要約
- グラインダーの砥石(といし)を取り替える作業と、取替え時の試運転は、安衛則第36条第1号の特別教育の対象。自由研削用といしは学科4時間・実技2時間
- 削る作業だけの人は対象外だが、月に1回でも自分で砥石を換えるなら対象になる
- 厚生労働省の災害事例には、捨てられた砥石を拾って付けた例、150mm用の機械に205mmの砥石を付けた例がある。どちらも取替え後の試運転で破裂した
- 実技は「適合確認 → 外観検査 → 打音検査 → 取付け → 3分間以上の試運転」の順に、受講者自身の手で行わせる
砥石が減ったので、自分で換えて、回してみる。グラインダーを持つ作業者なら日常の動作ですが、この部分だけは特別教育を受けた人の業務です。外国人スタッフには「研磨はできるが、砥石の見分け方は教わっていない」ということが起こりがちで、取り付けてよい砥石かどうかの判断は、見た目だけではできません。
この記事では、対象になる作業の線引き、機械研削との違い、厚生労働省の災害事例、実技の組み立て方、砥石交換で使う言葉の5言語対訳を整理します。
砥石を換えて回すまでが対象——削るだけの人は対象外
安衛則第36条第1号の対象は「研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務」です。根拠は労働安全衛生法第59条第3項で、未実施のまま就かせると同法第119条第1号により6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象になり得ます。
現場の作業に置き換えると、次のように分かれます。
| 作業 | 特別教育 |
|---|---|
| グラインダーで削る・バリを取る(砥石は換えない) | 対象外 |
| 摩耗した砥石を外して、新しい砥石を取り付ける | 対象 |
| 取り替えたあとの試運転 | 対象 |
| 毎朝、作業を始める前の試運転(砥石は換えていない) | 取替え時ではないため第1号の業務には当たらない。ただし事業者の試運転義務はある |
条文に回数や頻度の条件はありません。「たまにしか換えない」「手が空いた人が換える」という運用でも、その人は対象です。研磨担当者の中で誰が砥石を換えているかを確認すると、未受講の人が見つかることがあります。
研削といしには、特別教育とは別に、事業者が守る規則が安衛則に定められています。教育の中で必ず触れる4つです。
- 第117条:回転中の研削といしが労働者に危険を及ぼすおそれがあるときは覆いを設ける(直径50ミリメートル未満を除く)
- 第118条:その日の作業を開始する前には1分間以上、取り替えたときには3分間以上試運転をする
- 第119条:最高使用周速度をこえて使用しない
- 第120条:側面を使用することを目的とする研削といし以外は、側面を使用しない
自由研削と機械研削はどう分かれるか
根拠条文はどちらも第36条第1号ですが、安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)では教育が分かれています。
| 自由研削用といし | 機械研削用といし | |
|---|---|---|
| 規程 | 第2条 | 第1条 |
| 学科 | 4時間 | 7時間 |
| 実技 | 2時間以上 | 3時間以上 |
| 一般的な機械の例 | ディスクグラインダーなどの手持ちの研削工具 | 平面研削盤などの据え置きの研削盤 |
規程の本文は、どの機械がどちらに当たるかを機種名で定めていません。民間の教育機関は、工具か材料のどちらかが固定されていないものを自由研削、主に据え置き型で材料も設備も固定されているものを機械研削と説明しています。卓上グラインダーや切断機など判断に迷う機械は、受講先や所轄の労働基準監督署に確認するのが確実です。
片方を修了していても、もう片方の業務が済んだことにはなりません。機械研削は学科の範囲に研削液が入り、自由研削より学科が3時間長いなど、内容が別に組まれています。両方の機械を扱う現場では、それぞれの教育が必要になります。
拾った砥石で破裂——厚労省の災害事例
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の労働災害事例から3件を紹介します。3件とも、取替えに関わる確認の抜けが原因になっています。
事例1:床に落ちていた廃棄砥石を取り付けた
鋳物部品を製造する事業場で、空気グラインダーでバリ取りをしていた作業者の事例です(休業1人)。砥石が摩耗して交換する際、廃棄物容器の周辺の床に別の砥石が落ちているのを見つけ、まだ使えると判断して取り付けました。試運転中にその砥石が破裂して被災しています。
