「安全教育はちゃんとやっているのに、機械災害が止まらない」。製造業の現場でよく聞く声です。原因の多くは「伝わっていなかった」ことにあります。
厚生労働省の令和5年(2023年)統計では、「はさまれ・巻き込まれ」が製造業の死亡災害の32.6%(45人)を占め、製造業の事故の型として第1位です。製造業で被災した外国人労働者の数は2,741人。全外国人死傷の48.3%が製造業で起きています。
この記事では、外国人が機械安全を誤解しやすい3つの構造的理由と、言語の壁を越えて危険ゾーンを伝える4つの実践的方法を示します。明日から現場で試せる内容です。
「はさまれ・巻き込まれ」が製造業の死亡災害の第1位という現実
転倒のほうが件数は多い。でも「命に関わるか」で見ると、製造業でははさまれ・巻き込まれが突出しています。
令和5年(2023年)の厚生労働省統計では、製造業の死亡災害138人のうちこの事故類型が**45人・32.6%(第1位)**を占めました。全産業で見ると死亡災害の第1位は墜落・転落(204人・27.0%)で、はさまれ・巻き込まれは108人・14.3%の第3位——つまり製造業に特有の「死に直結する型」です。死傷災害(休業4日以上)でも、製造業のはさまれ・巻き込まれは4,908人で製造業の死傷者27,194人の約18%を占めています。
外国人労働者の数字がさらに深刻です。製造業で働く外国人は全外国人労働者の27.0%です。しかし被災に占める割合は48.3%(2,741人)。働いている人数の1.8倍の確率で被災している計算になります。
この乖離は「外国人は危険な仕事をしているから」では説明できません。「安全教育が理解されていない」という仕組みの問題です。
出典: 厚生労働省「令和5年外国人労働者の労働災害発生状況」(外国人死傷者数5,672人のうち製造業2,741人、48.3%)および「令和5年の労働災害発生状況を公表」「令和5年労働災害発生状況の分析等」(製造業の死亡災害138人のうち、はさまれ・巻き込まれ45人・32.6%)
外国人労働者が機械安全を誤解する3つの理由
「不注意」や「慣れていないから」では片付けられません。被災には構造的な背景があります。
理由1: 「動いていない=安全」という思い込み
機械が止まって見えても、電源が完全に遮断されているとは限りません。「止まっているから触っていい」という判断は誤りですが、日本語だけの口頭説明でこの概念を正確に伝えるのは難しい。「電源を切ってからカバーを外す」という手順が、習慣として身につくまで時間がかかります。
理由2: 手順書が日本語のみ
「異常が起きたらすぐ上長に報告」「電源を遮断してから内部を確認」——ルールが日本語だけの紙に書かれていても、N3以下の外国人労働者には読めません。知らないまま自己判断で動いた結果が事故につながります。
理由3: 緊急停止ボタンの位置と使い方を知らない
緊急停止ボタンは機械ごとに位置が違います。入社初日に見せてもらっただけで、「自分が押していいのか」「どんな状況で押すのか」が伝わっていないケースがあります。「押したら怒られそう」という心理も働きます。
危険ゾーンを言語の壁を越えて伝える4つの方法
仕組みで補えば、言語の壁は乗り越えられます。
方法1: 色分けテープとピクトグラムで床面・機械に表示
機械の可動範囲を赤・黄のテープで床に貼り、ピクトグラム(立入禁止・手を入れるな)を機械本体に貼る方法です。言語不問で「ここは危ない」が伝わります。特にコンベア・プレス機周辺での効果が高い。
厚労省の「職場のあんぜんサイト」では、はさまれ・巻き込まれ防止のピクトグラム素材を無償公開しています。まず手元にある素材から始められます。
方法2: 母国語字幕付きの機械操作動画マニュアル
実際の機械操作をスマートフォンで録画し、母国語の字幕をつけた動画マニュアルを作る方法です。「なぜカバーを外してはいけないか」「緊急停止ボタンはどこか」を映像で見せる。文章より理解が早く、何度でも繰り返し見られます。
実はこれ、現場では低コストで作れます。スマートフォンと無料の字幕ソフトで十分です。
