「社員に玉掛けの特別教育を受けさせたい。全部オンラインで済ませられるのか、外部機関に頼まなければならないのか分からない」――そう悩んでいる安全衛生担当者は少なくありません。この記事では、つり上げ荷重1t未満のクレーン・移動式クレーン・デリックに係る玉掛け業務の特別教育について、根拠条文・時間数・オンライン可否・社内実技の段取り・記録の作り方を一本で整理します。
結論:学科はeラーニング可・実技は社内対面
先に結論をお伝えします。
| 区分 | 時間 | オンライン可否 |
|---|---|---|
| 学科 | 5時間 | 可(eラーニング対応) |
| 実技 | 4時間 | 不可(講師と受講者が同一場所で対面) |
| 合計 | 9時間 | ハイブリッド設計が標準 |
学科5時間はeラーニングシステムで完結できます。実技4時間は、令和3年1月25日付厚労省通達(基安安発0125第2号 別表)により、講師と受講者が同一場所にいることが条件とされており、オンラインのみでは完結しません。ただし自社のクレーン設備と社内担当者を使って実施できるため、外部機関への委託は必須ではありません。
→ 玉掛け業務特別教育(つり上げ荷重1トン未満・5言語対応)を見る
クレーン則第222条の全体像
根拠はクレーン等安全規則(クレーン則)第222条第1項です。同条は「事業者は、つり上げ荷重が1トン未満のクレーン、移動式クレーン又はデリックの玉掛けの業務に労働者をつかせるときは、当該労働者に対し、当該業務に関する安全のための特別の教育を行わなければならない」と規定しています。
教育の具体的な科目と時間は、厚生労働省告示「クレーン取扱い業務等特別教育規程」第5条が定めています。
学科教育(計5時間)
| 科目 | 時間 |
|---|---|
| クレーン、移動式クレーン及びデリック(クレーン等)に関する知識 | 1時間 |
| クレーン等の玉掛けに必要な力学に関する知識 | 1時間 |
| クレーン等の玉掛けの方法 | 2時間 |
| 関係法令 | 1時間 |
実技教育(計4時間)
| 科目 | 時間 |
|---|---|
| クレーン等の玉掛け | 3時間 |
| クレーン等の運転のための合図 | 1時間 |
計9時間が法定の最低ラインです。社内での教育計画を立てるときは、この時間を下回らないように設計する必要があります。
なお、1t以上のクレーンを使う業務は「特別教育」ではなく「玉掛け技能講習」(クレーン則第221条)の対象です。この違いと判断基準は別記事で詳しく解説しています。
学科5時間のeラーニング実施方法
オンライン実施の法的根拠
令和3年(2021年)1月25日付の厚労省通達「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」(基安安発0125第2号)により、特別教育の学科部分はeラーニングで実施できることが正式に認められました。令和5年(2023年)12月27日の一部改正(基安計発1227第1号外)では、修了証の発行までデジタルで完結する手続きも明文化されています。
eラーニングサービスに求める4要件
法令適合のために次の4要件を満たすシステムを選ぶ必要があります。
- 法定科目の網羅:クレーン取扱い業務等特別教育規程第5条に定めた4科目すべてに対応し、各科目の法定時間を下回らない
- 本人特定:受講者が本人であることをログイン認証等で確認できる
- 受講事実の確認:視聴時間や進捗をシステムが記録し、飛ばし視聴を防止する仕組みがある
- 記録の3年以上保管:受講者・受講科目・受講時間のログをエクスポートできる
外国語での受講について
外国語(ベトナム語・英語・中国語・インドネシア語等)で玉掛け特別教育を実施する方法については、言語別の対応ポイントを別記事でまとめています。
実技4時間の社内実施の段取り
実技は「講師と受講者が同一場所にいる対面」が必須です。ただし、外部の教習機関に頼む必要はなく、次の条件を満たせば社内で実施できます。
必要なもの
- 実習設備:自社の工場・倉庫・作業現場にあるクレーン・移動式クレーン・デリック(つり上げ荷重1t未満のものを使用するのが安全)
- 担当講師:法令上、特定の資格は要求されていません。玉掛け業務の知識と実務経験がある社員が担当できます
- 玉掛け用具:ワイヤロープ・チェーンスリング・繊維スリングなど、実際に作業で使うもの
実施手順
1. 事前準備(教育計画の策定)
