「農業は自然の中でやるから、工場より安全だろう」。そう思っていませんか。実は逆です。農業は全産業のなかでも死亡労災率が高い業種のひとつで、外国人労働者は言語の壁もあって特にリスクが高い状況に置かれています。特定技能農業分野の受入人数は2026年3月時点で約3.9万人に達し、農繁期のたびに「安全教育を後回しにしていた」という現場の声を聞きます。この記事では、農業に特有の3大リスクと、外国人スタッフへの実践的な安全衛生教育の進め方を整理します。
農業で外国人が急増している
農業分野の特定技能外国人数(2026年3月時点)は約3万9,234人です。受入上限78,000人の約50%に達しており、今後の増加ペースは続く見通しです(出入国在留管理庁の公表データおよびMEIKOGLOBAL調査より)。2027年4月からは育成就労制度が始まり、農業分野でもさらに2万人超の受入が見込まれています。
国籍別ではベトナム、インドネシア、フィリピンの3カ国が多くを占めます。日本語の読み書きはできても、農作業の専門用語や安全標識の意味はほとんど伝わりません。
実はこれ、現場では深刻な問題です。農業経営体の多くは従業員数が少なく、専任の安全担当者がいません。日本人ベテラン農家が「見て覚えろ」で外国人スタッフを指導しようとしても、言語が通じなければ伝わらないことがたくさんあります。
農業に特有の3大リスクとは
農業の安全衛生は、建設業や製造業と違う面があります。屋外・季節変動・農機具・農薬という組み合わせが特有のリスクを生みます。大きく3つに整理しました。
農林水産省の調査によると、農作業中の死亡事故の約7割は農業機械が関与しており、乗用型トラクターの転落が最多の原因です。
外国人労働者は母国で大型農機を扱った経験がない人が多く、日本の機械操作に慣れるまでの時期が最も危険です。
リスク1:農機具の転落・接触
農業機械の事故で最も多いのが乗用型トラクターの転落・転倒です。畦道や傾斜地での操作中に横転するケースが目立ちます。安全フレームを正しく立て、シートベルトを着用していれば軽傷で済む事故でも、未着用だと死亡につながります(農林水産省「農作業安全対策」より)。
刈払機(草刈機)の接触も要注意です。刈払機を使用する業務に就かせる場合、事業者は「刈払機取扱作業者安全衛生教育」を実施する必要があります。これは労働安全衛生法第60条の2と昭和60年の基発第666号通達に基づく安全衛生教育で、学科5時間・実技1時間の合計6時間のカリキュラムが定められています。
外国人労働者に母国語でこの教育を受けさせることが、安全配慮義務(労働契約法第5条・つまり「会社が従業員を危険から守る責任」)の観点から強く求められます。
ここがポイントなのですが、刈払機の事故の多くは「石の飛来による目の負傷」と「刃の接触による切創」です。防護メガネとチャップスの着用を、絵と母国語で説明しないと「面倒だから付けない」という行動が出ます。
リスク2:農薬散布中の中毒と皮膚吸収
農薬は正しく使えば安全ですが、誤った方法で扱うと健康障害を引き起こします。農薬を散布する業務に就かせる場合、事業者には雇入れ時教育(労安法第59条第1項)の中でその取扱いを説明する義務があります。
農薬のラベルやSDS(安全データシート・農薬の危険性と取扱方法を記載した文書)は日本語で記載されています。外国人スタッフが日本語のSDS を読んで農薬の危険性を理解することは、現実的には難しい。
正直なところ、「農薬は怖くない」と思っている外国人スタッフが多いのが実態です。母国では農薬を素手で扱ったり、保護具なしで散布したりすることが普通だった、という人も少なくありません。農薬の皮膚吸収と吸入は、症状が出るまでタイムラグがあることを、母国語で正確に伝えることが重要です。
農薬対応で、最初にやっておくべきことは3つです。
- 農薬の種類ごとに母国語での使用上の注意を用意する
- 保護具(防護手袋・防護めがね・マスク)の着用義務とその理由を説明する
- 散布後の手洗い・洗顔の手順を視覚的に示す(写真やイラスト)
