「塗装ブースで有機溶剤を扱う部署に外国人スタッフを配属した。作業主任者は日本人の班長が兼任しているが、指示が伝わっているかどうか正直自信がない」——こういった相談が、製造業・建設業の安全担当者から増えています。
有機溶剤作業、酸素欠乏危険作業、足場の組立て等の作業には、作業主任者(さぎょうしゅにんしゃ)の選任が法律で義務づけられています。外国人が作業主任者に就ける条件、そして日本語しか話せない作業主任者が外国人チームを指揮するときのリスクと解決策を整理します。
作業主任者制度とは
労働安全衛生法第14条(以下、労安法)は、「労働災害を防止するための管理を必要とする作業」について、都道府県労働局長が認定した技能講習の修了者のなかから、作業主任者を選任する義務を事業者に課しています。
どの作業に作業主任者が必要かは、労働安全衛生法施行令第6条に列挙されています。高圧室内作業、アセチレン溶接装置の取扱い、有機溶剤作業、酸欠危険作業、足場組立て等、乾燥設備の取扱いなど、現在30を超える種類の作業が対象です。
作業主任者の法的な役割は大きく2つです。
- 作業の直接指揮:該当作業に従事する労働者を直接指揮すること
- 設備点検と安全確認:作業前・作業中に設備や保護具の状態を確認すること
「作業主任者さえ選任しておけばよい」という誤解がありますが、選任しただけでは不十分です。作業主任者が実際に現場で指揮をとっていること、その指揮が労働者に届いていることが問われます。
外国人は作業主任者になれるか
ここがポイントなのですが、労安法には技能講習の受講資格として日本語能力を明示した規定はありません。国籍や在留資格を要件とする条文もない。つまり制度上は、外国人も技能講習を修了すれば作業主任者になれます。
ただし現実には、技能講習は日本語で実施されることがほとんどです。学科試験も日本語のため、日本語能力が十分でなければ合格は難しい。外国語対応の技能講習を実施している登録機関は一部に限られており、受講できる言語・地域は限定的です。
育成就労制度が2027年4月に本格施行されると、熟練した外国人労働者が増えてきます。将来的に「外国人の班長が作業主任者を兼任する」ケースも出てくるでしょう。その際は、当該外国人が対応言語の技能講習を受講・修了できるかを事前に確認することが大切です。
主要3業務の選任要件
有機溶剤作業主任者
有機溶剤中毒予防規則(以下、有機則)第19条は、有機溶剤等を使用する屋内作業場などで、有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者を作業主任者として選任することを義務づけています。
職務は「有機溶剤の蒸気発散源となる設備の密閉・局所排気装置の点検」「保護具の使用状況の監視」「作業の直接指揮」などです。外国人が多い塗装・金属洗浄工程では、作業主任者の指示が外国語で伝わらないと換気装置の操作ミスや保護具の未着用につながります。
酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者
酸素欠乏症等防止規則第11条は、酸欠危険場所での作業に酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習の修了者の選任を義務づけています。
酸欠事故は「無臭・無色だから安全」という誤解が命取りになります。外国人に「この空間に入るときはガス検知器を使って」という指示の意味が届いていないと、入場直後に倒れるリスクがあります。酸欠死亡事故の被災者には外国人労働者も含まれており、言語の壁は直接致命的なリスクになります。
足場の組立て等作業主任者
足場の組立て・解体・変更作業については、足場の組立て等作業主任者技能講習の修了者を選任する義務があります(労安法施行令第6条第15号)。
職務には「材料の欠点の有無を点検し不良品を取り除くこと」「器具・工具・安全帯等の機能を点検し不良品を除去すること」「作業の直接指揮」が含まれます。建設業で外国人が多い鳶・足場工事では、組立て手順の指示が伝わらなかったことによる崩落リスクが深刻です。
→ 体験デモを試す
作業主任者が日本語のみで指揮する場合のリスク
正直なところ、「選任義務は果たしている、でも外国人への指示はなんとかなっている」という現場が多いと感じます。しかし、これは**安全配慮義務(会社が従業員を危険から守る責任)**の面で大きなリスクを抱えています。
2024年7月に大阪地裁が下した判決では、外国人労働者がプレス機事故で被災したケースで、「日本語のみで実施された安全教育は形式的に存在していたが、被災者がその内容を理解できなかった」として、会社側の安全配慮義務違反が認定されました。教育記録があっても、理解が届いていなければ義務履行とはみなされない、という判断です。
作業主任者の指揮についても同じ論理が当てはまります。有機溶剤作業中に「換気装置を入れろ」「その扉を開けるな」という指示が伝わらなかった結果として事故が発生した場合、作業主任者を選任していただけでは会社の責任は免れません。
実務的解決策
1. 通訳者・バイリンガルリーダーの配置
最も確実な方法は、作業主任者の指揮を通訳できる人材を現場に配置することです。ベトナム語・中国語・インドネシア語などのバイリンガルリーダーが、作業主任者の指示を即時に翻訳する体制を整えます。
