溶接部の内部欠陥や鋳造品の空洞を見つけるために、工業用エックス線装置を職場で使っている現場は製造業・建設業・インフラ管理を中心に幅広くあります。そこへ外国人労働者が配置されたとき、担当者が頭を悩ませる問いが二つ重なります。「どの法律に基づく特別教育が必要なのか」、そして「本人が理解できる言語で教育できているか」。
先に結論を書いておきます。非破壊検査のうち特別教育が義務づけられているのはエックス線装置・ガンマ線照射装置を取り扱う業務だけで、超音波探傷などは対象外です。そしてその対象業務は、令和8年4月1日の改正で「透過写真撮影業務」から「装置を取り扱う業務全体」へ大幅に拡大しました。この記事では、射程の線引き・法令の根拠・カリキュラム・外国語実施の実務を順に整理します。
「非破壊検査の特別教育」という区分は法令上ない
最初にはっきりさせておきたいことがあります。労働安全衛生法令に「非破壊検査の特別教育」という業務区分は存在しません。
特別教育が必要な業務は労働安全衛生規則(以下、安衛則)第36条に号ごとに列挙されていますが、非破壊検査(NDT)のうちこの列挙に入っているのは、第28号「エックス線装置又はガンマ線照射装置を取り扱う業務」だけです。つまり放射線を使う検査(RT)だけが特別教育の対象で、そのカリキュラムを電離放射線障害防止規則(以下、電離則)第52条の5と、これに基づく告示が定めています。
裏を返せば、超音波探傷(UT)・磁粉探傷(MT)・浸透探傷(PT)・渦流探傷(ET)は、安衛則第36条のどの号にも定めがなく、特別教育の対象ではありません。これらの手法には、業界団体の資格認証(JIS Z 2305に基づくNDT技術者認証など)はありますが、法令上の特別教育義務とは別のものです。自社の検査部門をまとめて「非破壊検査の特別教育」と括ってしまうと、必要な人に教育が届かず、不要な人に受講を強いることになります。
以下はすべて、安衛則第36条第28号・電離則第52条の5の対象業務、つまりエックス線装置・ガンマ線照射装置を取り扱う業務についての解説です。
令和8年4月施行——電離則第52条の5で対象業務が大幅拡大
令和8年(2026年)4月1日、安衛則と電離則の改正が施行され、エックス線装置・ガンマ線照射装置に関する特別教育の義務範囲がこれまでより大きく広がりました。改正の核心を一言で言えば「これまで対象外だった装置オペレーター・補助者が新たに対象に加わった」ということです。
改正前(〜令和8年3月31日) 安衛則第36条第28号は「エックス線装置又はガンマ線照射装置を用いて行う透過写真の撮影の業務」と書かれており、対象は撮影業務に限られていました。撮影を行う担当者のみが受講義務を負い、装置の設置補助や試験片のセットを行う者は対象外とされてきました。
改正後(令和8年4月1日〜) 安衛則第36条第28号が「エックス線装置又はガンマ線照射装置を取り扱う業務」へ改められ(令和7年厚生労働省令第108号)、電離則第52条の5もこれに合わせて改正されました。撮影担当者だけでなく、装置のセッティング・位置調整・コントロール操作など、線源や装置に関わる幅広い作業が対象に含まれます。
特別教育を未実施のまま業務に就かせた場合、労働安全衛生法第59条第3項違反として、同法第119条第1号(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)の対象となります。改正を機に、装置に触れる人の受講状況を必ず確認してください。
どの業務が対象か——対象業務と除外されるボックス型装置
改正後の対象範囲を正確に把握しておかないと、必要な教育を見落としたり、逆に不要な受講を強いたりする事態が起きます。
対象となるのは、エックス線装置またはガンマ線照射装置を「取り扱う業務」に就く労働者です。溶接部の透過撮影・配管検査・鋳造品内部の確認作業、および装置の設置・調整・補助作業がこれに含まれます。繰り返しになりますが、同じ検査部門にいても超音波探傷・磁粉探傷・浸透探傷・渦流探傷しか担当しない人は、安衛則第36条第28号の対象ではありません。
そのうえで、条文に一つ明確な除外規定が置かれています。装置の内部にのみ管理区域が存在し、かつ、エックス線又はガンマ線の照射中に労働者の身体の全部又は一部が当該装置の内部に入ることのないように遮へいされた構造の装置(いわゆるボックス型装置)を使用する業務は対象外です。工場の品質管理ラインで使われる閉鎖型のX線検査装置(外側から操作・観察するもの)は、この除外規定に当たる場合があります。自社の装置が該当するかどうかは、装置メーカーの仕様書と管理区域の設定状況で確認してください。
