「高所作業車の特別教育を受けさせたいが、全員を外部講習に連れて行く日程が取れない」という声は現場担当者から頻繁に聞こえます。結論から言うと、学科6時間はeラーニングで実施できます。実技3時間は対面が必要ですが、社内で対応可能です。本記事では、法令の根拠・科目構成・社内実技の段取り・記録の残し方を整理し、担当者が社内で判断できるよう解説します。
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高所作業車(10m未満)の特別教育とは
作業床の高さ10メートル未満の高所作業車を運転する業務に就かせる場合、事業者は特別教育を実施する義務があります(労働安全衛生規則第36条第10号の5)。道路上の走行(公道を自走する行為)は対象外で、現場内で作業床を上げ下げしながら作業を行う業務が対象となります。
10m以上との使い分け
作業床の高さが10メートル以上の高所作業車の運転は、特別教育ではなく高所作業車運転技能講習(安衛令第20条第15号)を修了させる必要があります(学科11時間+実技6時間、計17時間)。就業制限業務となるため、資格なしに業務に就かせることはできません。
判定の基準になる「作業床の高さ」は、作業床を最も高く上昇させた場合の床面の高さと定義されています(安衛令第10条第7号)。現場で実際に何メートルまで上げたかではなく、機種の能力で決まります。「普段は10m未満の高さで使っている」という場合でも、その機種が10m以上まで上昇できるなら技能講習修了者が必要です。機種ごとの最大作業床高さを確認したうえで、どちらの教育が必要かを判断してください。
学科・実技の構成
安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)第13条に基づく時間構成は以下のとおりです(一次資料:厚労省法令等DB、同規程第13条)。
学科:合計6時間以上
| 科目 | 時間 |
|---|---|
| 高所作業車の作業に関する装置の構造及び取扱いの方法に関する知識 | 3時間 |
| 原動機に関する知識 | 1時間 |
| 高所作業車の運転に必要な一般的事項に関する知識 | 1時間 |
| 関係法令 | 1時間 |
実技:合計3時間以上
| 科目 | 時間 |
|---|---|
| 高所作業車の作業のための装置の操作 | 3時間 |
学科6時間と実技3時間を合わせた合計は最低9時間です。外部の会場型講習では通常1〜2日で完結しますが、eラーニングと社内実技に分割することで、社員の業務スケジュールへの影響を分散できます。
学科6時間はeラーニングで実施できる
令和3年(2021年)1月25日、厚生労働省は「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」を通達しました(基安化発0125第1号・基安安発0125第2号・基安労発0125第1号)。この通達の別表は教育の種類ごとに満たすべき要件を定めており、そのなかに「特別教育」が含まれています。別表は個別の業務名を列挙する形式ではないため、高所作業車(安衛則第36条第10号の5)も特別教育の一つとしてこの枠組みに入り、学科部分をeラーニングで実施できます。
eラーニング実施全般の要件と対面が必要な範囲については、安全衛生教育のオンライン・eラーニング実施 完全ガイドで詳しく解説しています。本記事は高所作業車の特別教育に絞って解説します。
eラーニング実施の4要件
| 要件 | ポイント |
|---|---|
| 法定科目の網羅 | 安全衛生特別教育規程第13条が定める4科目・6時間すべてをカバーすること |
| 本人特定 | ID・パスワード等で受講者を特定できること |
| 受講事実の確認 | 受講時間の計測と受講完了の確認ができること |
| 記録の保管 | 受講者・科目・日付を記録し3年間保存できること(安衛則第38条) |
通達の別表はこれに加えて、受講者の質問に答えられる体制を求めています。eラーニングを選ぶ際は質問窓口の有無も確認してください。確認テストは法定要件ではありませんが、理解度を確認する工夫として多くのサービスが取り入れています。
