「外国人労働者が増えているのに、何から手をつければいいか分からない」——そんな声を、製造業・建設業・物流業の安全衛生担当者から頻繁に聞きます。実は政府もこの問題を深刻に受け止めていて、2023年4月から始まった「第14次労働災害防止計画」で外国人労働者の安全対策を数値目標つきの重点課題に格上げしました。この記事では、計画の全体像から外国人に直接関わる指標、そして監督署が何を見に来るかまで、実務担当者が知っておくべき点を整理します。
第14次労働災害防止計画とは
2023年4月、日本の安全衛生行政の5年間の羅針盤が更新されました。
厚生労働省は2023年3月、「第14次労働災害防止計画」を策定しました(計画期間:2023年度〜2027年度)。労安法第6条(労働安全衛生法第6条)に基づいて国が定める計画で、企業が自社の安全衛生活動の方向性を考える際の「国の目標」として機能します。
計画の全体目標は次の2点です。
- 死亡者数: 2022年と比較して2027年までに5%以上減少させる
- 死傷者数: 増加傾向に歯止めをかけ、2027年までに2022年比で減少に転じさせる
第13次計画(2018〜2022年度)では死亡者数は着実に減少した一方、休業4日以上の死傷者数は近年増加傾向にあります。特に外国人労働者の死傷件数の増加が課題として明示されたことが、第14次計画の大きな特徴です。
参考一次資料: 第14次労働災害防止計画(令和5年3月 厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001116307.pdf
8つの重点対策と外国人労働者の位置づけ
計画の核心は「8つの重点対策」です。それぞれ何を目指しているかを押さえておくと、自社への影響が見えてきます。
① 自発的な安全衛生対策に取り組むための意識啓発 ② 労働者の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進 ③ 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進 ④ 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進 ⑤ 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進 ⑥ 業種別の労働災害防止対策の推進(陸上貨物運送・建設・製造・林業) ⑦ 労働者の健康確保対策の推進 ⑧ 化学物質等による健康障害防止対策の推進
外国人労働者は④に明記されています。ここがポイントなのですが、従来の計画では「外国人に配慮する」という努力目標的な書きぶりでしたが、第14次では測定可能な数値目標が設定された点が大きく異なります。
また、重点対策④は「外国人だけ」の話ではなく、非正規労働者・高齢者・障害者なども含む「多様な働き方への対応」として一体的に位置づけられています。外国人への配慮を「特別扱い」としてではなく、雇用の多様化への企業対応として捉える視点が求められています。
外国人労働者に関する数値目標の詳細
ここが実務で最も重要な部分です。第14次計画に記載された外国人関連の指標を整理します。
アウトカム指標(達成すべき状態)
「外国人労働者の死傷年千人率(ちじゅう千人率)を2027年度までに労働者全体の平均以下にする」
死傷年千人率とは、労働者1,000人あたりの年間死傷者数のことです。現状を確認しておきます。
- 全労働者の死傷年千人率: 約2.36
- 外国人労働者の死傷年千人率: 約2.77
つまり外国人は全体平均の約1.2倍、危険な目に遭いやすい状況が続いています。業種別では製造業が被災者全体の約48%、建設業が約18%を占め(厚生労働省「外国人労働者の労働災害発生状況」)、特に経験年数の浅い外国人が入職直後に被災するケースが多い実態があります。
この千人率を5年間で逆転させる——それが国の数値目標です。
アウトプット指標(企業に求める取り組み)
「母国語に翻訳された教材や視聴覚教材を用いるなど、外国人労働者に分かりやすい方法で労働災害防止の教育を行っている事業場の割合を、2027年度までに50%以上にする」
正直なところ、現状はこの水準に達していない事業場が多数です。「日本語の資料を渡している」「通訳が同席している」だけでは、この指標では不十分とみなされる可能性があります。「母国語に翻訳された教材」または「視聴覚教材」という2つの要素が評価基準となっていることに注意が必要です。
監督署が外国人雇用事業場をどう見るか
数値目標が設定されたということは、監督署の立入検査の焦点も変わります。
第14次計画では、外国人を多く雇用している事業場への**重点的な立入検査(重点監督)**を行うことが明示されています。以下が監督署が特に確認する項目と考えられます。
教育の実施状況
- 雇入れ時安全衛生教育(労安法第59条第1項)の実施記録があるか
