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法令・コンプライアンス更新 2026.10.20·約 14 分で読了

労働安全衛生法改正と一人親方|2026年4月は元請の措置、2027年4月から労働者と同じ現場で特別教育の受講義務、外国人への影響は

令和7年法律第33号の改正で、2026年4月から元方事業者などの措置の対象に一人親方が加わりました。2027年4月からは、労働者と同じ場所で作業する一人親方・中小企業の役員に、特別教育の受講・構造規格を満たす機械の使用・定期自主検査の義務がかかります。外国人一人親方への実務対応も解説。

労働安全衛生法改正と一人親方|2026年4月は元請の措置、2027年4月から労働者と同じ現場で特別教育の受講義務、外国人への影響は

「うちの現場には一人親方しかいないから、安全衛生教育は関係ない」。そう思っていた担当者にとって、2026年4月は大きな転換点でした。令和7年(2025年)5月14日に公布された労働安全衛生法の改正(令和7年法律第33号)により、一人親方をはじめとする個人事業者を取り巻く法的環境が根本から変わります。2026年4月から元方事業者の義務が拡大し、2027年4月からは、労働者と同じ場所で特別教育の対象業務を行う一人親方・中小企業の役員にも、特別教育の受講が義務づけられます(改正労働安全衛生法 第59条第4項)。この記事では、2段階施行のポイントと、建設業で増える外国人一人親方への実務的な影響を整理します。

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法改正の背景:なぜ今、個人事業者が対象になったのか

現場で働く個人事業者が増加するなか、労安法の保護が及ばない「法的空白」が長年の課題でした。

現行の労働安全衛生法は「労働者」を保護の対象としており、個人事業者(一人親方・フリーランスなど)は原則として対象外でした。建設現場で日本人・外国人を問わず一人親方が増加するなか、労災が発生しても「労働者ではない」という理由で安全衛生措置が徹底されないケースが後を絶ちませんでした。

厚生労働省の調査では、一人親方を含む個人事業者等の死亡労働災害が全産業の一定割合を占めており、特に建設業での比率が高い状況が続いていました。ギグワーカーやフリーランスの増加も重なり、「雇用形態によらない安全衛生保護」が政策の急務となりました。

こうした背景から成立したのが、第217回国会で可決・2025年5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)です。個人事業者への対応強化は改正の5つの柱のひとつに位置づけられています。

施行スケジュール:2026年4月と2027年4月の2段階

混乱しやすい施行日を整理します。個人事業者関連では主に2段階で義務が始まります。

段階施行のため「どの義務がいつから始まるか」が把握しにくい改正です。個人事業者・一人親方に関係する主な施行日は次のとおりです。

  • 2026年1月1日施行: 特定自主検査の基準遵守・検査業者への改善命令など機械関係の改正が先行施行(個人事業者向けの義務はまだ始まらない)
  • 2026年4月1日施行: 元方事業者(元請)・注文者・機械等貸与者・建築物貸与者が講ずべき措置の対象が個人事業者等にも拡大
  • 2027年4月1日施行: 一人親方などの個人事業者や中小企業の役員が労働者と同じ場所で作業するときの義務(特別教育の受講・構造規格を満たす機械の使用・定期自主検査)が開始

「2026年」と「2027年」の違いを現場で正確に把握できている担当者はまだ少ない印象です。シンプルに整理すると、2026年4月は「元請の義務」が変わる年、2027年4月は「個人事業者自身の義務」が始まる年と覚えてください。

2026年4月から:元方事業者の義務が拡大する

2026年4月1日は既に施行済みです。現場に入る一人親方への安全管理を見直してください。

改正の核心のひとつは、元方事業者(元請業者など)が負う安全衛生措置の対象範囲の拡大です。これまで元方事業者は、関係請負人の「労働者」に対して安全衛生措置を講じる義務を負っていました(労安法第30条)。

改正後は、同じ現場で作業する個人事業者等(一人親方・フリーランスなど)も措置の対象に含まれます。主な義務は次のとおりです。

  • 個人事業者等への連絡調整・技術上の指導
  • 安全衛生に関する情報の提供
  • 機械等を貸与する際の安全措置

現場の方ならご存知のとおり、建設現場には一人親方が複数入っていることが多い。2026年4月以降は、その一人親方が作業中に負傷した場合、元方事業者が適切な安全措置を講じていたかどうかが問われます。

元方事業者が個人事業者への安全措置を怠った場合、損害賠償責任が生じるリスクがあります。建設業の特定元方事業者は、関係請負人が新たに現場に入る作業従事者に現場の状況などを周知できるよう、場所や資料を提供する義務があります(安衛則第642条の3)。新規入場時の周知・教育の進め方と記録を今すぐ見直してください。

