「技能実習生と特定技能の外国人が混在しているとき、安全教育はどちらに合わせればいいのか」。こんな質問を人事担当者からよく受けます。答えは「在留資格によって安全衛生教育の基本義務は変わらない、ただし追加で必要な対応が異なる」です。この記事では主要5区分(技能実習・育成就労・特定技能1号・2号・留学生アルバイト)を並べて、共通する義務と各区分固有の論点を整理します。2026年現在の移行期に対応した実務メモとして使ってください。
在留資格に関わらず共通:労安法第59条の義務
まずここを押さえれば、最重要ポイントはクリアです。
労働安全衛生法(以下「労安法」)第59条は、労働者の国籍・在留資格を問わず全員に適用されます。「外国人だから免除される」という規定は存在しません。構造は3層です。
第59条第1項(雇入れ時教育): 新しい労働者を雇い入れたとき、担当業務に関する安全衛生教育を実施する義務。未実施の場合は第120条第1号(50万円以下の罰金)の対象となります。
第59条第2項(作業内容変更時教育): 作業内容を変更した労働者にも第1項を準用して同様の教育が必要で、罰則も同じく第120条第1号(50万円以下の罰金)です。配置転換や職種変更のたびに対象になります。
第59条第3項(特別教育): フォークリフト・高所作業・溶接など危険・有害業務に就かせるときは特別教育が必須(対象業務は安衛則第36条に号ごとに列挙されています)。違反は第119条第1号(6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)。
特別教育の記録は安衛則第38条で3年間の保存義務があります。雇入れ時教育には明文の保存年限規定はありませんが、実務上は同様に3年以上の保管が推奨されています。
在留資格別に異なるのはこの「共通義務に加えて何があるか」の部分です。
在留資格別の特徴と安全衛生教育の追加論点
技能実習(2027年3月末まで・在留中は経過措置で継続)
技能実習制度(正式名称: 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律に基づく制度)では、受入企業は技能実習計画に安全衛生に関する事項を盛り込む必要があります。
育成就労の施行日(2027年4月1日)時点ですでに来日している技能実習生は、引き続き認定計画に基づいて技能実習を続けられます(出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」)。つまり2027年4月をもって技能実習生が職場から一斉にいなくなるわけではなく、しばらくは両制度が並存します。
監理団体が入国前・入国直後の安全衛生の基礎教育を担いますが、これは労安法上の雇入れ時教育の代替ではありません。受入企業が労安法第59条第1項に基づく雇入れ時教育を別途実施し、記録を保存する義務が生じます。
育成就労(2027年4月施行)
技能実習に代わる新制度で、「特定技能への移行」を目標に据えた育成の在留資格です。
監理支援機関(技能実習の監理団体に相当)が支援計画を策定し、安全衛生教育のサポートを担います。技能実習と違って本人の意向による転籍が制度上認められるため、転籍時の教育記録の引き継ぎが実務上の新課題です。受入企業はどの教育を監理支援機関が担い、どの教育を自社が実施するかを入職前に明文化しておく必要があります。
特定技能1号
一定の技能・日本語力を備えた外国人が対象。受入企業が「1号特定技能外国人支援計画(以下「支援計画」)」を策定する義務を負い、その実施は登録支援機関に委託することもできます。
支援計画には「生活オリエンテーション」の実施が含まれており、労働条件・安全確保に関する情報提供が行われます。ただし、この生活オリエンテーションと労安法上の雇入れ時教育は法的根拠が異なる別々の義務です(後述)。
特定技能2号
特定技能1号より高度な技能を持つ外国人。支援計画の策定は不要で、登録支援機関への委託も義務ではありません。
支援計画がないぶん追加の外部支援は少なくなりますが、労安法の義務は1号と同等です。「熟練者だから安全教育は不要」という判断は誤りで、職場ごとの機械・設備・緊急時手順は改めて説明する必要があります。
留学生アルバイト(資格外活動)
留学生の資格外活動許可(原則週28時間以内)で就労する場合、「アルバイトだから」という理由で教育義務が免除されることはありません。雇入れ時教育・特別教育ともに全面適用です。
令和7年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人でした(厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」令和8年1月30日公表)。在留資格別では技能実習が49万9,394人(19.4%)、特定技能が28万6,225人、留学生のアルバイトを含む資格外活動が44万9,324人(17.5%)です。留学生も大きな割合を占めており、「どの区分にも共通する義務がある」という認識は今後ますます重要になります。