砥石は別の作業者が以前に捨てたもので、容器に蓋はなく、廃棄品の表示もありませんでした。覆いには約240度の開口部がありました。作業者は特別教育を受けていませんでした(出典:No.101178)。
事例2:150mm用のグラインダーに205mmの砥石を付けた
ステンレス鋳物のバリ取りで、作業がしにくいため大きな砥石に替えていた事例です(休業1人)。試運転を始めて1分ほどでガタつきが出てスイッチを切った瞬間に破裂し、3つに割れました。破片が衝立で跳ね返り、約2メートル離れて作業していた別の作業者の顔面に当たっています。
このグラインダーの無負荷回転数は6,300rpm、砥石の最高使用周速度は毎秒50メートルでした。直径205mmでは周速度が毎秒67.6メートルになり、大きく超えていました。覆いは150mm用だったため付けておらず、フランジも150mm用のままでした。取り替えた作業者は特別教育を修了していませんでした(出典:No.101246)。
砥石の大きさは使いやすさの問題に見えますが、回転数が同じなら直径が大きいほど周速度は上がります。数字で説明すると、言語が違っても伝わります。
事例3:修了者でも、覆いを開けて締付けが不均一だと破裂した
据え置きのCNC円筒研削盤の事例です(不休1人)。新しい砥石で5分間の試運転を済ませたあと、形を整える作業の最中に砥石が破裂しました。フランジと砥石の間に金属片が挟まっていたこと、作業標準で定められたトルクレンチを使わず六角レンチとハンマーで締めていたことが原因と推定されています。当たりを見るために覆いを開けていたので、破片が作業者に当たりました。この作業者は特別教育を修了していました(出典:No.101102)。
機械研削の例ですが、自由研削でも教える点は同じです。試運転で異常がなくても、取付け面の異物と締付けのむらは後から破裂につながることがあります。
学科4時間・実技2時間の科目
規程第2条が定める科目と最低時間は次のとおりです。
| 区分 | 科目 | 時間 |
|---|---|---|
| 学科 | 自由研削用研削盤、自由研削用といし、取付け具等に関する知識 | 2時間 |
| 学科 | 自由研削用といしの取付け方法及び試運転の方法に関する知識 | 1時間 |
| 学科 | 関係法令 | 1時間 |
| 実技 | 自由研削用といしの取付け方法及び試運転の方法 | 2時間以上 |
学科2科目目の範囲は「研削盤と研削といしとの適合確認」「外観検査及び打音検査」「取付け具の締付け方法及び締付け力」「バランスの取り方」「試運転の方法」です。この5項目が、そのまま実技の骨組みになります。
実技2時間の進め方——適合確認から3分間の試運転まで
規程が定めるのは実技の内容と時間で、順序は事業者が組み立てます。上の5項目と安衛則に沿うと、次の流れが自然です。指導役は、砥石交換の経験が十分な社内の担当者を事業者が選びます。
- 砥石の取扱いを確認する:厚生労働省の外国人向け教材は、といし取扱いの三原則を「ころがすな、落とすな、ぶつけるな」としています。保管場所から砥石を運ぶところから見せます
- 適合を確かめる:砥石の表示で最高使用周速度と寸法を読み、機械の回転数と使える砥石の寸法に合っているかを、受講者自身に判定させます。事例2の数字を使い、実機とは別の砥石で「付けてはいけない」判定も練習します
- 外観検査と打音検査:ひび、割れ、欠け、傷を目で確かめたあと、軽くたたいて音を確かめます。正常な音と異常な音の両方を聞かせると、言葉の説明に頼らずに伝えられます
- 取り付ける:フランジと砥石の間に異物がないかを確かめ、機械の取扱説明書で決められた工具と方法で締めます。覆いが砥石に合っているかも確かめます
- 試運転をする:始動前に、破裂したときに破片が飛ぶ方向に人がいないことを確かめます。空運転を3分間以上行い、振動と異常音を見ます。異常があれば止めて、上司に報告します
- 報告まで通す:取り外した砥石は廃棄の表示をして、蓋付きの容器に入れます。事例1と同じ状況を作らないための手順です
最後に、受講者が1人で2〜5の手順を母語で説明しながら通して行えれば、実技の確認になります。「わかりましたか」への返事ではなく、手順の再現で判断してください。
砥石交換で使う言葉の5言語対訳
現場で頻繁に使う語をまとめました。
| 日本語 | 英語 | ベトナム語 | 中国語 | インドネシア語 |
|---|---|---|---|---|
| 研削といし(砥石) | grinding wheel | đá mài | 砂轮 | batu gerinda |
| グラインダー | grinder | máy mài | 砂轮机 | mesin gerinda |