リスク3:熱中症——農業は全産業で最高水準
農業と熱中症の関係は、他の業種とは次元が違います。農林水産省の調査では、2024年の農作業中の熱中症死亡者は59人で、過去最高水準となりました。農業は屋外・炎天下・長時間という条件が重なる業種です。
職場の熱中症(厚生労働省の労働者死傷病報告ベース)でも、2024年は農業分野で228人の死傷者が確認されており、建設業に次ぐ水準です(厚生労働省「2024年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」確定値)。
外国人労働者には追加のリスクがあります。
症状を訴えにくい心理的背景があります。「大丈夫です」と言い続けて倒れるケースは農業現場でも起きています。「頭が痛い」「気持ち悪い」という言葉を母国語で言えるか。それを日本人管理者が受け取れるか。この双方向のコミュニケーションが命綱になります。
母国との気候の差も大きい。ベトナムやインドネシアは高温多湿ですが、日本の農業は梅雨明けから真夏にかけての急激な気温上昇が特徴です。「暑さには慣れている」という自信が過信につながりやすいです。
ラマダン(断食月)期間中のインドネシア人スタッフへの配慮も必要です。日中の水分補給ができない状況での屋外農作業は、熱中症リスクが格段に上がります。
2025年6月施行の改正労安則により、熱中症対策の義務化が強化されました。WBGT値に応じた作業中断・休憩確保の義務や、重篤化防止手順の策定が事業者に求められています。外国人労働者への多言語での周知も義務内容に含まれます。詳しくは「熱中症対策の義務化(2025年6月施行)と外国人労働者」を参照してください。
雇入れ時教育の農業版チェックリスト
農業で外国人スタッフを雇い入れる際、労安規則第35条に基づく雇入れ時教育(全8項目)を母国語で実施する必要があります。農業の現場に当てはめると次の通りです。
1. 機械等の危険性・有害性とその取扱い
使用する農機具(トラクター・管理機・刈払機・スプレヤー)ごとに、禁止操作と緊急停止の方法を伝えます。写真付きの母国語マニュアルが最も効果的です。
2. 安全装置・保護具の性能と取扱い
ヘルメット・防護めがね・防護手袋・安全靴・レインウェア(農薬散布時)の着用義務を説明します。「なぜ必要か」を言語で伝えないと着用率が下がります。
3. 作業手順と4. 作業開始時の点検
農機具ごとの始業前点検と作業手順を、チェックリスト形式で母国語化します。日本語のみの点検表では意味がありません。
5. 疾病予防(農薬・熱中症)
農薬の皮膚吸収・吸入リスクと、熱中症の初期症状を母国語で説明します。症状が出たら報告することを明確に伝えます。
6〜8. 整理整頓・応急措置・その他
農機具の保管場所・農薬の保管庫・緊急時の連絡先(日本語と母国語両方)を掲示します。
農業特有の「OJT依存」と記録管理の落とし穴
農業は繁忙期に即戦力が欲しいため、安全教育を後回しにしがちです。現場の方ならご存知のとおり、農繁期は教育の時間を確保するのがとても難しい。でも、それが一番危ない時期でもあります。
農業の「見て覚えろ」式OJTは、日本人同士では機能しても、外国人スタッフには通用しないことが多い。動きを真似はできても、「なぜそうするのか」という理由が伝わっていないためです。理由を知らないまま作業すると、状況が変わったときに判断を誤ります。
OJTと法定教育は別物です。操作を教えることと、安全配慮上の義務を果たすことはどちらも必要で、一方で代替できません。eラーニングを活用すると、農繁期前に計画的に法定教育を済ませておけます。受講ログが自動で残るため、元請や監督署への記録提出にも即座に対応できます。
詳しい設計については「OJT(職場内訓練)と安全衛生教育の組み合わせ方」も参考にしてください。
季節労働・短期雇用では毎回やり直しが必要
農業は季節労働が多く、3ヶ月・6ヶ月という短期雇用も多い。毎回雇い直すたびに、雇入れ時教育を実施し直す必要があります。
