「ピクトグラムだから言葉がわからなくても伝わるはず」と思って標識を貼っているのに、外国人スタッフが危険エリアに立ち入ってしまう——そんな経験はないでしょうか。ピクトグラムは言語に依存しない伝達手段として有効ですが、文化的な背景によって意味の受け取り方に差が出ます。この記事を読むと、ISO 7010という国際規格が日本の現場とどうつながるか、そして外国人労働者に「本当に伝わる」掲示をどう設計するかが分かります。
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安全標識の国際規格「ISO 7010」とは何か
ISO 7010は、危険・警告・安全に関するピクトグラムを統一した国際標準規格(国際標準化機構:ISOが発行)です。邦題は「図記号-安全色及び安全標識-登録安全標識」。P(禁止)・W(警告)・M(指示)・E(安全状態)・F(消防)の5カテゴリーに分類されたシンボルを定義しています。
日本では、JIS Z 9104:2005「安全標識-一般的事項」(2020年確認)として取り込まれており、ISO 7010との整合性が確保されています。この規格の根本にある考え方は「言葉に頼らず、形と色の組み合わせで意味を直感的に識別できる」ことです。
なぜ国際規格が必要なのか
建設・製造・物流の現場では、ベトナム語・中国語・インドネシア語など複数の言語を母語とする外国人労働者が働いています。言語がバラバラでも同じ標識が同じ意味を持てば、現場の共通言語になります。ISO 7010はその役割を担うために生まれた規格です。
ここで一度立ち止まって考えてみると、「国際規格だから全員に通じる」という前提が実は危ういことが見えてきます。次のセクションがその核心です。
ピクトグラムが「伝わらない」理由
現場担当者の方ならご存知のとおり、ピクトグラムは「見た瞬間に意味がわかる」ものだけとは限りません。
実はこれ、研究レベルでも確認されていることです。厚生労働省委託の「外国人労働者の安全衛生管理」資料(令和7年度版、東京労働基準協会連合会)でも、「ピクトグラムは人によって受け止め方に差があり、生活様式や習慣などの違いによってもその差が増幅されることもある」と明記されています。
文化的差異の典型例
赤色=危険・禁止という認識は、世界共通ではありません。東南アジアの一部では赤が「幸運・祝い」の色です。
放射線・危険物のシンボルは、原子力施設がない地域出身の外国人には馴染みが薄い。「人が走って逃げる」形の避難誘導標識が「入ってはいけない人を示している」と解釈されることもあります。矢印の方向感覚も、文字の読み方(右から左 vs 左から右)が違えば混乱します。
ピクトグラムは「言語の壁を超える」ための手段ですが、「見ればわかる」とは限らない。この認識が、正しい掲示設計の出発点です。
4種類の安全標識と外国人向け解説設計
日本の現場でよく使われる安全標識は、大きく4種類に分かれます。ISO 7010と日本のJIS規格が整合した分類です。
禁止標識(赤地に斜め線)
「してはいけないこと」を示します。赤い円の中にシンボルがあり、斜めの赤いバーが入ります。「禁煙」「立入禁止」「飲食禁止」などが典型です。
外国人への解説のポイントは、シンボル単体の意味よりも先に「赤い斜め線が入っていたら何かが禁止されている」という法則を教えることです。**「赤+斜め線の組み合わせ=禁止」**を入職時に明示的に伝えてください。
警告標識(黄色の三角形)
「危険があることを知らせる」標識です。黄色の三角形に黒のシンボルと枠線が入ります。「感電注意」「高温注意」「挟まれ注意」などがあります。
入職時に実物を見せながら、具体的な事故事例と一緒に説明するのが有効です。「この形が見えたら止まれ」と、まず体に覚えさせてください。
指示標識(青地に白)
「しなければならないこと」を示します。青い円に白のシンボルが入ります。「安全帽着用」「保護めがね着用」「安全靴着用」などです。
正直なところ、指示標識は外国人労働者が見落とすケースが最も多い種類の一つです。「青は強制」という認識が浸透していないことが多いためです。入職時に「青い丸のマークは必ずやること」と、一言明示的に伝えてください。
誘導・安全状態標識(緑地に白)
「安全な場所や方向」を示します。緑地に白のシンボルが入ります。「非常口」「避難方向」などがこのカテゴリーです。
非常時に「緑の標識に従う」という行動を体で覚えさせる避難訓練が最も効果的です。多言語での案内を標識の近くに添付するとさらに良いです。
テキスト追記+ピクトグラムの組み合わせが最も効果的
ここがポイントなのですが、ISO 7010のピクトグラム単体では不完全です。
厚生労働省が推奨する安全衛生標識の活用方針では、「外国人作業者が多い現場では英語・中国語表記の併用が推奨されており、意味統一のために独自マークは避けてJIS/ISO規格を使用すること」とされています。
ISO 7010の規格シンボル+働く人の母語でのテキスト追記が、現時点での最善策です。
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言語の選び方
