要約
- 清掃業・ビルメンテナンスの外国人労働者が直面する3大リスクは「洗剤・薬品による化学熱傷」「高所清掃での墜落・転落」「電気設備付近での感電」
- 採用時は全労働者に**雇入れ時教育(労安法第59条第1項・安衛則第35条)**が必要。未実施は労安法第120条により50万円以下の罰金
- 高さ2m以上での高所清掃はフルハーネス特別教育(安衛則第36条第41号)、ロープを使う外装清掃はロープ高所作業特別教育(安衛則第36条第40号)が必要
- 充電部が露出した開閉器操作や充電電路の敷設には、低圧電気取扱業務の特別教育(安衛則第36条第4号)も求められる
- 外国人労働者には本人が理解できる言語での実施が安全配慮義務の観点から必要
「清掃員さんはとりあえず入社してすぐ現場に入ってもらっている」——こうした運用が残る事業場では、外国人労働者が法的に必要な安全教育を受けないまま危険な作業に就いている可能性があります。清掃業・ビルメンテナンス業は、その「単純作業に見える」外観とは裏腹に、洗剤・薬品の化学的リスク、高所での墜落リスク、電気設備周辺の感電リスクが重なる業種です。
「母国では使わない種類の洗剤」「なじみのない電気設備の電圧区分」「高所作業の安全ルールの違い」——言語と文化の壁がそのまま事故の背景になりやすい業種です。この記事では清掃業・ビルメンテナンス業特有の3大リスクを整理し、事業者が実施しなければならない雇入れ時教育と特別教育の全体像を解説します。
清掃業・ビルメンテナンスの外国人雇用と3大リスク
特定技能1号「ビルクリーニング」分野が2019年に創設されて以降、清掃業・ビルメンテナンス業での外国人受入れは増加傾向にあります。技能実習・特定技能・特定活動などの形態で、ベトナム・インドネシア・フィリピン出身者が多く就労しています。
業種特有の3大リスクを先に整理します。
| リスク | 主な危険 | 関連する特別教育 |
|---|---|---|
| ①洗剤・薬品の誤用 | 化学熱傷・目や皮膚への刺激 | なし(雇入れ時教育で対応) |
| ②高所清掃での墜落・転落 | 脚立・屋上・外壁清掃での落下 | フルハーネス特別教育・ロープ高所作業特別教育 |
| ③電気設備付近での感電 | 開閉器操作・充電部への近接作業 | 低圧電気取扱業務特別教育 |
3つのリスクは独立しているわけではなく、「外壁洗浄で高所に上がりながら洗剤を使い、近くに電気設備がある」という複合リスクとして現場に存在します。
洗剤・薬品リスクへの対処
業務用洗剤には、家庭用とはまったく異なる強アルカリ性・強酸性のものが含まれます。皮膚に付着すれば化学熱傷を引き起こし、蒸気を吸引すれば粘膜障害につながるものもあります。外国人労働者に特有のリスクは3点です。
- ラベルが読めない: 日本語のみの警告表示が理解できない
- 色規則を知らない: 「赤いボトル=危険」といった日本式の慣習を知らない場合がある
- 混合の危険を知らない: 酸性洗剤とアルカリ性洗剤を混合すると有毒ガスが発生するが、母国でその概念を習得する機会がなかったケースがある
GHSラベル・SDSの多言語化が有効な対策です。国際規格のGHSシンボルは言語に依存しない視覚情報ですが、注意文・取扱い方法は母国語での説明が必要です。安全データシート(SDS)の多言語展開については化学物質管理者制度と外国人労働者で詳しく解説しています。
洗剤・薬品リスクへの基本的な教育は、雇入れ時教育(後述)の枠組みで実施します。安衛則第35条第1項第1号「原材料等の危険性・有害性とその取扱い方法」と第5号「疾病の原因及び予防」が直接対応する項目です。
高所清掃と特別教育(フルハーネス・ロープ高所)
外壁清掃、窓清掃(ゴンドラ・ロープ使用)、屋上設備の清掃など、清掃業・ビルメンテナンス業には高所作業が多く含まれます。墜落・転落は建設業だけの問題ではなく、清掃業でも死傷事故の主要原因の一つです。
フルハーネス型墜落制止用器具の特別教育(安衛則第36条第41号)
高さ2m以上の箇所でフルハーネス型の墜落制止用器具を使用する業務に就かせる前に、事業者は特別教育を実施しなければなりません(安衛則第36条第41号)。
| 区分 | 時間 |
|---|---|
| 学科(作業の知識・器具の知識・災害防止・関係法令) | 4.5時間 |
| 実技 | 1.5時間 |
脚立から屋上へ、屋上から外壁へと作業が広がるなかで、「2mの高さ」は清掃現場でも容易に超えます。外国人労働者への多言語実施の詳細はフルハーネス特別教育を多言語で実施する方法をご参照ください。学科部分は Labona のフルハーネス型墜落制止用器具特別教育(5言語対応)でも受講できます。
ロープ高所作業の特別教育(安衛則第36条第40号)
ビルの外装清掃でロープを使って壁面を下降しながら作業する「ロープ高所作業」は、安衛則第36条第40号の特別教育対象です。フルハーネス特別教育とは別の特別教育であり、外装清掃の現場では両方が必要なケースが多くあります。
| 区分 | 時間 |
|---|---|
| 学科(ロープ高所作業に関する知識・メインロープ等に関する知識・労働災害の防止に関する知識・関係法令) | 4時間 |
| 実技(ロープ高所作業の方法・墜落制止用器具等の取扱い・メインロープ等の点検) | 3時間 |
科目と時間数は安全衛生特別教育規程第23条によります。
外国人の清掃員がロープ高所作業に就く際の多言語対応についてはロープ高所作業の特別教育を外国人に外国語で実施する方法で解説しています。
