マンホール・汚水槽・地下ピット・タンクの内部で作業が発生する現場では、酸素欠乏・硫化水素危険作業の特別教育(労安則第36条第26号)が法定義務です。「社員に受けさせたいが、会場と日程の確保が難しい」という声は多く聞きます。この特別教育は酸素欠乏危険作業特別教育規程の上で学科のみで構成されており、法定の実技科目がないため、全科目をeラーニングで完結させることができます。第一種は学科4時間、第二種は学科5.5時間です。本記事では、第一種・第二種の選び方、eラーニングで受けるための条件、作業主任者との違い、受講後の記録の残し方まで整理します。
酸欠・硫化水素の特別教育とは—法令の根拠
酸素欠乏・硫化水素危険作業に従事させる場合、事業者は労働安全衛生法第59条第3項に基づいて特別教育を実施しなければなりません。具体的な対象業務は労働安全衛生規則第36条第26号に定められています。
「令別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所における作業に係る業務」
「令別表第六」とは労働安全衛生法施行令の別表第六で、マンホール内・汚水槽内・地下ピット・腐泥を含む溝・発酵槽・不活性ガスを使用した設備の内部など、酸素欠乏や硫化水素中毒が発生する恐れのある場所が列挙されています。これらの場所で作業に従事させるとき、事業者は事前に特別教育を実施する義務を負います。
酸欠則第12条との関係
酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)第12条は、酸欠則上の特別教育義務を定めた条文です。第1項が第一種(酸素欠乏のみ)、第2項が第二種(酸素欠乏+硫化水素)に対応しています。安衛則第36条第26号と酸欠則第12条はセットで読む関係にあります。
具体的なカリキュラムは酸素欠乏危険作業特別教育規程(昭和47年労働省告示第132号)に定められており、第1条が第一種、第2条が第二種の科目と時間数を規定しています。
第一種と第二種:どちらを受けるか
最初に確認すべきは「作業場所が第一種に該当するか、第二種に該当するか」です。
| 第一種 | 第二種 | |
|---|---|---|
| 主なリスク | 酸素欠乏のみ | 酸素欠乏+硫化水素中毒 |
| 代表的な場所 | 不活性ガス使用の設備内部、ドライアイス取扱場所、地下ケーブル室など | し尿・下水・汚泥・腐泥を扱う場所(マンホール、汚水槽、浄化槽)など |
| 学科時間 | 4時間 | 5.5時間 |
| 根拠 | 酸欠則第12条第1項・規程第1条 | 酸欠則第12条第2項・規程第2条 |
第一種のカリキュラム(規程第1条・学科4時間)
| 科目 | 時間 |
|---|---|
| 酸素欠乏の発生の原因 | 30分 |
| 酸素欠乏症の症状 | 30分 |
| 空気呼吸器等の使用の方法 | 1時間 |
| 事故の場合の退避及び救急そ生の方法 | 1時間 |
| その他酸素欠乏症の防止に関し必要な事項 | 1時間 |
第二種のカリキュラム(規程第2条・学科5.5時間)
| 科目 | 時間 |
|---|---|
| 酸素欠乏等の発生の原因 | 1時間 |
| 酸素欠乏症等の症状 | 1時間 |
| 空気呼吸器等の使用の方法 | 1時間 |
| 事故の場合の退避及び救急そ生の方法 | 1時間 |
| その他酸素欠乏症等の防止に関し必要な事項 | 1.5時間 |
第二種は硫化水素中毒の論点が加わるぶん、各科目の説明が厚くなり合計5.5時間になります。下水・汚水関係の現場(マンホール工事・浄化槽管理・食品工場の廃液槽など)は、ほとんどが第二種に該当する場所です。
どちらか判断に迷う場合は保守的に第二種を選択するのが現場での一般的な判断です。いずれにせよ、受講した特別教育の種類(第一種か第二種か)は記録に残しておく必要があります。
eラーニングで学科を実施する方法
規程に「実技の定め」がない
この特別教育が全科目オンライン実施できる理由は、酸素欠乏危険作業特別教育規程が学科のみで構成されている点にあります。フルハーネス安全帯特別教育や足場の組立て等特別教育とは異なり、法定の実技科目が告示で規定されていません。
