LabonaLabona
事故予防・ヒヤリハット·13 分で読了

チェーンソーによる伐木等特別教育を外国人労働者に外国語で実施する方法|安衛則第36条第8号【2026年版】

チェーンソーによる伐木等の業務(安衛則第36条第8号)の特別教育を外国人労働者に外国語で実施する方法を解説。2020年8月改正で学科9時間・実技9時間(計18時間)に拡充されたカリキュラム内容、かかり木処理の多言語対応方法、5言語教材の選定基準を整理します。

チェーンソーによる伐木等特別教育を外国人労働者に外国語で実施する方法|安衛則第36条第8号【2026年版】

林業・造園・建設業で外国人がチェーンソーを使った伐木作業をする際、「特別教育を外国語で実施しなければいけないのか」という疑問を持つ担当者が増えています。2020年8月に施行された改正でカリキュラムは学科9時間・実技9時間と大幅に増え、「かかり木処理」という最も危険な工程に関する科目も加わりました。本記事では、安衛則第36条第8号(チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育)の義務内容から、外国人労働者に外国語で実施するための実務まで体系的に整理します。

チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育とは

まず「何が義務か」を整理します。この土台を共有しておかないと、後のカリキュラム設計や多言語対応の話が宙に浮きます。

チェーンソーを用いた伐木・造材・かかり木処理等の業務に労働者を就かせる場合、事業者は労働安全衛生規則(以下「安衛則」)第36条第8号(危険・有害業務に従事する前に特別教育を行う義務の根拠条文)に基づき、特別教育を実施しなければなりません。

対象となる主な業務は次の3種類です。

  • チェーンソーを用いる立木の伐木
  • チェーンソーを用いるかかり木(伐倒後に他の木に引っかかって宙に浮いた木)の処理
  • チェーンソーを用いる造材(伐倒した木をあらかじめ定めた長さに切断する作業)

業種を問わず適用される点が実務上の盲点になりがちです。林業のほか、造園業・緑化工事・建設現場での支障木伐採・電気工事ルートの伐採作業も対象です。自社敷地内の樹木整備でチェーンソーを使う外国人作業員も同じルールが適用されます。

未受講の労働者を従事させた場合は、労働安全衛生法第119条(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)の対象です。元請の安全パトロールで未受講が発覚した場合、入場禁止・是正指示につながるケースも少なくありません。

Labona の安全教育 eラーニングを資料請求する

林業の労災死亡率と外国人労働者の現状

伐木作業の危険性を数字で確認しておきます。

林業の死傷年千人率(1,000人あたりの年間死傷者数)は、全産業の中で最も高い水準です。林野庁と林業・木材製造業労働災害防止協会の統計によれば、全産業平均の約10倍が続いています。死亡事故のうち約6割が伐木作業中に発生しており、かかり木処理が最多の事故類型です(出典: 林業・木材製造業労働災害防止協会「災害統計」)。

かかり木処理は、伐倒した木が他の立木に引っかかった状態を解除する作業です。どの方向に木が落ちるか読みにくく、突然倒れてくる危険があります。林業・木材製造業労働災害防止協会の事例研究では「退避方向の誤り」が死亡事故の主因とされています。

現場の方ならご存知のとおり、伐木作業ではエンジン音や距離のせいで声が届かない場面があります。日本語でのやり取りが苦手な外国人労働者には、視覚的な合図と母国語での事前理解が特に重要になります。

外国人労働者の林業への参入については、農林水産省所管の特定技能「農業」分野(耕種農業・畜産農業)に林業は含まれていませんが、一般社団法人林業技能向上センターが主管する林業分野特定技能制度の整備が進んでいます。また育成就労制度(2027年4月施行)では林業分野への適用が検討されており、今後は外国人がチェーンソーを扱う現場が増える見込みです。

2020年8月改正後の現行カリキュラム

改正の前後を知らないまま運用すると、旧カリキュラムのつもりで18時間分の根拠が足りなくなるケースがあります。

2020年8月1日施行の改正(平成31年厚生労働省令第11号)で、カリキュラムが大幅に変わりました。現行(安衛則第36条第8号)は学科9時間・実技9時間の計18時間です。改正前の大径木伐木(旧第36条第8号)は学科6時間・実技4時間の計10時間でしたから、8時間増加しています。

現行の学科9時間の内訳は次のとおりです。

  • 伐木に関する知識(3時間)— 作業計画の立て方、木の見方、安全な伐倒方向の判断
  • 伐木に係る装備および機械器具に関する知識(2時間)— チェーンソーの構造・点検・メンテナンス、下肢切創防護衣(チェーンソーの刃が脚に触れたとき怪我を防ぐ防護具)の選択と着用
  • 伐木に係る作業の方法に関する知識(3時間)— 受け口の切り方、追い口の位置、かかり木処理の手順と退避方向
  • 関係法令(1時間)— 安衛法・安衛則の該当条文