なお2026年4月時点では、個人事業者自身への直接的な義務はまだ始まっていません。「元請が義務を負う段階」であることを正確に把握しておくことが重要です。

2027年4月から:個人事業者自身に3つの義務が課される

2027年4月以降は、一人親方自身が法律上の義務を直接負います。

2027年4月1日に施行される規定(改正法 附則第1条第5号)により、一人親方などの個人事業者や中小企業の役員(作業従事役員等)が労働者と同じ場所で作業するときに、次の3つの義務がかかります。一人で作業する現場など、労働者と同じ場所でない作業には義務はかかりません(同様の措置をとることが望ましいとされています)。

① 構造規格・安全装置を備えた機械の使用 法令で定められた構造規格・安全装置を備えていない機械を、労働者と同じ場所で自ら使うことが禁止されます(安衛法第42条第3項)。一人親方が自ら持ち込む古い機械や工具も対象になるため注意が必要です。

② 定期自主検査の実施 定期自主検査の対象となる機械(移動式クレーン・フォークリフト・車両系建設機械・高所作業車など)を持ち込んで使う個人事業者は、年1回などの定期自主検査を行い、結果を記録する義務を負います(安衛法第45条第2項)。

③ 特別教育等の受講 ここがポイントなのですが、特別教育の対象業務(安衛則第36条。たとえば作業床の高さ10m未満の高所作業車の運転、研削といしの取替え、低圧の充電電路の敷設・修理、最大荷重1t未満のフォークリフトの運転、フルハーネス型墜落制止用器具を用いて行う作業など)を労働者と同じ場所で行う一人親方は、労働者と同じ科目・時間(実技を含む)の特別教育を受けなければなりません(安衛法第59条第4項)。「自分は一人親方だから特別教育は不要」と考えていた方も、2027年4月以降、労働者と同じ現場でこれらの業務に就くなら受講が必要です。過去に会社員として同じ特別教育を受けていれば、その分は受けなくてよいとされています(安衛則第37条第2項)。

この「特別教育受講義務」が建設・製造現場の個人事業者に最も影響の大きい変更です。受講しないまま労働者と同じ現場で対象業務を行うと第59条第4項違反となり、罰則(第119条第1号:6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)があります。受講には時間がかかるため、あらかじめ受講しておくことが必要とされています(令和8年5月26日付け基発0526第1号)。なお、本人がeラーニングで受けた学科の扱いについて、厚生労働省の見解はまだ示されていません。

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建設業で増える「外国人一人親方」への実務影響

身分系の在留資格で建設業に従事する外国人が独立するケースがあり、外国人一人親方への対応が新たな課題になりつつあります。

今回の法改正が特に複雑になるのは「外国人の一人親方」の場合です。

技能実習・特定技能の在留資格では自営業は認められないため、外国人の一人親方は人数としては多くありません。ただし、永住者・定住者・日本人の配偶者等といった身分系の在留資格を持つ外国人が建設業で独立し、個人事業主として現場に入るケースは存在します。今後、育成就労・特定技能2号を経て長期在留する外国人が増えれば、こうしたケースが徐々に増えていく可能性があります。

こうした外国人の一人親方が直面する問題は2つあります。

問題1:法改正の情報が母国語で届かない 日本の法令改正情報は日本語で公表されます。外国語翻訳の整備には時間がかかるため、当事者が義務を知らないまま現場に入るケースが生じます。元方事業者が積極的に情報提供する責任があります。

問題2:特別教育を母国語で受講できるか 2027年4月以降、外国人の一人親方も、労働者と同じ現場で特別教育の対象業務を行うなら、日本人と同じ特別教育(実技を含む)を受けなければなりません。しかし特別教育の多くは日本語教材です。「受講した」という形式だけ整えても、本人が理解していなければ安全上の意味はなく、安全配慮義務違反のリスクも残ります。

元方事業者としては、外国人一人親方が現場に入る場合、母国語での情報提供と特別教育の受講確認を支援する体制を整えることが求められます。これは義務というより、実際に事故を防ぐための現実的な対応です。

「作業従事者」概念の拡大が現場管理を変える

今回の改正の根底にあるのは、「雇用形態にかかわらず、同じ現場で働く全員の安全を守る」という考え方の転換です。

今回の改正を一言で表すなら、「対象が労働者から作業従事者へ拡大した」です。労安法の保護対象と義務の主体が、従来の「雇用されている労働者」から「現場で作業に従事するすべての者」へと広がりました。

元方事業者の現場管理に生じる具体的な変化は次のとおりです。

  • 現場に入る全作業者の名簿に個人事業者分も含めて管理する
  • 新規入場時等教育の記録を個人事業者分も保管する
  • 作業前の安全確認を個人事業者にも徹底する
  • 外国人の個人事業者には母国語での情報提供を組み込む

「労働者のみ対象」で現場管理のフローを組んでいる会社は、今年4月以降の対応を急ぐ必要があります。既に施行済みの部分についていえば、対応が遅れていること自体がリスクです。