実技は対面で実施する
実技は教育を行う者(講師)と受講者が同一場所にいる対面で実施する必要があります。実技をオンラインで完結することはできません。実技はeラーニング修了後に、社内または会場型講習で行うことになります。
実技を社内で行う段取り
「実技は対面が必要」と聞くと、外部講習に送り込まなければならないと思われがちです。しかし、事業者が自社の高所作業車を使って社内で実技を実施することも可能です。
講師の要件
実技を担当する講師に、特定の資格(運転免許や技能講習修了など)は法令上求められていません。特別教育の講師の資格要件を定めた条文は安衛則にも安全衛生特別教育規程にも存在せず、事業者が適任者を判断することになります。高所作業車の操作に習熟した社員が担当するのが一般的です。
ただし、これは「誰でも教えてよい」という意味ではありません。高所作業の危険性と正しい操作手順を十分に熟知した者が担当するよう、社内で判断してください。
使用する高所作業車
実技は自社で保有・使用している高所作業車で行うことができます。レンタルした高所作業車を使って実技を実施することも差し支えありませんが、実技で使った機種と実際に業務で使う機種が大きく異なる場合は、業務に使う機種での追加確認を検討してください。
実技でカバーする内容
実技の科目は「高所作業車の作業のための装置の操作」です。作業床の昇降・旋回・伸縮などの基本操作、定められた方法による安全な昇降を確認します。操作の習得だけでなく、緊急停止の確認や周囲の安全確認の手順も含めて指導することが望ましいです。
記録の保存
特別教育の実施記録は事業者が作成し、3年間保存する義務があります(労働安全衛生規則第38条)。記録に含めるべき事項は次のとおりです。
- 教育年月日
- 教育を受けた者の氏名
- 教育科目
- 教育の担当者
様式は法定されていません。自社のフォーマットで差し支えありませんが、行政の調査時に提示できるよう整理しておく必要があります。eラーニングを使った場合、学科の受講記録にはシステムが出力する受講証明書(Labona では「学科受講証明書」)を活用できます。これは学科を受講した事実の証明であり、特別教育の「修了証」ではありません。実技分は社内で別途記録を作成し、特別教育全体の記録は事業者が整えてください。
会場型との比較
| 比較軸 | 会場型(外部) | eラーニング+社内実技 |
|---|---|---|
| スケジュール | 開催日程に合わせる必要あり | 学科は任意のタイミングで実施可 |
| 移動・拘束時間 | 必要(交通費・移動時間が発生) | 学科は不要 |
| 人数対応 | 1人でも対応可 | 複数名に効率的 |
| 記録管理 | 修了証の管理が中心 | 自社での記録作成が必要 |
| 実技の質 | 専門機関が担保 | 社内講師の質に依存 |
少人数(1〜2名)で日程が急ぐ場合は会場型が適していることが多く、複数名を計画的に受けさせる場合はeラーニング+社内実技の組み合わせがコスト・運用の両面で合理的になることが多いです。
科目の省略
一定の知識・技能があると認められる労働者については、科目の全部または一部を省略できます(労働安全衛生規則第37条)。省略できるかどうかは事業者が業務内容・保有資格・実務経験を確認して判断し、省略した場合でも記録に残すことが必要です。
「技能講習修了者だから自動的に省略できる」という規定はありません。資格の有無を参考にしながら、事業者が合理的な根拠を持って判断してください。
フルハーネス特別教育との関係
高所作業車のバケット(作業床)内でフルハーネス型墜落制止用器具を着用させる場合、フルハーネス型墜落制止用器具を用いて行う作業に係る特別教育(安衛則第36条第41号)も別途必要かどうかという問い合わせがあります。
厚生労働省の「墜落制止用器具に係る質疑応答集」(令和5年12月20日 基安安発1220第2号で改訂)は、この点について「高所作業車のバスケット内での作業であれば、通常、作業床があると認められるため、特別教育は義務付けられません」と回答しています(質問4-3)。第41号の対象は「作業床を設けることが困難なところ」での作業であり、高所作業車の作業床上での作業は原則としてこれに当たらないためです。
