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法令・コンプライアンス更新 2026.10.29·約 12 分で読了

アーク溶接特別教育をオンラインで行う方法【2026年版】

アーク溶接等の業務には安衛則第36条第3号の特別教育が必要です。学科11時間(安全衛生特別教育規程第4条)はeラーニングで実施可能。実技10時間は講師と同一場所での対面が必須です。社内での実施手順と記録管理まで解説します。

アーク溶接特別教育をオンラインで行う方法【2026年版】

溶接作業を担う従業員に特別教育を受けさせたい。しかし、外部教育機関の日程が合わない、受講費用をできるだけ抑えたい――そう考える安全衛生担当者は少なくありません。アーク溶接等の特別教育は、学科部分をeラーニングで実施できます。ただし、全工程がオンラインで完結するわけではなく、実技10時間は講師と同じ場所での対面が必須です。この記事では、根拠となる法令とあわせて、オンライン+社内実技の組み合わせで特別教育を完成させる手順を解説します。

はじめに

「アーク溶接の特別教育をオンラインで完結できるか」という問いへの答えは**「学科はオンライン可・実技は不可」**です。

学科11時間はeラーニングで受講できます。実技10時間については、厚生労働省通達(令和3年1月25日 基安安発0125第2号)により、講師と受講者が同一場所にいることが必須とされています。

この2点を押さえたうえで、以降では法令の根拠・実施手順・記録管理について解説します。

特別教育の根拠と全体像

なぜアーク溶接に特別教育が必要か

アーク溶接機を用いて行う金属の溶接・溶断またはこれらに付随する業務は、労働安全衛生規則(安衛則)第36条第3号に定める「特別教育が必要な危険有害業務」に該当します。

事業者は、当該業務に就かせる労働者に対し、あらかじめ特別教育を行う義務があります(労働安全衛生法第59条第3項)。教育を実施せずに業務に就かせた場合、安衛法第119条違反となり、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が適用されます(2025年6月1日施行の改正刑法により「懲役」から「拘禁刑」へ変更)。

対象となる業務の範囲

安衛則第36条第3号の「アーク溶接等」には次のものが含まれます。

  • 被覆アーク溶接(手棒溶接)
  • MIG溶接・MAG溶接・CO₂溶接など半自動アーク溶接
  • TIG溶接
  • サブマージアーク溶接
  • アークによる溶断(切断)

炭酸ガスやアルゴンガスを使用するシールドガスアーク溶接(いわゆる半自動)も対象です。「半自動だから不要」という誤解が現場では見られますので注意が必要です。

教育時間の全体

安全衛生特別教育規程 第4条で定められた科目と時間は次のとおりです。

区分 科目 時間
学科(合計11時間) アーク溶接等に関する知識 1時間
アーク溶接装置に関する基礎知識 3時間
アーク溶接等の作業の方法に関する知識 6時間
関係法令 1時間
実技(合計10時間) アーク溶接装置の取扱い及びアーク溶接等の作業の方法 10時間

根拠:安全衛生特別教育規程 第4条(昭和47年9月30日労働省告示第92号)

学科と実技を合わせると最低21時間。特別教育の中では実技の比率が高い部類に入ります。

なお、特別教育のeラーニング対応について包括的な解説は「安全衛生教育をオンラインで行うための法的要件まとめ」もあわせてご参照ください。

学科11時間の内訳とeラーニング対応

eラーニングで学科を受講できる根拠

令和3年1月25日付で厚生労働省が発出した通達「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」(基安安発0125第2号・基安労発0125第1号・基安化発0125第1号)により、特別教育の学科はeラーニングで実施できることが明確化されました。

eラーニング実施に必要な要件は次のとおりです。

  1. 内容の充足: 安全衛生特別教育規程に定める範囲を満たしていること
  2. 時間の担保: 法定時間以上であり、受講時間を証明できること(映像再生ログ等)
  3. 講師・映像制作者: 十分な知識・経験を有していること
  4. 質問対応体制: 受講者からの質問を受け付け、回答できる仕組みがあること
  5. 受講確認: 受講者が実際に受講したことを確認できること