- 特別教育(労安法第59条第3項)の修了証と記録が整備されているか
- 外国人労働者が「理解できる言語」で実施されているか(記録上の根拠)
記録・保管
- 特別教育の記録は労安則第38条に基づき3年間保管しているか
- 教育の記録に受講者の署名(または本人確認の記録)があるか
教材・コンテンツ
- 日本語のみの教材で実施していないか
- 母国語版教材または視聴覚教材を使用しているか
実務的には「記録があれば問題ない」という時代は終わりつつあります。大阪地裁の2024年7月判決では、教育記録は存在していたにもかかわらず「外国人労働者が実際に理解できる状態で実施されていなかった」という理由で安全配慮義務違反が認定された例があります。記録の形式ではなく、「理解させる教育」が問われています。
事業場がとるべき具体的対応
計画を踏まえ、2027年度までに取り組むべきことを整理します。優先度の高い順に示します。
ステップ1: 多言語教材の整備(最優先)
雇入れ時安全衛生教育の教材を、採用している外国人の母国語に翻訳してください。まず在籍者の国籍構成を確認し、ベトナム語・中国語・インドネシア語など上位2〜3言語を優先します。自社翻訳が難しければ、多言語対応のeラーニングサービスを活用するのが現実的です。Labona の雇入れ時安全衛生教育(日本語・英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語)は、この「母国語に翻訳された教材+視聴覚教材」にそのまま該当します。
ステップ2: 理解度確認の仕組みを作る
教育を実施した記録に加えて、「理解できたことを確認した記録」を残してください。母国語での修了テスト、実技での復唱確認、チェックシートへの署名など、形式は問いませんが「理解を確認したエビデンス」が重要です。
ステップ3: 記録の一元管理
外国人労働者の教育記録は散逸しやすく、監督署の臨検時に「出せない」という事態が起きがちです。在留資格・受講記録・修了証を一つのシステム(またはファイル)で管理する体制を整えてください。
外国人労働者は転職率が高いため、在籍中の教育記録管理が難しいという課題もあります。入社時に漏れなく記録を作り、クラウドで保管しておくことが長期的なリスク管理につながります。
まとめ
第14次労働災害防止計画(2023〜2027年度)は、外国人労働者の安全対策を初めて「数値目標つき」の重点課題として位置づけた画期的な計画です。「死傷年千人率を全体平均以下に」「多言語教材活用事業場を50%以上に」という2つの指標が、監督署の重点監督の基準となります。事業場として今すぐ始めるべきことは、①多言語教材の整備、②理解度確認の記録化、③教育記録の一元管理の3点です。2027年の計画終了まで残り1年強。今こそ外国人労働者の安全教育体制を見直す好機です。
よくある質問
Q. 第14次労働災害防止計画への対応は法的義務ですか?
計画自体は企業に直接の義務を課すものではありません。ただし、計画に基づいて強化された監督署の重点監督では、雇入れ時教育(労安法第59条第1項)や特別教育(同条第3項)の実施状況が具体的に確認されます。これらの教育は法律上の義務であり、未実施は是正勧告・送検の対象となります。
Q. 「母国語翻訳教材を使っている事業場50%以上」という目標は、うちに関係しますか?
外国人を1人でも雇用している事業場であれば関係します。計画の指標達成のため、監督署は外国人雇用事業場への立入検査を増やす方向にあります。監督署が来た際に「母国語教材を使っています」と示せる状態にしておくことが、リスク低減につながります。
Q. 外国人労働者の死傷年千人率2.77という数値はどこで確認できますか?
厚生労働省が毎年公表している「外国人労働者の労働災害発生状況」に記載されています。都道府県労働局(例: 静岡労働局)のウェブサイトでも公表資料を参照できます。最新の数値は毎年9〜10月頃に更新されます。
Q. 監督署の立入検査で最初に何を確認されますか?
まず雇入れ時安全衛生教育の実施記録(受講者名・実施日・教育内容・担当者)を求められます。次に、特別教育が必要な業務に従事させている外国人の修了証確認に移ります。「記録が見つからない」「外国人分だけ記録がない」という状況は、是正勧告の対象になりやすいため、事前の整備が重要です。
Q. 計画の進捗評価はいつ、どこで確認できますか?
計画では「毎年、実施状況の確認及び評価を行い、労働政策審議会安全衛生分科会に報告する。必要に応じ、計画を見直す」と定められています(特定の年に一括で行う「中間評価」は定められていません)。各年の評価結果は同分科会の資料として厚生労働省サイトで公表されるため、重点対策の見直しがないか定期的に確認することをお勧めします。
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