率直に申し上げると、「前回も実施したから省略しよう」と判断してしまう経営体が多い。ただし法律上は雇入れのたびに実施が必要です。記録も新たに作成しなければなりません。
eラーニングは短期雇用の多い農業にフィットします。受講履歴をクラウドで管理していれば、再雇用時に過去の受講記録も確認できます。法令上は再度の受講が必要ですが、スタッフ側も効率よく学習を進められます。
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Labonaの多言語対応
Labonaは日本語・英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語の5言語で安全衛生教育eラーニングを提供しています。農業分野で多いベトナム語・インドネシア語のネイティブ監修コンテンツに対応しています。
農業分野の特定技能・育成就労外国人が多い経営体では、雇入れ時教育コースを農繁期前にまとめて受講させ、修了証を記録として保管する運用が広がっています。小規模農家でも月額コストを抑えて導入できる料金体系です。
まず無料デモで農業向けコースの内容と操作感を確認してみてください。
まとめ
農業の外国人労働者は2026年3月時点で約3.9万人に達し、今後も増え続けます。農機具(トラクター転落・刈払機)、農薬(皮膚吸収・吸入)、熱中症という3大リスクは、日本語のみの指導では確実に伝わりません。
雇入れ時教育(労安法第59条第1項・新しく雇った全員への安全教育義務)は農業経営体にも適用されます。外国人スタッフには母国語での実施が安全配慮義務の観点から求められます。農繁期前にeラーニングで法定教育を済ませ、受講ログを残しておくことが、事故防止と法令遵守の両面で現実的な対策です。
よくある質問
Q. 農業でも雇入れ時安全衛生教育は義務ですか?
はい。農業は労働安全衛生法の対象業種です(一部の農業は規模によって適用除外がありますが、法人経営体・特定技能受入企業は適用されます)。すべての労働者を雇い入れる際に8項目の安全衛生教育が義務付けられており(労安規則第35条)、外国人スタッフも対象です。本人が理解できる言語での実施が安全配慮義務上求められます。
Q. 刈払機は特別教育が必要ですか?
刈払機は「特別教育」(法定・罰則あり)ではなく、「刈払機取扱作業者安全衛生教育」という通達教育(労安法第60条の2・基発第666号)です。法的義務の性格は異なりますが、事業者には実施が求められており、労災発生時の安全配慮義務の証拠にもなります。学科5時間・実技1時間の計6時間が目安のカリキュラムです。
Q. 農薬を散布する作業に特別教育は必要ですか?
農薬散布は、一般的な農業用農薬を使う場合には特別教育(59業務)の対象外です。ただし、毒物・劇物に該当する農薬を扱う場合は別途確認が必要です。農薬取扱いについては雇入れ時教育の「疾病予防措置」項目で必ず説明し、SDSの内容を母国語で伝えることが現実的な対策です。
Q. 季節労働・短期雇用の外国人スタッフにも毎回教育が必要ですか?
はい。雇入れのたびに安全衛生教育が必要です(労安規則第35条)。前回実施した記録は証拠として残しておくべきですが、新たな雇用が始まる際は再実施が必要です。eラーニングを活用すると、雇入れのたびにスムーズに受講させられ、記録も自動で保管されます。
Q. 農業の外国人スタッフへの教育で、何語から始めるべきですか?
特定技能農業分野の国籍別では、ベトナム語・インドネシア語・中国語の順で多い傾向があります(出入国在留管理庁公表データ)。まず自社の雇用実績に合わせてベトナム語かインドネシア語から整備を始めるのが現実的な優先順位です。
関連ガイド
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- 熱中症対策の義務化(2025年6月施行)と外国人労働者|罰則付き義務に現場はどう備えるか
- OJT(職場内訓練)と安全衛生教育の組み合わせ方|外国人労働者の現場習熟を加速する指導設計