事業者が自社でeラーニング環境を整備してもよいですし、外部のeラーニング事業者のサービスを活用する方法もあります。

学科の各科目と主な内容

アーク溶接等に関する知識(1時間) アーク放電の原理と電気の基礎知識を学びます。感電・アーク光による眼の障害がなぜ生じるかを理解する基礎です。

アーク溶接装置に関する基礎知識(3時間) 直流・交流溶接機の種類と特徴、自動電撃防止装置の仕組みと重要性、溶接棒とホルダーの選択・管理、配線の安全基準を学びます。

アーク溶接等の作業の方法に関する知識(6時間) 作業前の点検・整備、溶接・溶断の具体的な方法、溶接部の検査、作業後の後片付け、感電・火災・紫外線・ガス発生などの災害防止対策を学びます。この科目が最も時間が長く、安全のコアといえます。

関係法令(1時間) 労働安全衛生法、同施行令、安全衛生規則の関係条項を学びます。

実技10時間を社内で実施する手順

実技はオンライン不可

前述の通達(基安安発0125第2号)では、実技教育は「講師と受講者が同一の場所で実施しなければならない」と明記されています。映像通話(オンライン会議ツール等)での実施は認められていません。

溶接の実技は、アークの扱い、防護具の着脱、作業姿勢、機器の取り扱いを実際に体得する必要があります。安全確認の多くが画面越しでは対応不可能なためです。

社内で実施する際のポイント

講師について 実技の講師に法定の資格要件はありません。ただし、当該業務について十分な知識・経験を有する者が担当することが求められます(通達の趣旨)。社内のベテラン溶接工や安全衛生担当者が務めるケースが多くみられます。

設備について 自社の溶接設備(溶接機・保護具・作業場所)を使って実施できます。実際の業務で使う機器で訓練できるため、実践との連続性が生まれます。

時間の分割について 実技は合計10時間以上が必要です。1日での完了が難しければ、2日以上に分割することも可能です。学科をeラーニングで先に修了してから実技を実施するのが一般的な流れです。

実施手順の例

  1. eラーニングで学科11時間を受講・修了
  2. eラーニング事業者から受講証明書(Labona では「学科受講証明書」。学科を受講した事実の証明で、特別教育の修了証ではありません)・受講ログを取得
  3. 自社で実技教育の日程・担当講師・使用設備を設定
  4. 自社設備で実技10時間を実施
  5. 実技の記録(受講者・科目・日時・時間数)を作成
  6. 学科・実技の記録をまとめて3年間保存

外国人労働者への実施について

外国人労働者にアーク溶接の特別教育を行う場合は、母国語による学科教育が理解の質を高めます。多言語対応のeラーニングを使えば、学科部分の言語バリアを低減できます。外国語での実施方法の詳細は「アーク溶接特別教育を外国語で実施する方法」をご参照ください。

溶接ヒューム規制との関係

2021年4月1日施行の特定化学物質障害予防規則(特化則)改正により、溶接ヒュームが「特定化学物質(第2類物質)」として新たに規制対象となりました。

金属アーク溶接等作業を行う屋内作業場では、溶接ヒュームを減少させるため全体換気装置による換気の実施またはこれと同等以上の措置を講じなければなりません(特化則第38条の21第1項)。なお同項は、発散源を密閉する設備・局所排気装置・プッシュプル型換気装置については「設けることを要しない」と明記しています。他の特定化学物質と扱いが異なる点なので、設備投資の検討時に押さえておきたいところです。