告示上の構造として「学科のみで構成される特別教育」であることが、全科目eラーニングで完結させることを可能にしています。
厚労省2021年通達が求めること
令和3年(2021年)1月25日、厚生労働省は「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」(基安安発0125第2号・基安労発0125第1号・基安化発0125第1号)を発出しました。この通達によりeラーニングによる特別教育実施が公式に認められ、同時に満たすべき事項が示されました。
通達が求めているのは、次の2点です。
1. 法定の科目の範囲・教育時間・講師の要件を満たすこと 規程が定める科目と時間数をすべて実施すること。短縮や科目省略は不可です。あわせて、教材の閲覧・視聴による教育時間が法令で定める教育時間以上であることを、教育を実施する者が担保する必要があるとされています。
2. 受講した事実を適切に確認すること 通達は確認の方法として、ビデオ会議ツール等を用いてリアルタイムに講師が受講状況を確認する方法、動画の再生記録やパソコンの操作記録に基づいて確認する方法、そのほか教育を実施する者が合理的に証明できる方法を挙げています。
実務では、この「受講事実の確認」を担保する手段として、ログイン認証による本人特定や理解度確認を組み合わせるのが一般的です。ただしこれらは通達が個別に列挙した要件ではなく、確認を成立させるための手段という位置づけである点は押さえておいてください。
なお、受講記録を3年間保存する義務は通達ではなく安衛則第38条に基づくものです(後述)。根拠が別であることを理解しておくと、監督署への説明がぶれません。
以上を満たしたeラーニングシステムを選べば、会場や日程の調整なしに学科5科目を社員に受講させることができます。
「学科のみで構成される特別教育」の正しい理解
この特別教育はeラーニングで完結する設計ですが、特別教育を行った事業者としての記録の作成・保存と、修了の認定は事業者の作業です。Labonaのようなeラーニングサービスが発行するのは学科を受講した事実を示す「学科受講証明書」であり、特別教育の修了を認定するのは事業者です。法令上、特別教育の「修了証」の発行は義務ではありませんが、受講者が異動・転職の際に示せるよう、事業者が記録をもとに社内で修了証を作成・交付しておく運用は広く行われています。「サービスに申し込めば自動的に義務を満たせる」という位置づけではなく、記録の作成・3年保管(安衛則第38条)という事業者としての工程が残ります。
「装着練習も必要では?」—実技の考え方
空気呼吸器等の使用の方法は学科の科目(1時間)です。動画や図解でその構造・装着手順・点検方法を習得するのが法定カリキュラムの内容です。
実際の器具を用いた装着練習を入場前に現場で行うことは、安全性を高める望ましい工夫です。ただしこれは規程上の「法定実技」ではなく、やらなければ法令違反になるものではありません。一方で、「規程に実技の定めがないから装着を練習させなくていい」という運用も誤った解釈です。法定教育として学科を適切に実施したうえで、現場での補完的な練習を組み合わせるのが実務上の望ましい設計です。
こうした「法定学科」と「現場での補完練習」を区別して記録しておくことが、後の監督署対応や元請監査の際のトラブルを防ぎます。
酸素欠乏危険作業主任者とは別物—混同しやすいポイント
特別教育と並んでよく混同されるのが「酸素欠乏危険作業主任者」の選任義務です。
酸素欠乏危険作業主任者は、事業者が作業ごとに1名以上選任しなければならない職務者です(安衛令第6条第21号)。資格取得には都道府県労働局長の登録を受けた機関が実施する「技能講習」の修了が必要です。技能講習は登録機関が実施するものであり、事業者が社内だけで代替することはできません。
特別教育は、その作業に従事するすべての労働者に事業者が実施する教育です。二つは別の制度です。
| 特別教育(安衛則第36条第26号) | 酸素欠乏危険作業主任者 | |
