産業用ロボットの導入が進む製造現場に、外国人労働者が増えています。ティーチング(教示)担当として外国人を配置しようとしたとき、見落とされがちなのが安衛則第36条第31号の特別教育義務です。国籍を問わず受講が必要なうえ、「理解できる言語で実施したか」が安全配慮義務上の問われ方をします。
この記事では、特別教育の法令根拠・カリキュラム・よく混同される第32号との違い・協働ロボットの取扱い・外国語での実施方法を、製造業の現場責任者が知っておくべき内容としてまとめます。
法令根拠と対象業務
産業用ロボットの教示等の業務は、労働安全衛生法(労安法)第59条第3項と、労働安全衛生規則(安衛則)第36条第31号により、事業者に特別教育の実施が義務付けられています。
第31号の対象業務は次のとおりです。
- 教示等:マニプレータの動作の順序・位置・速度を設定・変更・確認する作業(駆動源を遮断して行うものを除く)
- 共同操作:教示等を行う者と共同して、可動範囲の外側で機器を操作する作業
「駆動源を遮断して行うものを除く」という点が、現場では見落とされやすい部分です。電源を入れたまま可動範囲内でロボットを動かす作業が対象であり、電源を完全に遮断した状態での点検や取り付け作業は含まれません。
労働安全衛生法第59条第3項:「事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。」
第31号(教示等)と第32号(検査等)の違い
産業用ロボットに関する特別教育は、業務の内容によって2種類に分かれます。現場でよく混同される組み合わせです。
| 第31号(教示等) | 第32号(検査等) | |
|---|---|---|
| 対象業務 | 教示・可動範囲外での共同操作 | 運転中の可動範囲内での検査・修理・調整等 |
| 学科 | 7時間 | 9時間 |
| 実技 | 3時間 | 4時間 |
| 根拠規程 | 安全衛生特別教育規程第18条 | 安全衛生特別教育規程第19条 |
注意していただきたいのは、第31号を修了しても第32号の業務(運転中の可動範囲内での検査等)に就かせることはできない点です。両方の業務を担当させる場合は、それぞれの特別教育を別途実施する必要があります。
Labonaが提供しているのは産業用ロボット教示等特別教育(第31号・学科7時間)です。第32号の教育が必要な場合は、別の対応が必要です。
カリキュラム詳細——学科7時間・実技3時間
産業用ロボット教示等特別教育のカリキュラムは、安全衛生特別教育規程(昭和47年9月30日 労働省告示第92号)第18条に基づき、以下のとおりです。
学科(合計7時間)
| 科目 | 時間 |
|---|---|
| 産業用ロボットに関する知識 | 2時間 |
| 産業用ロボットの教示等の作業に関する知識 | 4時間 |
| 関係法令 | 1時間 |
実技(合計3時間)
| 科目 | 時間 |
|---|---|
| 産業用ロボットの操作の方法 | 1時間 |
| 産業用ロボットの教示等の作業の方法 | 2時間 |
eラーニングで実施できる部分
学科7時間は、令和3年1月25日付厚労省通達(基安安発0125第2号等)の要件を満たすeラーニングで実施できます。多言語対応eラーニングを活用すれば、外国人労働者が母語で学科を受講することが可能です。
実技3時間については、同通達の別表において産業用ロボット教示等特別教育の実技は講師と受講者が同一場所にいることが前提とされています。「実技もオンラインで完結できる」という運用はできません。現場での対面実施をあわせて計画してください。
特別教育を実施した記録(受講者・科目等)の作成と3年間保存は事業者の義務です(安衛則第38条)。Labonaが発行するのは学科の受講証明書であり、記録の管理・保存は事業者側で行っていただく必要があります。
事業者が講じる措置義務
特別教育の実施に加えて、ロボット作業においては安衛則第150条の3〜5が事業者にさらなる措置を求めています。
第150条の3(教示等の場合の措置)
教示等を行うときは、次の措置が必要です。
- あらかじめ作業規程(操作の方法・速度・合図・異常時の措置・再起動の方法)を定め、これにより作業させること
- 異常が発生したときにロボットを直ちに停止できる措置を講じること
- 作業に使用する起動スイッチに、作業中の表示をすること
第150条の4(運転中の危険の防止)
産業用ロボットを運転する場合において、接触により労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、さく又は囲いを設ける等必要な措置を講じなければなりません。ただしこの条文は、教示等のために運転する場合と、運転中に次条(第150条の5)の検査等を行わなければならない場合を適用対象から除いています。教示作業そのものの危険防止は、前条の第150条の3が受け持つ構造です。
第150条の5(検査等の場合の措置)