| 覆い | wheel guard | nắp che đá mài | 砂轮防护罩 | penutup batu gerinda |
| フランジ | flange | mặt bích | 法兰 | flensa |
| 最高使用周速度 | maximum operating speed | tốc độ vòng tối đa | 最高工作线速度 | kecepatan keliling maksimum |
| 外観検査 | visual inspection | kiểm tra ngoại quan | 外观检查 | pemeriksaan visual |
| 打音検査 | ring test | kiểm tra bằng âm gõ | 敲击听音检查 | uji ketuk |
| 試運転 | test run | chạy thử | 试运转 | uji coba |
| 保護めがね | safety glasses | kính bảo hộ | 防护眼镜 | kacamata pelindung |
| 防じんマスク | dust mask | khẩu trang chống bụi | 防尘口罩 | masker debu |
参考訳です。現場で使う呼び方に合わせてください。
現場では「砥石」「ディスク」「トイシ」など呼び方が混ざります。受講者が読む表示ラベルも、実際の製品で見せておくと確実です。
外国語で実施するときに押さえること
法令に「日本語で実施する」という規定はなく、外国語の教材や通訳を使って実施できます。厚生労働省の指針も、母国語や視聴覚教材を使うなど、理解できる方法で教育を行うよう求めています。教材の選び方と比較はまとめ記事に委ね、ここでは繰り返しません。
Labona では自由研削といし特別教育(学科)を受注制作で対応しています(日本語版は通常5営業日で受講開始・5言語対応)。実技と修了認定は事業者側で行う前提です → 自由研削といし特別教育(講座ページ)
→ 体験デモを試す
よくある質問
Q. グラインダーで削る作業だけの人にも特別教育は必要ですか?
砥石の取替えと取替え時の試運転を行わないなら、第36条第1号の対象外です。ただし、作業の中で砥石も換えるなら対象になります。砥石が減ったときに誰が換えるかを、配置の前に決めておいてください。
Q. 毎朝の1分間の試運転にも特別教育が必要ですか?
第36条第1号の対象は「取替え時の試運転」なので、砥石を換えていない日の始業時の試運転は対象に含まれません。一方で、第118条の「その日の作業を開始する前には一分間以上」の試運転は事業者の義務として別にあります。実施する人には、振動と異常音の確認方法を教えてください。
Q. 砥石交換は月に1回だけです。それでも6時間の教育が要りますか?
必要です。条文に回数や頻度の条件はなく、規程の時間数も短縮されません。ただし、科目の全部または一部について十分な知識と技能を有していると認められる労働者には、安衛則第37条で科目を省略できます。本国での経験を理由に省略するときは、何を確認して判断したかを記録しておくことをお勧めします。
Q. 機械研削の特別教育を修了していれば、自由研削の教育は要りませんか?
別の教育として考えてください。規程は機械研削を第1条、自由研削を第2条に分け、科目も別に定めています。手持ちのグラインダーの砥石も換えるなら、自由研削の教育が必要です。
Q. 派遣で来た外国人に砥石交換をさせる場合、教育の義務は派遣元ですか派遣先ですか?
特別教育は派遣先が行います(労働者派遣法第45条)。すでに修了している場合も、修了記録と、実際に扱うグラインダーの種類が合っているかを派遣先で確認してください。
関連ガイド
参考一次資料
- 労働安全衛生規則 第36条・第37条・第117条〜第120条(e-Gov 法令検索)
- 労働安全衛生法 第59条・第119条(e-Gov 法令検索)
- 安全衛生特別教育規程 第1条・第2条(厚生労働省法令等データベース)
- 研削盤等構造規格(厚生労働省法令等データベース)
- 労働災害事例 No.101178 携帯用グラインダーのといしを交換後、試運転中にといしが割れて被災(職場のあんぜんサイト)
- 労働災害事例 No.101246 可搬式グラインダーに規格外のと石を取付けて試運転をしていたとき、と石が破裂(職場のあんぜんサイト)
- 労働災害事例 No.101102 研削砥石が破裂して負傷(職場のあんぜんサイト)
- 研削といし(ディスクグラインダ)外国人労働者向け安全衛生教育教材(厚生労働省)
- 外国人労働者の安全衛生管理(厚生労働省)
- 自由研削といし特別教育の解説(一般財団法人 中小建設業特別教育協会・民間資料)