|---|---|---|
| 対象 | 当該作業に従事する労働者全員 | 作業場所ごとに1名以上選任 |
| 実施者 | 事業者(社内で可) | 登録機関(社内不可) |
| 根拠条文 | 安衛則第36条第26号・酸欠則第12条 | 安衛令第6条第21号 |
| 内容 | 規程に基づく学科教育 | 技能講習 |
「特別教育を修了すれば作業主任者になれる」は誤りです。主任者選任には別途の技能講習が必要です。両者を組み合わせることで、法令上の義務が初めて充足されます。
受講後の記録と保管
事業者は特別教育の記録を3年間保存する義務があります(安衛則第38条)。記録に含めるべき事項の例は次のとおりです。
- 教育を行った年月日
- 教育内容(科目名・時間数)
- 講師の氏名(またはeラーニングの場合は提供サービス名)
- 受講者の氏名
- 受講者の確認(サイン・押印、またはeラーニングのログ)
eラーニングで受講した場合、受講ログをCSV等で出力できるサービスを選んでおくと、監督署の立入調査や元請監査の際に速やかに提示できます。サービス解約後にデータへのアクセスが失われるケースもあるため、契約前に「解約後のデータエクスポート対応」を確認しておくことをお勧めします。
なお、定期的な再教育(安衛法第60条の2の業務従事者教育)は努力義務であり、おおむね5年ごとの実施が推奨されていますが、法令上の強制義務ではありません。
Labonaの活用
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外国人労働者を対象に「本人が理解できる言語で」実施する方法については、酸素欠乏・硫化水素危険作業特別教育の外国語実施ガイドもあわせてご覧ください。
まとめ
酸素欠乏・硫化水素危険作業の特別教育(安衛則第36条第26号・酸欠則第12条)は、酸素欠乏危険作業特別教育規程の上で学科のみで構成されており、実技の法定科目がありません。第一種は学科4時間、第二種は学科5.5時間で、どちらも全科目をeラーニングで実施できます。eラーニング実施には、厚労省2021年通達が求める「法定の科目・教育時間・講師要件の充足」と「受講した事実の適切な確認」が必要です。受講記録の3年間保存は通達ではなく安衛則第38条に基づく義務です。記録の作成・保管と修了の認定は事業者の責務として残ります(修了証の発行そのものは法令上の義務ではありません)。作業主任者の選任は技能講習が必要な別制度です。「第一種か第二種か」の場所判定と、記録の残し方を確認してから受講計画を立ててください。
よくある質問
第一種と第二種、どちらを受けさせればよいですか?
作業場所が「し尿・下水・汚泥・腐泥を扱う場所」に該当する場合は第二種(5.5時間)を選んでください。浄化槽・マンホール・汚水槽は典型的な第二種の場所です。不活性ガスを使用した設備内部・冷蔵庫内・地下ケーブル室など硫化水素の発生が想定されない場所は第一種(4時間)に該当します。判断に迷う場合は保守的に第二種を選ぶのが現場での一般的な対応です。受講した種類(第一種・第二種)は記録に明記してください。
作業主任者も特別教育を受けさせる必要がありますか?
酸素欠乏危険作業主任者は技能講習で資格を取得しますが、特別教育の修了は技能講習の前提条件ではありません。また主任者資格を持っていれば特別教育が自動的に免除されるという規定もありません(安衛則第37条の省略要件に該当するかどうかは事業者が個別に判断します)。作業に従事するすべての労働者に特別教育を実施するのが原則です。
eラーニングで受講した記録はどう残せばよいですか?
eラーニングシステムが出力する受講ログ(受講者名・科目・日時・時間数)をCSVやPDFで保存し、3年間保管してください(安衛則第38条)。受講証明書を印刷して紙で保管する方法でも問題ありません。重要なのはサービス解約後もデータが手元に残ることです。契約前にデータエクスポート機能と解約後の取り扱いを確認しておくことをお勧めします。
関連ガイド
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