旧「透過写真撮影業務」の修了者をどう扱うか
令和8年4月1日より前に旧「透過写真撮影業務特別教育規程」に基づく特別教育を修了している労働者については、改正告示(令和7年厚生労働省告示第287号)の附則に経過措置が置かれています。ただし適用範囲は限定的です。旧修了者を「エックス線装置又はガンマ線照射装置を用いて行う透過写真の撮影の業務」(改正前の安衛則第36条第28号の業務)に就かせる場合に限って、改めての特別教育が不要とされています。
裏を返せば、今回の改正で新たに対象に加わった業務——撮影を伴わない装置の取扱い、設置・位置調整・コントロール操作など——に旧修了者を就かせるときは、改正後の規程による特別教育が必要です。「昔受けているから全員そのままで大丈夫」という整理は、未受講者を生みます。誰がどの作業に就くのかを作業単位で棚卸ししてください。
学科4時間30分のカリキュラム——特別教育規程の科目構成
科目と時間を定めているのは「エックス線装置及びガンマ線照射装置取扱業務特別教育規程」(昭和50年6月26日労働省告示第50号。令和7年10月29日厚生労働省告示第287号で旧「透過写真撮影業務特別教育規程」から改称・改正され、令和8年4月1日から適用)です。学科教育の科目と時間は次のとおりです。
- エックス線装置又はガンマ線照射装置を取り扱う業務に係る作業の方法に関する知識(1時間30分)── 作業の手順、電離放射線の測定、被ばく防止の方法、事故時の措置
- エックス線装置又はガンマ線照射装置の構造及び取扱いの方法に関する知識(1時間30分)── 取り扱う装置の種別ごとに範囲が分かれます。エックス線装置を取り扱う者はエックス線装置の原理・エックス線管・高電圧発生器・制御器の構造及び機能・操作及び点検、ガンマ線照射装置を取り扱う者は装置の種類及び型式・線源容器の構造及び機能・遠隔操作装置・放射線源の構造・操作及び点検
- 電離放射線の生体に与える影響(30分)── 電離放射線の種類及び性質、細胞・組織・器官・全身に与える影響
- 関係法令(1時間)
ここが実務でいちばん誤解されやすいところです。二つ目の「構造及び取扱いの方法に関する知識」は、取り扱う装置の分だけ受ければよい科目です。
エックス線装置だけを取り扱う人は、構造の科目もエックス線装置の分だけでよく、学科の合計は4時間30分になります。一方、エックス線装置とガンマ線照射装置の両方を取り扱う人は、構造の科目を装置ごとに1時間30分ずつ、合わせて3時間受ける必要があります。この場合、学科は基本の4時間30分より1時間30分長くなる計算です。自社の作業者がどちらの装置に触れるのかを先に整理してから、受講時間を見積もってください。
なお、この特別教育は学科のみで、規程に実技教育の定めはありません。ただし、実際の装置操作習熟については事業者の責任においてOJT(職場内訓練)等で補うことが安全配慮義務の観点から求められます。
教育記録は安衛則第38条(特別教育の記録保存)に基づき3年間の保管義務があります。実施日・科目・時間・受講者氏名を書面に記録して、監督署への提示に備えてください。
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「見えない放射線」の危険——外国人労働者への伝え方の難しさ
放射線被ばくの特性として「その場で体に変化を感じない」という点があります。大量の放射線を短時間に浴びれば急性障害が出ますが、工業現場の管理下で起きるのは、自覚症状のない少量の被ばくです。それが積み重なると、数年後・数十年後にがんリスクとして現れることがある——この時間差が最大の教育課題です。
外国人労働者に「見えない・感じない危険」を理解させることは、日本人に教えるとき以上の工夫が求められます。
誤解のパターンとして多いのは次の二つです。一つは「装置から離れているから大丈夫」という距離感の誤解。X線は装置から一定距離を置けば安全ですが、その安全距離は計算と測定によって決まるものであり、感覚では判断できません。もう一つは「医療のレントゲンと同じ」という認識です。工業用X線装置は医療用と比べて出力が高いことが多く、照射時間・線量管理の運用が全く異なります。「病院でよくやっているから安全」という感覚で接近するリスクを放置してはなりません。