eラーニングで学科を完了した受講者のリストを確認し、実技日程・場所・担当講師を決めます。教育計画書に日時・場所・担当者・受講者名・実施科目を明記しておくと、後述の記録作成がスムーズになります。
2. 実技当日の進め方(4時間の目安)
「クレーン等の玉掛け(3時間)」では、材質や形状が異なる複数の荷物を用意し、重量を目測する練習から始めます。ワイヤロープの選定→玉掛けの実施→安全確認→つり上げ→降ろし→玉外しまでを一連の流れとして繰り返し練習させます。「クレーン等の運転のための合図(1時間)」では、手や旗による合図の実技を行います。クレーン運転者との連携確認も含めてください。
3. 実技終了後の確認
担当講師が受講者一人ひとりの習得状況を確認し、実技教育修了を記録します。eラーニングの学科受講ログと合わせて保管します。
修了記録の作り方と3年保管
労働安全衛生規則(安衛則)第38条は、特別教育を行ったときに「当該特別教育の受講者、科目等の記録」を作成し、3年間保存することを事業者に義務付けています。条文が求めているのは受講者と科目等までですが、実務では次の項目まで残しておくと監督署の調査で説明しやすくなります。
記録に必要な項目
| 記録項目 | 備考 |
|---|---|
| 教育の種類 | 「玉掛け業務(1t未満)特別教育」 |
| 受講者氏名 | 外国人の場合はローマ字またはカタカナ表記も |
| 受講科目・時間 | 学科4科目・実技2科目それぞれ |
| 実施年月日 | eラーニングは受講完了日、実技は実施日 |
| 担当講師氏名 | 実技担当者名 |
eラーニングと社内実技の記録の統合
eラーニングサービスから出力した受講ログ(受講日・視聴時間・科目名)と、社内で作成した実技教育記録を1セットにして保管します。Labonaが発行するのは学科受講証明書です。修了の最終判断(学科・実技ともに完了したと認定すること)は事業者側の責任で行います。
1t以上との使い分け
「つり上げ荷重」の判定はクレーンのスペックシート(定格荷重・最大つり上げ荷重)で確認します。1t以上のクレーンを使う業務には特別教育ではなく玉掛け技能講習が必要で、都道府県の登録教習機関でしか受講できません(社内実施不可)。1t未満と1t以上の機材が混在する現場では、全員を技能講習修了者で揃えるか、機材ごとに使用者を分けて管理する方法が一般的です。
詳細な判定フローは次の記事をご覧ください。
まとめ
つり上げ荷重1t未満のクレーン等に係る玉掛け業務特別教育は、学科5時間をeラーニング・実技4時間を社内対面で行うハイブリッド方式が法令上の正しい運用です。外部機関への委託なしで全9時間を社内完結できます。修了後は安衛則第38条に基づく記録を作成し、3年間保管してください。
よくある質問
移動式クレーンの玉掛けも同じ特別教育の対象ですか?
はい、対象です。クレーン則第222条はクレーン・移動式クレーン・デリックの3種類すべてに適用され、つり上げ荷重が1t未満であれば玉掛け業務の特別教育の対象になります。
1t以上と1t未満の機材が現場に混在している場合はどうすればよいですか?
1t以上の機材を使う業務に従事させる場合は、特別教育ではなく玉掛け技能講習の修了が必要です。1t未満の特別教育修了者は1t以上の機材を操作する業務には就けません。混在現場では、技能講習修了者に統一するか、機材ごとに担当者を明確に分けて管理する体制が必要です。
eラーニングで学科を受講した後、記録はどのように残せばよいですか?
eラーニングシステムの管理画面から受講ログ(受講者名・受講科目・受講日・受講時間)をCSV等でエクスポートし、保管します。これに加えて社内で実技教育記録を別途作成し、両者を1ファイルにまとめて3年間保管します。行政調査が入った際には、この記録セットを提示できる状態にしてください。
参考一次資料
- クレーン等安全規則(昭和47年労働省令第34号)第222条(つり上げ荷重1t未満の玉掛け業務 特別教育の義務):e-Gov 法令検索
- クレーン取扱い業務等特別教育規程 第5条(学科・実技の科目と時間):厚生労働省 法令データ
- 「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」令和3年1月25日 基安安発0125第2号:厚生労働省通達
- 労働安全衛生規則 第38条(特別教育の記録と3年保管義務):e-Gov 法令検索