呼吸用保護具については、金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるとき、有効な呼吸用保護具を使用させる義務があります(同条第5項)。さらに屋内作業場で継続して作業を行う場合は、溶接ヒューム濃度の測定結果に応じた呼吸用保護具を使用させ(同条第7項)、面体を有するものについては1年以内ごとに1回、定期に適切に装着されていることを確認し、その結果を記録して3年間保存する必要があります(同条第9項・いわゆるフィットテスト)。

この溶接ヒューム対策はアーク溶接の特別教育とは別の規制です。特別教育を実施したとしても、溶接ヒューム対策を別途講じる必要がある点に注意してください。

ガス溶接技能講習との違い

ガス溶接(可燃性ガスと酸素を使った溶接・溶断)の業務には、ガス溶接技能講習(安衛令第20条第10号)の修了が必要であり、アーク溶接の特別教育とは別の教育・資格です。

区分 対象業務 根拠 形式
アーク溶接等特別教育 電気を使った溶接・溶断 安衛則第36条第3号 学科eラーニング可
ガス溶接技能講習 可燃性ガス+酸素による溶接・溶断 安衛令第20条第10号 登録機関での受講が必要

ガス溶接技能講習は都道府県労働局長の登録機関でのみ受講でき、eラーニングには対応していません。ガス溶接とアーク溶接の両方を行う作業者には、それぞれの教育・資格が必要です。

受講記録の作成と保存

記録の義務と保存期間

特別教育を実施した事業者は、当該特別教育の受講者、科目等の記録を作成し、3年間保存しなければなりません(安衛則第38条)。条文が定めているのは「受講者、科目等」までですが、実務では受講日・実施時間・担当講師までそろえておくと、監督署の確認や労災発生時の説明に耐えられます。この記録義務を負うのは事業者です。

eラーニングを活用した場合、学科の受講記録はeラーニング事業者から提供される場合が多いですが、最終的な保管責任は事業者にあります。実技記録については自社で作成・保管します。

記録に含めるべき項目

  • 受講者の氏名
  • 受講日・実施時間
  • 実施した科目と時間数
  • 担当講師の氏名(実技)
  • 使用した教材名(学科eラーニングの場合はサービス名)

eラーニング事業者が発行する受講証明書は学科受講の証跡として活用できますが、特別教育の「修了」を認定するのはあくまで事業者の判断です。

Labonaの活用

まとめ

アーク溶接等の特別教育についての要点を整理します。

  • 根拠法令: 安衛則第36条第3号・安全衛生特別教育規程第4条
  • 学科: 11時間(eラーニング実施可・令和3年1月25日 基安安発0125第2号)
  • 実技: 10時間(講師と受講者が同一場所での対面が必須)
  • 社内実施: 自社設備・自社講師で実施可。講師に法定資格要件なし
  • 記録: 受講者・科目等の記録を3年間保存(安衛則第38条)

学科をeラーニングで先に済ませ、自社の日程に合わせて実技を社内で実施する進め方が、柔軟性とコストのバランスを取りやすい方法です。

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よくある質問

半自動溶接(CO₂・MAG・MIG)も特別教育の対象ですか?

はい、対象です。シールドガスを使った半自動アーク溶接も「アーク溶接機を用いて行う金属の溶接等の業務」に該当するため、安衛則第36条第3号の特別教育が必要です。

ガス溶接もやる作業者は、アーク溶接の特別教育のほかにガス溶接技能講習も必要ですか?

はい、両方必要です。ガス溶接技能講習(安衛令第20条第10号)はアーク溶接等特別教育とは別の教育・資格です。ガス溶接と電気溶接の両方を行う作業者は、それぞれの要件を満たす必要があります。

eラーニングで学科を受講した場合、記録はどのように残せばよいですか?

eラーニング事業者から提供される受講ログや受講証明書(学科を受講した事実の証明であり、特別教育の修了証ではありません)を保存するほか、事業者側でも受講者・科目等を記録した台帳を作成してください(安衛則第38条)。受講日や実施時間まで残しておくと確認に耐えられます。記録は3年間保存する義務があります。


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