外国人への教育では、「なぜルールを守るのか」という理由を言語で説明することが不可欠です。「立入禁止」の表示を貼るだけでは不十分で、「この表示は放射線が出ている間に入ると体の中でがん細胞が増えるリスクがある」という意味まで、本人の母国語で説明する必要があります。
管理区域の立入禁止表示と多言語化
電離則第3条は、外部放射線による実効線量と空気中の放射性物質による実効線量との合計が3月間につき1.3mSvを超えるおそれのある区域(このほか、放射性物質の表面密度が基準を超えるおそれのある区域)を「管理区域」(平たく言えば「放射線の影響を管理すべき区域」)と定め、必要のある者以外を立ち入らせてはならないと義務付けています。
管理区域の入口には、放射線を示す三葉マーク(トリフォイル)が表示されることが多いですが、このマークが何を意味するか外国人は知らないことがあります。特に放射線管理の概念が普及していない国出身の外国人の場合、「何かの機械マーク」として見過ごす危険があります。
実務的な対応として有効なのは、三葉マークに加えて次の多言語テキストを貼り付けることです。
立入禁止(日本語)/ No Entry(英語)/ Cấm vào(ベトナム語)/ 禁止入内(中国語)/ Dilarang masuk(インドネシア語)
さらに、「X線照射中」のランプが点灯している間は絶対に入らないこと、そして個人線量計(ドシメーター/線量を測る小型の器具)は必ず装着することを、入国前教育・雇入れ時教育・OJTの各段階で繰り返し説明します。
外国語で実施する根拠と5言語対応の選択肢
労働安全衛生法に「特別教育は日本語で実施しなければならない」という規定はありません。事業者が安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たすためには、教育内容を「対象労働者が理解できる言語で伝える」ことが必要です。外国語版教材・多言語eラーニング・通訳同席——いずれも法令上の実施方法として認められています。
選択肢は実情に合わせて選んでください。
自社翻訳は、専門用語(実効線量・管理区域・遮へい・試験体)の正確な訳語を維持するのが難しく、翻訳品質のチェック体制がないと教育効果より誤訳リスクが高まります。非破壊検査の技術用語は一般的な翻訳者では扱いにくい領域です。
外部の専門翻訳業者や通訳を活用する場合、放射線・非破壊検査の専門知識を持つ通訳者の確保が課題になります。医療通訳は非破壊検査には不向きです。
多言語eラーニングは、教材品質と言語対応状況を選定基準にしてください。令和8年4月1日から適用された改正後の規程(作業の方法1時間30分・構造及び取扱い1時間30分・生体影響30分・関係法令1時間)に対応しているか、ガンマ線照射装置を扱うなら装置別の構造科目が用意されているかを必ず確認します。旧「透過写真撮影業務特別教育規程」のままの古い教材では、改正後の法定要件を満たせません。
Labona ではエックス線装置及びガンマ線照射装置取扱業務の特別教育(学科)を受注制作で対応しています(日本語版は通常5営業日で受講開始・5言語対応) → 透過写真撮影業務(エックス線等)特別教育(講座ページ)
また、ガンマ線照射装置でRI(放射性同位元素)を使うNDT(Ir-192やCo-60による透過検査)の場合は、電離則の特別教育に加えて、**放射性同位元素等の規制に関する法律(旧 放射線障害防止法)**に基づく使用者・取扱者の要件も発生します。これは労安法とは別の規制体系のため、担当省庁(原子力規制委員会)の要件も並行して確認してください。
まとめ
非破壊検査のうち特別教育が義務づけられているのは、安衛則第36条第28号・電離則第52条の5が定めるエックス線装置・ガンマ線照射装置の取扱業務だけです。超音波探傷・磁粉探傷・浸透探傷・渦流探傷は対象外なので、検査部門をまとめて括らず、装置に触れる人を特定するところから始めてください。
その対象業務は、令和8年4月1日施行の改正で「透過写真撮影業務」から「装置を取り扱う業務全体」へと拡大しました。学科の時間は、片方の装置だけを扱うなら4時間30分。エックス線装置とガンマ線照射装置の両方を扱うなら、構造の科目が装置ごとに必要になり、その分だけ長くなります。記録は安衛則第38条に基づき3年間保管します。
旧「透過写真撮影業務特別教育規程」の修了者について再受講が不要とされるのは、改正前の撮影業務に就かせる場合に限られます。撮影以外の取扱い作業に回す場合は、改正後の規程による特別教育が必要です。外国人労働者が配置されている場合は、「見えない放射線」の危険性と管理区域のルールを母国語で説明することが、安全配慮義務の履行上不可欠です。