実技9時間は実際のチェーンソーを使った受け口・追い口の切り方と造材の確認で構成されます。

改正のポイントは3点です。①かかり木処理に特化した科目の追加、②造材の方法に関する科目の追加、③下肢切創防護衣に関する科目の追加です。事故が多い作業工程に教育時間を重点配分した内容になっています。

⚠️ 「2020年より前に受けた特別教育の証明書があれば大丈夫」は誤解です。旧カリキュラム修了者は補講が別途必要です(次のセクションで詳述)。

旧修了者への補講要件

外国人を新規雇用した際、過去の受講歴確認で混乱が起きやすい箇所です。

2020年8月1日以前に旧安衛則第36条第8号(大径木伐木)または旧第36条第8号の2(小径木伐木)の特別教育を修了した労働者は、厚生労働省基発0214第9号で示された補講制度を利用することで一部科目を省略できます。補講時間は修了している特別教育の種類によって異なります。

率直に申し上げると、改正から6年が経過した今、補講未受講のまま従事し続けている作業員は減っています。ただし外国人を新規雇用する場合、外国語で書かれた受講証明書の確認と翻訳確認という追加手間が発生します。

実務的な判断として、新規採用の外国人労働者には18時間の新カリキュラムをフルで受けさせるほうが証跡管理がシンプルです。補講要件の調査・翻訳・記録管理のコストを考えると、新規実施のほうが結果的に効率的なケースが多い。

体験デモを試す

「かかり木処理」を言語の壁を越えて伝える方法

実はこれが最も難しい課題です。技術的な危険を文字だけで伝えることの限界と向き合う必要があります。

かかり木処理は「木がどちらに倒れるか予測しながら切る」判断力が命です。ベトナム語・インドネシア語・中国語で「受け口の方向」「追い口の位置」「退避方向」を正確に伝えるには、テキストの翻訳だけでは限界があります。退避距離のルール(伐倒する木の長さの2倍以上の距離かつ安全な方向)も、数字と矢印で示す視覚的教材が必要です。

現場で機能した多言語対応として、次の3アプローチが報告されています。

アプローチ1: 写真・動画ベースの教育資材

退避方向を矢印で示す図解、かかり木の類型を写真で分類したシートを外国語キャプション付きで作成します。テキストが読めなくても「この状態のときはこちらへ退避」が視覚的に伝わります。実技の動画を5言語の音声付きで準備できれば最も効果的です。

アプローチ2: 実技中のチェックリスト対話

「受け口を切ったら何を確認するか」を、外国語版チェックリストに沿って作業員本人に声に出させます。正しい手順を自分の言葉で言える状態が「理解した」の最低ラインです。「言われた通りにできる」と「理解して判断できる」は違います。伐木現場では後者が生死を分けます。

アプローチ3: 合図・用語の多言語表記統一

現場での指示語(「止まれ」「退避」「OK」「確認」)を5言語で統一したポケットカードを全員が携帯します。エンジン音のある現場で声が届かないとき、カードを指さすだけで意思疎通できます。

外国人労働者が「大丈夫です」と言ってしまう問題は、伐木作業では特に深刻です。かかり木の状態を見て危ないと感じても、日本語でそれを伝えられず「大丈夫」と応答してしまう。事前に「分からないとき・危ないと感じたときの合図」を母国語で決めておくことが不可欠です。

5言語対応教材の選定基準

チェーンソー伐木特別教育の多言語教材は、他の業種向け特別教育と比べると供給が少ないのが現実です。

2026年7月時点で確認できる選択肢は次のとおりです。

日本語版テキスト+通訳同席

最も確実ですが、通訳費用(1日2〜4万円程度)が都度かかります。専門用語(「受け口」「追い口」「梢端(こずえのこと)」「かかり木」)を正確に訳せる通訳者は林業分野では希少で、探すのに時間がかかるケースが多い。

外国語版テキストを自社で調達・自作

中央労働災害防止協会(中災防)や林業・木材製造業労働災害防止協会(林材労防)が提供するガイドを参考に、自社で翻訳する方法です。翻訳の正確性確認と専門用語の品質管理が課題になります。

多言語eラーニングを活用したハイブリッド設計

現時点では林業特化の5言語対応コースは限られていますが、学科部分を多言語eラーニングで対応し、実技9時間を現場で実施するハイブリッド設計が現実的な選択肢です。2021年1月の厚労省通達(安全衛生教育のオンライン実施の容認)により、本人特定・理解度確認・3年保管の要件を満たせば学科のeラーニング実施が認められています(オンライン実施の要件詳細はこちら)。

教材選定で重視すべきポイントは3つです。

  • 専門用語の翻訳品質: 「受け口・追い口・かかり木・梢端」等の林業固有語が正確に翻訳されているか
  • 図解・映像の充実度: チェーンソー操作と退避行動は文字だけでは伝わらない
  • 理解度確認の機能: 学科終了後のテストが外国語で提供されているか(証跡として必要)