検査・修理・調整等を行うときは、ロボットの運転を停止する等の措置が必要です。
これらは特別教育の受講・未受講に関わらず、ロボットを導入したすべての事業者に課せられる義務です。
協働ロボットの取扱い
柵なしで人と並んで作業する協働ロボットを導入している現場から、「特別教育は要らないのでは」という問い合わせを受けることがあります。これは法令解釈の誤解です。
平成25年12月24日付 基発1224第2号通達は、リスクアセスメントにより人との接触の危険性がなくなったと評価できれば、安衛則第150条の4の「危険が生ずるおそれのあるとき」に当たらないという解釈を示したものです。
この通達はあくまで「柵の設置義務が生じる条件」についての解釈であり、安衛則第36条第31号の特別教育義務を免除するものではありません。通達を「義務なし」と読み替えることは誤りです。
協働ロボットの可動範囲内で教示等の作業を行う場合も、第31号の特別教育を実施する必要があります。
詳細は厚労省のパンフレット「産業用ロボットを安全に使用するために」も参照してください。
外国人労働者に「外国語で」実施する必要性
労働安全衛生法・施行規則には「日本語で特別教育を実施しなければならない」という規定はありません。一方で安全配慮義務(労働契約法第5条)は、「受講した事実があること」よりも「理解できる状態で業務に就かせたかどうか」を問います。
日本語のみの教材で外国人労働者が受講したとしても、内容を実際に理解できていなければ、安全配慮義務を果たしたとはいえないリスクが残ります。
教示作業では、作業規程・合図・非常停止の手順を正確に理解していることが事故防止の鍵になります。作業規程を外国人スタッフが読める言語で用意しておくことは、法令上の義務ではありませんが、安全配慮の実務として有効な取り組みです。
製造業における外国人労働者の現状
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」(令和7年10月末時点・2026年1月公表)によると、製造業で働く外国人労働者は約63.5万人で、全産業中最多の業種です。ロボット導入製造現場においても、教示作業を外国人が担う事例は増えています。
多言語対応の3つの選択肢
外国人労働者に産業用ロボット教示等特別教育の学科を実施する方法は、主に3つあります。
1. 社内通訳・自社翻訳で対応する
通訳できる人材がいる場合や少人数のスポット対応には有効です。一方で専門用語の翻訳品質の管理が難しく、法改正のたびに教材を自社で更新する負荷も伴います。
2. 外部翻訳ベンダーに依頼する
翻訳精度は高まりますが、初期制作コストと更新コストが継続して発生します。5言語(日本語・英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語)をそろえると、初回だけで相当な費用になることがあります。
3. 多言語対応のeラーニングを活用する
学科部分は、要件を満たすeラーニングで実施できます。外国人労働者が母語で受講できる環境を整え、実技は自社で対面実施する「ハイブリッド型」が、多言語対応かつ現実的な運用です。
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まとめ
産業用ロボットの教示等の業務に従事させる場合は、国籍を問わず安衛則第36条第31号の特別教育(学科7時間・実技3時間)が必要です。外国人には「理解できる言語で受講させたか」が安全配慮義務の観点から問われます。
- 教示等(第31号)と検査等(第32号)は別の特別教育。混同しないこと
- 協働ロボットでも可動範囲内の教示作業には第31号の特別教育が必要
- 実技は講師との同一場所での対面実施が前提
- 学科を多言語eラーニングで対応し、実技は現場対面で行うハイブリッド型が現実的
よくある質問
第31号と第32号、両方の業務を担当させる場合はどうなりますか?
それぞれの特別教育を別途実施する必要があります。第31号(教示等)を修了しても、第32号(検査等)の業務——運転中の可動範囲内での修理・調整等——に就かせることはできません。担当者の業務範囲を確認し、必要な特別教育を判断してください。
ティーチングペンダントを操作するだけの作業でも特別教育は必要ですか?
ロボットが通電された状態で、ティーチングペンダントを使ってマニプレータの位置や速度を設定・変更・確認する作業は「教示等」に該当し、第31号の特別教育が必要です。駆動源を完全に遮断した状態でのシミュレーション操作は対象外ですが、通常の教示作業はほぼ該当すると考えてください。
協働ロボットでも特別教育は必要ですか?
はい、必要です。平成25年12月24日付の基発1224第2号通達は柵の設置条件に関する解釈を示したもので、安衛則第36条第31号の特別教育義務を免除するものではありません。協働ロボットの可動範囲内で教示等を行う場合は、第31号の特別教育を受けさせてください。