よくある質問
Q. 特別教育を受けていない外国人を、X線装置のある部屋に立ち入らせてもよいですか?
管理区域への立入りは、電離則によって必要のない者を禁止することが義務付けられています。特別教育未受講の労働者を装置取扱業務に就かせることは電離則第52条の5違反となります。業務に関係のない立入りと、業務としての取扱いは区別して管理してください。
Q. 令和8年4月前に透過写真撮影業務の特別教育を修了した人は再受講が必要ですか?
「透過写真の撮影の業務」に就かせ続けるだけであれば不要です。改正告示(令和7年厚生労働省告示第287号)の附則が、旧「透過写真撮影業務特別教育規程」による特別の教育を受けた者を改正前の安衛則第36条第28号の撮影業務に就かせる場合について、改正後の規程による特別の教育を要しないとしています。
ただしこれは撮影業務に限った経過措置です。改正で新たに対象となった業務(撮影を伴わない装置の取扱い、設置・位置調整・コントロール操作など)や、これまで扱っていなかったガンマ線照射装置の取扱業務に就かせる場合は、改正後の規程に基づく特別教育が必要になります。判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署に確認してください。
Q. ガンマ線(Ir-192)によるNDTと、電気式X線装置によるNDTでは法律の適用が異なりますか?
異なります。電気式X線装置(電力で放射線を発生させる装置)は電離則のみが対象法令です。一方、Ir-192やCo-60などのRI(放射性同位元素)を使ったガンマ線NDTは、電離則に加えて「放射性同位元素等の規制に関する法律」(原子力規制委員会所管)も適用されます。使用する線源の種類によって、必要な手続きや教育要件が変わります。
Q. 特別教育の記録はどのように保管すればよいですか?
電離則第52条の5の特別教育も、安衛則第38条(特別教育の記録保存)が適用されます。実施日・科目・時間・受講者氏名を記録した書面を3年間保管してください。外国人労働者の場合、氏名のローマ字表記または在留カードと一致する氏名で記録するとよいでしょう。元請への提出が求められる現場では、あらかじめ電子データでの保存と共有方法を整備しておくと対応が早くなります。
関連ガイド
参考一次資料
- 労働安全衛生規則(e-Gov 法令検索) — 第36条第28号(対象業務と除外装置)、第37条(科目の省略)、第38条(記録の3年保存)
- 電離放射線障害防止規則(e-Gov 法令検索) — 第3条(管理区域)、第52条の5(特別の教育)
- 労働安全衛生法(e-Gov 法令検索) — 第59条第3項、第119条第1号(罰則)
- エックス線装置及びガンマ線照射装置取扱業務特別教育規程(厚生労働省 法令等データベース) — 昭和50年6月26日労働省告示第50号/令和7年10月29日厚生労働省告示第287号による改称・改正(令和8年4月1日適用)と、その附則の経過措置
- 厚生労働省「令和8年4月1日施行 電離則第52条の5、特別教育規程 特別教育の実施対象業務の拡大」
- 厚生労働省「電離放射線障害防止規則等の改正について 安全対策の強化と特別教育の拡充」