方法3: デモ→模倣→確認の3ステップOJT
やって見せる(デモ)→やってもらう(模倣)→できているか確認する、という3ステップのOJTです。言語に頼らず、実技で「正しい動作」を定着させます。
ポイントは「確認」の部分。「分かりましたか?」に「はい」と答えても、実際にできるかは別問題です。実際に正しい手順で動けるかを目で確認してください。
方法4: 緊急停止手順のカラーカード(多言語)
緊急停止ボタンを指さした写真と、「この赤いボタンを押せ」を5言語で書いたカードを機械に貼る方法です。A5サイズで十分。ラミネート加工すれば油汚れにも強い。緊急時に言葉が出なくても、カードを指せばいい状態を作ります。
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機種別リスクと伝え方のポイント
製造業で特に注意が必要な3機種を整理します。
プレス機械
「金型が動いているとき、絶対に手を入れない」がルールです。しかし金型に異物が詰まったとき、反射的に手を入れようとする行動が事故を生みます。光線式安全装置(センサーの前に手が入ると機械が止まる仕組み)が付いていても、装置をまたいで手を入れると無効になります。
伝え方のポイント: 「光線式安全装置をまたいで手を入れると装置が無効になる」を、図解と母国語で明示してください。言葉で説明するより、絵で示したほうが確実に伝わります。
コンベア
動いているベルトに手袋や衣類が触れると、巻き込まれが起きます。「軍手ごと」「腕ごと」引き込まれるスピードが速い点が危険です。
伝え方のポイント: 「コンベアが動いているときは絶対に触らない。詰まっても電源を切ってから対処する」を5言語で手順書に記載し、コンベアの近くに掲示してください。
食品製造・ミキサー系機械
清掃中の事故が多い機種です。「清掃のために機械を止めたが、電源を切らずにカバーを外した」パターンが典型的。母国の工場では電源を切らずに清掃する習慣がある場合もあります。
伝え方のポイント: ロックアウト・タグアウト(LOTO:機械の電源を物理的に施錠して、作業中に誰も再起動できなくする手順)を、写真入りの多言語手順書で示してください。
特別教育(法令義務)との接続
はさまれ・巻き込まれが多い機械作業には、労働安全衛生法上の特別教育義務(同法第59条第3項・「危険業務に就かせる前に必ず実施する教育」)があります。現場OJTだけでは対応できません。
動力プレス機械(安衛則第36条第2号)
金型の調整・取付け・取外し等の業務が対象です。学科と実技あわせて法定時間以上の教育が義務づけられています。外国人労働者が受講する場合も、「本人が理解できる言語で」実施することが安全配慮義務(労働契約法第5条・「会社が従業員を危険から守る責任」)上の要請です。詳しくはプレス機械特別教育 外国語実施ガイドをご参照ください。
自由研削といし(安衛則第36条第1号)
研削砥石の取替え・試運転が対象です。学科4時間以上+実技2時間以上が法定時間。研削砥石が破裂すると飛来事故になります。「なぜ危ないか」の背景知識が母国語で伝わらないと、手順書を見ているだけで理解が薄くなります。
いずれも受講者・科目・実施日などの記録を3年間保存することが法令上の義務です(安衛則第38条。修了証の発行自体は法令義務ではありませんが、実務上は発行して記録と合わせて保管するのが一般的です)。外国語で実施した場合も、使用言語と理解度確認の記録を残してください。
被災事例から学ぶ構造的な要因
ある食品工場での事例です(厚生労働省の公開情報に基づく概要)。ベトナム国籍の労働者が、コンベアの詰まりを取り除こうとして右手を巻き込まれ、指を切断しました。
原因を追うと3つの欠如が重なっていました。
- 「機械が止まって見えたから電源が切れていると思った」——電源遮断と機械停止の違いを知らなかった
- 「止め方を知らなかった」——緊急停止ボタンの場所と使い方を教わっていなかった
- 「近くに相談できる人が日本語でしかいなかった」——トラブル時の連絡先・方法が分からなかった