正直なところ、林業特化の完全5言語対応教材は現時点では市場に少ない状況です。当面は「外国語テキストの自社翻訳+日本語版教材を補助的に活用+実技は母語話者に近い職長が担当」という組み合わせが現実解になっているケースが多い。

特定技能・育成就労との接点

今後チェーンソー特別教育が増える場面を整理しておきます。

特定技能「農業」分野との関係

農業分野(耕種農業・畜産農業)には林業は含まれません。ただし農業現場でも圃場整備・農道整備・防風林管理などで支障木を伐採する作業が発生することがあります。このとき作業員がチェーンソーを使うなら、農業名目で採用した特定技能外国人にも特別教育が必要です。「農業の人だから林業の特別教育は不要」という誤解は散見されます。

育成就労制度(2027年4月施行)との関係

育成就労制度では受入対象分野が拡大される方向で検討が続いており、林業分野も対象となる可能性があります。そうなれば育成就労外国人がチェーンソーを扱う現場が増えます。受入企業には、雇入れ時の安全衛生教育(労安法第59条第1項)とチェーンソー特別教育(第59条第3項)の両方を計画的に準備することが求められます。

現場の方ならご存知のとおり、制度施行後に急いで教育体制を作ろうとしても、多言語教材の調達・通訳者の確保・実技指導体制の整備には時間がかかります。施行前に準備できるかどうかが、現場の安全水準を左右します。

無料で資料請求する

まとめ

チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育(安衛則第36条第8号)は、2020年8月改正後は学科9時間・実技9時間の計18時間が義務です。林業は全産業最高水準の死傷年千人率(全産業平均の約10倍)で、かかり木処理が最多の死亡事故類型です。

外国人労働者への実施では「日本語で受けさせた」という形式的な記録だけでは安全配慮義務上のリスクが残ります。退避方向・手順判断を本人が母国語で理解できる状態にすることが、事故防止と法的リスク低減の両方につながります。

多言語実施の選択肢は、通訳同席・外国語テキスト・多言語eラーニングのハイブリッドです。林業特化の5言語対応教材は現時点では少ないですが、視覚的教材と合図の統一、かかり木処理手順を母国語で確認させる実技設計が今できる現実的な対応です。育成就労制度の施行(2027年4月)に向けて、教育体制の整備を早めに着手することを勧めます。


よくある質問

Q. 2020年8月以前の旧カリキュラムで受講した労働者は再受講が必要ですか?

全て受け直す必要はありません。厚生労働省基発0214第9号で示された補講制度に基づき、旧カリキュラム修了者は一部科目を省略した補講の受講で対応できます。ただし補講を受けていない場合、2020年8月1日以降のチェーンソーを用いた伐木業務に就くことはできません。外国人労働者の場合は外国語の受講証明書も翻訳確認した上で記録を保管してください。

Q. 造園業・緑化工事でもこの特別教育は必要ですか?

必要です。「チェーンソーを使って立木を伐倒する業務」であれば業種を問いません。造園業や緑化工事での支障木伐採、建設現場の仮設工事に伴う伐採作業も対象です。「林業の作業ではないから」という理由で免除にはなりません。外国人作業員がチェーンソーを扱う場合は同じ義務が生じます。

Q. 外国語で学科を実施した場合、修了証を発行できますか?

発行できます。特別教育の修了証の言語要件について労働安全衛生法・施行規則に規定はありません。修了証には受講者氏名・実施日・科目・時間・実施者を記載し、3年間保管してください(安衛則第38条)。実施言語を記録に残すことで、監督署や元請への証跡として活用できます。

Q. チェーンソー特別教育の学科をeラーニングで実施できますか?

学科部分は可能です。2021年1月の厚生労働省通達(安全衛生教育のオンライン実施の容認)により、本人特定・理解度確認・3年保管の要件を満たせばeラーニングでの学科実施が認められています。実技9時間は対面での実機指導が必要です。多言語eラーニングで学科を各自受講させ、実技のみ現場で実施するハイブリッド設計が有効です。

Q. かかり木処理の退避距離を外国語で教えるには?

退避距離(伐倒する木の長さの2倍以上の距離かつ安全な方向)は、数字と矢印図を組み合わせた視覚的教材で伝えることが有効です。「2倍」という数字は言語が異なっても伝わりやすく、写真・動画で「この状態のときはここに立つ・ここには立たない」を具体的に示します。実技前に図解を全員で確認し、退避方向を指差しで確認させる手順を徹底することが基本です。

関連ガイド

参考一次資料

Labona の講座

この記事に関連する受講可能な講座

Labonaは5言語で安全衛生教育を提供しています。受講者1名から購入可能、修了証PDFも即発行。

この記事をシェア

Labona について

外国人労働者の安全教育を、5言語で。

ベトナム語・中国語・インドネシア語など5言語対応の安全衛生 eラーニング。受講記録の自動管理で、人事の手間を大幅に削減します。

関連性の高い記事