本語のみの安全教育を義務違反とした事例)。教育資料の母国語版を用意し、理解度を確認したうえで記録を残すことが重要です。

飲食店で特別教育(安衛法59条3項)が必要な業務はありますか?

一般的な調理・接客業務には特別教育の義務はありません。ただし、業務用のチェーンソーや高所作業車を使用する場合など、特定の危険業務に従事させる場合は該当します。迷った場合は、実施している業務が安衛則第36条の「特別教育を必要とする業務」に該当しないかを確認してください。

アルバイト(短時間勤務)の外国人スタッフにも雇入れ時教育は必要ですか?

はい、必要です。雇用形態(正社員・パート・アルバイト)や国籍にかかわらず、雇入れ時教育の実施義務があります(安衛法第59条第1項)。未実施は同法第120条第1号により50万円以下の罰金の対象です。短時間勤務であっても、初日の勤務開始前に少なくとも危険作業に関する項目を説明することが求められます。

教育を実施した記録はどのくらい保管すればよいですか?

法令上、雇入れ時教育の記録保管期間に明示的な定めはありません(安衛則第38条の3年間保存義務は特別教育のみに適用され、雇入れ時教育には及びません)。ただし実務上は、同条にならって3年間保管するのが標準的な運用です。受講者の署名・受講日・使用言語・理解度確認の結果を記録しておくと、労働基準監督署の臨検対応や元請の監査に備えられます。


参考一次資料

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