感電防止と特別教育(低圧電気取扱業務)
ビルメンテナンスでは、分電盤のブレーカー操作、照明器具の交換、空調設備の点検など、電気設備に近接する作業が発生します。「スイッチを切るだけ」と軽視されがちですが、充電部が露出した状態での操作は感電リスクを伴います。
低圧電気取扱業務の特別教育(安衛則第36条第4号)
充電電路の敷設・修理、または充電部が露出した開閉器の操作を行う者には、安衛則第36条第4号の特別教育が必要です。
| 業務 | 学科 | 実技 |
|---|---|---|
| 充電電路の敷設・修理(活線作業) | 7時間 | 7時間 |
| 充電部露出開閉器の操作のみ | 7時間 | 1時間 |
「なぜ開閉器を操作するだけで教育が必要なのか」を外国人の方に母国語で理解させることが、形式的な教育を実のあるものにする第一歩です。詳しくは低圧電気取扱業務 特別教育を外国人に外国語で実施する方法をご覧ください。学科は Labona の低圧電気取扱業務特別教育(5言語対応)で受講できます。
雇入れ時教育(労安法第59条第1項)の進め方
上記の特別教育とは別に、採用した全員に実施しなければならない教育があります。雇入れ時教育です。
法令の根拠と8項目
労安法第59条第1項と安衛則第35条により、事業者は労働者を雇い入れたときに8項目の安全衛生教育を実施する義務があります。業種・規模の制限はなく、清掃員・外国人・アルバイト問わず全員が対象です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 機械等・原材料等の危険性・有害性とその取扱い方法 |
| 2 | 安全装置・保護具の性能とその取扱い方法 |
| 3 | 作業手順 |
| 4 | 作業開始時の点検 |
| 5 | 業務に関して発生するおそれのある疾病の原因・予防 |
| 6 | 整理・整頓・清潔の保持 |
| 7 | 事故時等における応急措置・退避 |
| 8 | その他当該業務の安全衛生に必要な事項 |
清掃業では、①洗剤・薬品の取扱い(項目1・2・5)、②高所作業での安全確認(項目3・4)、③緊急時の洗眼・避難方法(項目7)が特に重要な教育内容になります。
外国語での実施と安全配慮義務
雇入れ時教育は「外国人に日本語で実施すれば形式的に完了」ではありません。大阪地裁2024年7月31日判決では、日本語のみで実施した安全教育が理解できていなかったとして事業者の責任が問われた事案が生じています(安全配慮義務と外国人労働者を参照)。
外国語での実施が難しい場合は、本人の言語設定でeラーニングを受講する方法が有効です。受講記録(日時・言語・理解度テスト結果)が記録されるため、監督署対応や元請監査の際のエビデンスとして機能します。法定8項目に対応した Labona の雇入れ時安全衛生教育(5言語対応)はこの用途に使えます。
未実施の罰則
雇入れ時教育(労安法第59条第1項)の未実施は、労安法第120条により50万円以下の罰金の対象です。さらに、未実施の状態で事故が起きた場合は安全配慮義務違反による民事損害賠償のリスクが生じます。罰金より重いのは民事リスクという認識が必要です。
Labonaの活用
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まとめ
清掃業・ビルメンテナンス業で外国人労働者を受け入れる際に事業者が押さえるべき安全衛生教育の全体像を整理します。
- 雇入れ時教育(労安法第59条第1項・安衛則第35条): 採用した全員に8項目を、本人が理解できる言語で
- フルハーネス特別教育(安衛則第36条第41号): 高さ2m以上でハーネスを使用する作業に就かせる前に
- ロープ高所作業特別教育(安衛則第36条第40号): ロープ降下での外装清掃をさせる前に
- 低圧電気取扱業務特別教育(安衛則第36条第4号): 充電部に近接する操作・作業をさせる前に
「教育をやった記録はある、でも外国人には日本語のテキストを渡しただけ」という状況は、法的にも安全上も不十分です。本人が理解できる言語での教育と、その記録の整備が現場の安全を守ります。
よくある質問
清掃業でも特別教育は必要ですか?
業種に関係なく、安衛則第36条に定められた業務(フルハーネス使用、ロープ高所作業、低圧電気取扱など)に従事させる場合は特別教育が必要です。清掃業であっても、高所作業や電気設備の操作が業務に含まれる場合は対象になります。
外国人に日本語で雇入れ時教育を実施しても問題ありませんか?
法令に「日本語で実施すること」という定めはありませんが、「労働者が理解できる言語で実施すること」が安全配慮義務の観点から求められます。内容を理解できない状態での「実施」は、事故発生時に形式的な履行として否定されるリスクがあります。
雇入れ時教育の記録はどのくらい保管すればよいですか?
特別教育の記録保管義務(安衛則第38条:3年間)に準じて、雇入れ時教育も実務上3年間の記録保管が標準です。安衛則第38条は特別教育の記録を対象とした条文であり、雇入れ時教育の保管期間を直接定めたものではありませんが、監督署対応や元請監査を踏まえると同様の扱いが現実的です。
外国人の特定技能「ビルクリーニング」も同様の教育が必要ですか?
在留資格の種類にかかわらず、事業場で従事する業務が特別教育の対象であれば、実施義務があります。労安法・安衛則は国籍・在留資格を問わず全ての労働者に適用されます。
参考一次資料
以下の一次資料で条文を確認することを推奨します。