何語を追記するかは、その現場で最も多い外国人労働者の出身国で判断します。ベトナム語・中国語(簡体字)・インドネシア語の3言語が、日本の製造業・建設業・物流業での優先度が高い言語です。どの言語から始めるかの考え方は、「安全衛生教育の言語選定」も参考にしてください。
翻訳の注意点
翻訳アプリで標識のテキストを訳す場合、安全専門用語が正確に訳されないことがあります。「立入禁止」を直訳すると、現地語のニュアンスが変わる場合があります。「作業手順」「保護具」などの用語は平易な言葉に言い換えてから訳すことが重要です。
同国籍の先輩作業員による確認を一度でも経ることが理想的です。機械翻訳のみで完結させないようにしてください。
厚労省・出入国在留管理庁のリソースを活用する
自社で多言語標識を一から作らなくても、使えるリソースがあります。費用ゼロで始められるものも多いです。
厚生労働省 安全衛生情報センター
「anzeninfo.mhlw.go.jp」では、外国人向けの安全衛生情報を多言語で提供しています。ポスター・パンフレット・チェックリストなどがダウンロード可能で、外国人労働者向けの教育教材として活用できます。
出入国在留管理庁の多言語支援ツール
「やさしい日本語ガイドライン」(2020年8月、出入国在留管理庁・文化庁)では、安全に関わる情報を外国人に伝えるための表現指針が示されています。標識のテキスト部分をやさしい日本語で記載する際の参考になります。
一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)のピクトグラム
CLAIRが提供する「災害時外国人支援用ピクトグラム」は日本語・英語・ベトナム語・中国語など12言語に対応しています。消防・避難・救急に関するシンボルが含まれており、工場・建設現場の緊急避難用掲示として転用できます。
現場掲示の実務:高さ・位置・サイズ・定期点検
標識を「貼った」だけでは、事故は防げません。現場の方ならご存知のとおり、機能しない掲示はないも同然です。実務ポイントを整理します。
視認できる高さと位置
立位の作業者の目線(床から150〜180cm)に標識の中心が来る高さが基本です。暗所や照明が当たりにくい場所は蛍光色・反射素材の標識を選びましょう。
作業動線の「手前」に掲示することが大切です。危険ポイントを過ぎた後では遅い。複数の方向からアクセスする場所は、それぞれの方向に設置してください。
サイズの目安
JIS規格では、10m先から認識できるサイズが基準の一つとされています。屋外・広い作業場では、より大きめのサイズを選びましょう。
定期点検の習慣
標識の汚損・退色・破損がないか、月1回程度の点検を習慣化することをお勧めします。直射日光・水濡れ・粉じんが多い環境では劣化が早い。作業エリアが変わったとき、新しい危険が生じたときは、標識をすぐに更新してください。
まとめ
安全標識・ピクトグラムは「貼るだけで伝わる」ものではありません。
ISO 7010は国際規格ですが、文化的な背景によって意味の受け取り方に差が出ます。禁止(赤・斜め線)・警告(黄・三角)・指示(青・円)・誘導(緑・矩形)という4種類の形と色のルールを入職時に教え、働く人の母語でのテキストを追記することが、外国人労働者に伝わる掲示術の基本です。
厚労省やCLAIRの無償リソースも活用しながら、現場の多言語対応を一歩ずつ進めてください。
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よくある質問
Q. ISO 7010の標識は日本でそのまま使えますか?
使えます。ISO 7010はJIS Z 9104(安全標識―一般的事項)と整合しており、日本の現場でも適用可能です。ただし日本独自の規格で形状・色が微妙に異なる標識もあるため、JIS対応と明記された製品を選ぶと安全です。
Q. 母国語テキストを標識に追記する法的な義務はありますか?
現時点では、安全衛生標識に母国語テキストを追記することの明示的な法令義務はありません。ただし、労働安全衛生法上の安全配慮義務(雇用する人を危険から守る責任)から「労働者が理解できる方法で安全情報を伝える」ことが求められており、日本語のみの標識しか掲示しない場合はリスクがあります。
Q. ピクトグラムの意味を外国人スタッフに覚えさせるよい方法は?
入職時の雇入れ時安全衛生教育の中に「現場で使われている標識一覧の説明」を組み込むことをお勧めします。実物の標識を見せながら母国語で説明し、最後に簡単な確認テストを実施する形が効果的です。
Q. 既製の多言語対応標識はどこで入手できますか?
中央労働災害防止協会(中災防)の通販サイトや、安全用品専門店(モノタロウ等)で英語・ベトナム語・中国語対応の安全標識が市販されています。JIS規格に準拠したものを選んでください。
Q. 外国人が標識の意味を誤解していた場合、会社の責任になりますか?
状況によります。「貼ってはあった」だけで意味を説明していない場合は、安全配慮義務違反と評価されるリスクがあります。2024年に大阪地裁が示した判決(形式的な教育の実施は「理解させたことにならない」)の考え方は標識の掲示にも共通します。説明・確認・記録のセットで対応してください。
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