ここがポイントなのですが、この3つはどれも「個人の不注意」ではなく「仕組みの欠如」です。多言語の手順書があれば防げた。緊急停止手順のカードがあれば防げた。3ステップOJTで「電源を切ってから対処する」が体に入っていれば防げた。
大阪地裁2024年7月31日判決では、教育記録が存在したにもかかわらず「本人が理解できる言語で実施されていなかった」として安全配慮義務違反が認定されました。「教育はした」だけでは不十分で、「伝わった証拠」が問われる時代です。(判決解説はこちら)
Labonaの活用
Labona は外国人労働者向けに5言語(日本語・英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語)で安全衛生教育を提供するeラーニングです。
はさまれ・巻き込まれ防止の内容を含む雇入れ時安全衛生教育コース(5言語)は今すぐ受講を開始できます。プレス機械・自由研削といしの特別教育(学科)は受注制作で対応しています(日本語版は通常5営業日で受講開始 → 講座一覧)。受講ログと理解度テストの結果は管理画面で確認でき、監督署の立入調査や元請け監査の際の説明資料になります。実技と最終的な修了認定は事業者側で行う前提です。
「どこから手をつければいいか分からない」という方こそ、まず体験デモを見てみてください。一番説明が早い。
まとめ
「はさまれ・巻き込まれ」は製造業の死亡災害の第1位で、外国人労働者の被災が集中しています(令和5年統計・製造業での外国人死傷2,741人)。原因の多くは「日本語だけの安全教育が伝わっていない」という仕組みの欠如です。床面の色分けテープ・動画マニュアル・3ステップOJT・多言語緊急停止カードという4つの方法を、まず1つから始めてみてください。プレス機械・自由研削といしの特別教育義務も確認し、外国語での実施と記録保管まで含めて整備しましょう。
よくある質問
Q. 機械が止まっているときでも特別教育は必要ですか?
必要です。特別教育の義務は「その業務に従事させるとき」に発生します。機械が止まっていても、金型の調整・取外しや研削砥石の取替えなどを行わせる場合は、作業を始める前に特別教育を修了させる必要があります。記録は3年間の保存が義務です(安衛則第38条)。
Q. 外国語で実施した特別教育の記録は日本語でなくても大丈夫ですか?
記録の言語に法令上の制限はありません。ただし、外国語で実施した事実(使用言語・通訳の有無・理解度確認の方法)を明記しておくと、監督署対応や元請け監査の際に説明がスムーズです。修了日・受講者名・教育内容の記録は必ず3年間保管してください。
Q. 緊急停止ボタンを「押してよい」と伝えると、誤操作が増えませんか?
むしろ逆です。「押してはいけない雰囲気」のほうが、本当に必要なときに押せない状況を生みます。「異常を感じたら迷わず押す。その後に上長に報告する」というフローを多言語で周知し、押した場合でも責めないルールをつくることが安全文化の基本です。
Q. 外国人向けの安全教育教材を無料で入手できますか?
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、はさまれ・巻き込まれを含む安全衛生教育の多言語教材(漫画・動画・テキスト)が無償公開されています。教材ごとに対応言語が異なる(英語・中国語・ベトナム語・インドネシア語・ポルトガル語などの組合せ)ので、必要な言語版があるかを教材ごとに確認してください。自社の機械・手順に合わせた内容は別途用意が必要です。
Q. 特別教育は社内で実施できますか?
できます。「当該業務に関する十分な知識・経験を有する者」が講師を務めれば、社内実施が認められています。法定のカリキュラム(科目・時間数)を遵守し、受講記録を3年間保存する必要があります(修了証の発行は法令義務ではありませんが、実務上は発行するのが一般的です)。外国人が受講する場合は母国語資料と理解度確認の追加対応を行ってください。詳細は特別教育を事業者が自社実施するための完全ガイドをご参照ください。