ただし同じ回答は、作業床が接地面に対し垂直方向にのみ昇降する構造の高所作業車を除き、バスケット内で作業する場合であっても高さ6.75メートルを超える箇所では、フルハーネス型墜落制止用器具等の使用が義務付けられるとしています。つまり「フルハーネス型を使う義務」と「第41号の特別教育の義務」は別の話で、高所作業車の作業床上では前者が生じても後者は原則として生じません。作業床から身を乗り出す作業や、高所作業車以外の作業床を設けることが困難な箇所での作業が業務に含まれる場合は第41号の特別教育の対象になり得るため、自社の作業内容を確認し、判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署に相談してください。
外国人社員がいる場合
本記事は日本語で受講できる社員の特別教育手配を主な対象としています。外国人労働者に外国語で実施する場合は、教材の言語と理解度確認の設計が別途論点になります。
Labonaの活用
まとめ
- 高所作業車(10m未満)の特別教育は労働安全衛生規則第36条第10号の5に基づく義務
- 学科6時間(4科目)は、eラーニング通達(令和3年1月25日)の4要件を満たせばオンラインで実施できる
- 実技3時間は対面が必要。社内の高所作業車と適切な講師で実施可能
- 記録は事業者が作成し3年間保存する義務がある(安衛則第38条)
- 10m以上の高所作業車運転は技能講習が必要(就業制限業務)
よくある質問
Q. レンタルした高所作業車で実技を行ってもよいですか?
レンタルの高所作業車を使って社内で実技を行うことは差し支えありません。実際に業務で使う機種と大きく異なる場合は、実際の機種での操作確認を追加で行うことを検討してください。
Q. 10m以上の高所作業車も使う場合、特別教育は無効になりますか?
特別教育の修了は無効になりません。ただし、10m以上の高所作業車の運転は技能講習が必要な就業制限業務です。10m以上の機種を運転させる場合は技能講習修了者を配置してください。特別教育のみを修了した者に10m以上の機種を運転させることはできません。
Q. eラーニングで受けた記録の様式はどうすればよいですか?
様式は法定されていません。eラーニングシステムが発行する受講証明書を保管し、別途社内の教育記録台帳に受講者・科目・日付を記録する方法が一般的です。実技分は社内で記録を作成し、学科・実技を合わせた特別教育全体の記録として整えてください。
Q. 実技は外部機関に依頼しなければなりませんか?
法的には必須ではありません。特別教育の講師に資格要件を定めた条文はなく、事業者が社内の適切な者を講師として実技を実施することができます。外部機関に依頼するかどうかは、社内の体制・受講者数・保有する高所作業車の状況に応じて判断してください。
関連ガイド
- 安全衛生教育のオンライン・eラーニング実施 完全ガイド — eラーニング通達の4要件と対面が必要な範囲の整理
- 高所作業車特別教育を外国人労働者に外国語で実施する方法 — 外国語での実施手順と5言語教材の選定基準
- 安全衛生教育 完全ガイド【2026年版】 — 雇入れ時教育・特別教育・職長教育の全体像と法令根拠
- 安全衛生教育記録の保管方法と電子化の進め方 — 3年保存の根拠と記録様式の実務
参考一次資料
- 安全衛生特別教育規程 第13条(高所作業車の運転の業務) ※学科6時間・実技3時間を確認
- 労働安全衛生規則 第36条第10号の5(特別教育を必要とする業務)・第37条(科目の省略)・第38条(記録の3年保存)
- 労働安全衛生法施行令 第10条第7号(作業床の高さの定義)・第20条第15号(10m以上は就業制限業務)
- 「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」令和3年1月25日 基安化発0125第1号・基安安発0125第2号・基安労発0125第1号
- 墜落制止用器具に係る質疑応答集の改訂について(令和5年12月20日 基安安発1220第2号)質問4-3「高所作業車を用いた作業についても、特別教育を行わなければならないのか」