2. 多言語の作業指示書・ピクトグラム指示書
作業主任者が毎日口頭で伝える定型指示を、多言語の手順書とピクトグラムに落とし込んでおく方法です。「換気装置のスイッチを入れてから入室する」「保護手袋と防毒マスクを必ず着用する」といった指示を、母国語テキスト+イラストで一枚のカードにまとめます。
3. eラーニングによる事前理解の底上げ
作業主任者が個別に説明する前に、外国人労働者が自分の母国語で作業のリスクと手順を学んでいれば、現場指揮の通じ方が大きく変わります。有機溶剤・酸欠・高所作業のリスクを5言語で解説したeラーニングを活用すると、理解度の底上げが図れます。
選任義務違反の罰則
作業主任者を選任しなかった場合、労働安全衛生法第119条第1号により6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります(2025年6月1日の刑法等改正施行前は「懲役」)。これは事業者(会社)だけでなく、一定の場合に事業者を代表する役員も対象になります。
労働基準監督署の臨検時に選任記録の不備が発覚すると、是正勧告→再監督→送検という流れになり得ます。「書類の上では選任していたが実態がなかった」という状態も違反として扱われます。
なお、作業主任者の選任義務違反と、安全配慮義務違反による民事賠償は別建てです。罰則を受けなくても、労災事故で損害賠償訴訟になる可能性は残ります。
まとめ
作業主任者制度は、労安法第14条・施行令第6条が定める30を超える危険作業について、技能講習修了者の選任を義務づけた制度です。外国人が作業主任者に就くことは制度上は可能ですが、技能講習が日本語中心のため実態としてハードルがあります。
問題は、日本人の作業主任者が外国人チームを日本語だけで指揮する場合です。指示が届かないまま事故が起きれば、安全配慮義務違反として会社の責任が問われます。通訳者の配置・多言語手順書・eラーニングの組み合わせで、指示が「伝わる」現場をつくることが求められています。
よくある質問
Q. 外国人が有機溶剤作業主任者の資格を取るにはどうすればいいですか?
都道府県労働局に登録された技能講習機関で「有機溶剤作業主任者技能講習」を受講・修了する必要があります。受講資格に国籍の制限はありませんが、講習・試験が日本語で行われることが多いため、日本語能力(読み書き)がある程度必要です。外国語対応の機関については各都道府県の登録教習機関リストを確認してください。
Q. 作業主任者は同じ現場に何人必要ですか?
作業ごとに、その作業を直接指揮できる作業主任者を選任する必要があります。人数の規定は作業の種類によって異なりますが、「1人で複数の班を同時指揮できない」作業規模であれば実態に即した人数の選任が求められます。夜勤・交替制の現場では各シフトに対応できる人数を確保する必要があります。
Q. 作業主任者が日本語のみで指揮し外国人が理解できなかった場合、会社はどう問われますか?
「指揮した記録はある」だけでは不十分で、労働者が実際に内容を理解して作業していたかが問われます。2024年の大阪地裁判決(プレス機事故)のように、形式的な教育・指揮でも理解不足が事故につながった場合は安全配慮義務違反として民事賠償が認定されるリスクがあります。
Q. 特別教育と作業主任者の選任はどう違いますか?
特別教育(労安法第59条第3項)は「危険・有害な業務に従事する前に受けさせる教育」です。一方、作業主任者(労安法第14条)は「その作業全体を指揮・管理する責任者」の選任義務です。特別教育を受けた外国人が多くいたとしても、作業主任者の選任が不要になるわけではありません。両方が必要です。
Q. 足場作業主任者と足場の特別教育、どちらが先ですか?
足場の組立て等に従事する労働者全員に特別教育が必要です(安衛則第36条第39号)。作業主任者は、そのうち技能講習を修了した者が担います。まず全員に特別教育を実施し、そのうえで技能講習を修了した者を作業主任者として選任する、という順序になります。
関連ガイド
- 有機溶剤業務従事者安全衛生教育を外国人に外国語で実施する方法
- 酸素欠乏・硫化水素危険作業 特別教育を外国人労働者に外国語で実施する方法
- 足場の組立て等 特別教育を外国人労働者に多言語で実施する方法
- 安全衛生教育 完全ガイド|労働安全衛生法に基づく全教育の種類・義務・実施方法を体系整理
参考一次資料
- 労働安全衛生法 第14条・第119条:https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- 労働安全衛生法施行令 第6条(作業主任者を必要とする作業):https://laws.e-gov.go.jp/law/347CO0000000318
- 有機溶剤中毒予防規則 第19条:https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000036
- 酸素欠乏症等防止規則 第11条:https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000042
- 厚生労働省「作業主任者を選任すべき作業」一覧:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei06.html