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元請企業が今からやるべきこと

2026年4月は施行済みです。2027年4月の第2段階も視野に入れた対応を今から始めてください。

今すぐ取り組むべき対応を3点に絞ります。

対応1:現場に入る個人事業者等のリストアップ 現在の現場で作業している一人親方・個人請負の業者をすべてリストアップし、安全衛生管理の対象に組み込んでください。「この人は請負だから元請の管理外」という整理は2026年4月以降は通りません。

対応2:新規入場時の周知・教育と記録の整備 個人事業者が現場に初めて入る際に、現場の状況や危険な箇所、ほかの作業との関係などを周知・教育し、記録を残してください。建設業の特定元方事業者は、関係請負人がこの周知を行えるよう場所や資料を提供する義務があり、自ら周知することもできます(安衛則第642条の3)。外国人の場合は母国語での実施・説明を記録に残すことが特に重要です。

対応3:2027年4月に向けた特別教育受講確認の準備 下請けや個人事業者が従事する業務・使用する機械の種類から、受講が必要な特別教育を今から洗い出してください。2027年4月まで1年を切っている今から準備を始めることが得策です。特定の業務(高所・電気・クレーン等)を担う外国人の個人事業者がいる場合は、母国語版の特別教育の手配も同時に検討してください。Labona の多言語特別教育は学科部分のeラーニングで、実技は別途必要です。法人向けに提供しているため、外国人一人親方に受講してもらう場合は、元請・上位の事業者が法人マイページから申し込み、受講者として登録する形になります。

まとめ

2026年4月施行の労安法改正は、一人親方・個人事業者を「現場の安全管理の対象外」にできなくなる転換点です。2026年4月から元方事業者が同じ現場の個人事業者への安全措置義務を負い、2027年4月からは、労働者と同じ場所で作業する一人親方・中小企業の役員自身も、特別教育の受講・構造規格を満たす機械の使用・(個人事業者は)定期自主検査の義務を負います。建設業で増える外国人の一人親方には、母国語での情報提供と特別教育受講支援が不可欠です。まずは現場に入る個人事業者のリストアップと、新規入場時等教育の記録整備から着手してください。

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よくある質問

Q. 2026年4月以降、一人親方に雇入れ時教育を実施する義務がありますか?

雇入れ時教育(労安法第59条第1項)は「雇い入れたときに実施する教育」であり、雇用関係のない一人親方には適用されません。この点は今回の改正でも変わりません。2027年4月以降も、一人親方の雇入れ時教育は義務ではなく、受講が望ましいとされるにとどまります。一方、2026年4月から元方事業者の措置の対象に一人親方などの作業従事者が加わり、建設業の特定元方事業者は、新たに現場に入る作業従事者への周知のための場所・資料の提供等を行う義務があります(安衛則第642条の3)。新規入場時の周知・教育は、実施して記録を残しておくことが実務上重要です。

Q. 外国人の一人親方が2027年4月以降に特別教育を受講する際、日本語でなければなりませんか?

法令上、特別教育の実施言語は指定されていません。安全配慮義務の観点からは「本人が理解できる言語」で実施することが求められており、外国語での受講を認め、かつ理解度を確認することが望ましい対応です。外国語版の特別教育教材(多言語eラーニング等)の活用が現実的な選択肢になります。

Q. 新規入場時等教育の記録はどのくらい保管すべきですか?

新規入場時等教育の記録保管期間は法令上明示されていませんが、労災が発生した際のエビデンスとして機能することから、特別教育の記録保存期間(3年・安衛則第38条)にならい、3年間保管しておくのが一つの目安です。元請側と個人事業者側の双方が記録を保持しておくことが望ましいです。

Q. 元請が一人親方へ安全上の指示を出すと、「偽装請負」や「雇用」とみなされますか?

一人親方への指示で問題になるのは、偽装請負(労働者派遣法)ではなく、一人親方が実態として労働者に当たるかどうか(労働基準法上の「労働者性」)です。厚生労働省は、立入禁止や法令違反の是正の指示など、安全衛生上の義務を果たすための措置は、基本的にそれだけで労働者性を肯定する事情にはならないとしています。一方で、安全衛生の確保に必要な範囲を超えて作業の内容や進め方を具体的に指示したり、研修の受講を義務づけて不参加に制裁を科したりすると、労働者性を肯定する要素になりうるとしています(令和7年3月31日付け 基監発0331第1号ほか)。

Q. 外国人が一人親方として現場に入る場合、在留資格は問題になりますか?

在留資格は今回の労安法改正の直接の論点ではありませんが、就労可能な在留資格を持つ外国人でなければ一人親方として合法的に業務を行えません。技能実習・育成就労の修了者が独立する場合は在留資格の変更手続きが必要なケースがあります。現場に入ってもらう前に、入管法上の手続きが完了していることを確認してください。

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