技能実習→育成就労 移行期(2026〜2027年)の混乱防止
2026年現在は、2027年4月1日の育成就労施行に向けた準備期にあたります。技能実習生が育成就労に切り替わる際、あるいは転籍(育成就労では本人の意向による転籍が認められますが、転籍制限期間は分野ごとに1年から2年の間で定められます)の際に、安全衛生教育の記録が宙に浮くことが懸念されています。
転籍時に「技能実習時代の記録があるからそのままでよい」と判断して、転籍先での雇入れ時教育を省略してしまうことは、法的に問題があります。労安法第59条第1項の義務は「事業者が新たに雇い入れたとき」に発生するものであり、過去の記録は別の事業者での記録です。転籍先での新規の雇入れ時教育が必要です。
移行期の混乱を防ぐために確認すべき点を整理すると、次のようになります。
- 制度移行(技能実習→育成就労)のタイミングで、雇入れ時教育を実施済みかどうか改めて確認する
- 転籍が発生した場合は、転籍先での雇入れ時教育を新規に実施し記録を作成する
- 監理団体・監理支援機関が実施した研修の記録と、自社が実施した労安法上の教育記録を明確に区別して保管する
この3点は、制度移行期に特に見落としやすい論点です。技能実習から育成就労への切り替えにあたって、自社の教育記録を今一度確認することをおすすめします。
「支援計画」と「雇入れ時教育」を混同しない
特定技能1号の受入企業で最も多い誤解の一つが、支援計画の生活オリエンテーションで雇入れ時教育を済んだと思い込むことです。
二つの義務を並べると、違いが明確です。
支援計画(生活オリエンテーション)
- 根拠: 出入国管理及び難民認定法(入管法)・特定技能制度
- 目的: 日常生活・職業生活の支援
- 実施タイミング: 入国後・転職時
- 主体: 受入企業または登録支援機関
雇入れ時教育(労安法第59条第1項)
- 根拠: 労働安全衛生法
- 目的: 担当業務に関する安全衛生教育
- 実施タイミング: 雇入れ時・作業内容変更時
- 主体: 事業者(受入企業)
支援計画では安全確保に関する情報提供が含まれますが、それは担当業務ごとの危険・有害要因の説明(労安法上の雇入れ時教育の中心)とは内容が異なります。労働基準監督署は労安法上の教育記録を、地方出入国在留管理局は支援計画の実施状況を、それぞれ別の観点から確認します。どちらの記録も別々に整備しておいてください。
留学生アルバイトの安全衛生教育
週28時間という就労時間制限ばかりが注目される留学生アルバイトですが、安全衛生の観点では「就労形態がアルバイトであっても労安法は全面適用される」という点が重要です。
「日本語がある程度話せるから大丈夫」という判断で留学生への安全衛生教育を省略するケースは少なくありません。ただ、言語能力と「日本の職場の安全ルールを知っているかどうか」はまったく別の話です。日本特有の安全表示・機械の操作手順・緊急連絡の方法は、日本語が堪能でも職場経験がなければ知りようがありません。
実務上の確認点は2つです。
- 雇入れ時教育(労安法第59条第1項): 短時間・短期間のアルバイトでも実施が必要。記録も残す。
- 特別教育(労安法第59条第3項): 危険・有害業務(フォークリフト・研削とい作業等)に就かせる場合は在留資格にかかわらず特別教育が必須。
まとめ
在留資格が何であれ、労安法第59条の雇入れ時教育・特別教育の義務は変わりません。在留資格ごとに異なるのは「追加の支援義務や管理体制」であり、労安法の基本義務はすべての外国人労働者に等しく適用されます。
実務上の整理として、次のことを習慣にしてください。
- 採用時に在留資格を確認し、技能実習・育成就労なら監理機関との役割分担を文書化する
- 特定技能1号では支援計画の実施と雇入れ時教育の記録を別々に管理する
- 転籍が発生した場合は転籍先での雇入れ時教育を新規に実施する
- 留学生アルバイトにも雇入れ時教育を実施し記録を保管する
- 特別教育が必要な業務は在留資格にかかわらず実施・記録する
在留資格の多様化に伴い、担当者の負担は増す一方です。多言語 eラーニングで業務の合間に受講・記録できる仕組みを整えることが、持続可能な安全教育体制の第一歩です。
よくある質問
Q. 技能実習生が育成就労に切り替わった場合、雇入れ時教育を再度実施する必要がありますか?
同一事業者との雇用関係が継続している場合でも、担当業務が変わるタイミングや新たな職場に配置されるタイミングで雇入れ時教育を実施してください。また、転籍(別の事業者への移動)が伴う場合は転籍先での雇入れ時教育が改めて必要です。
Q. 留学生アルバイトを1日だけ雇う場合でも雇入れ時教育は必要ですか?
はい、必要です。労安法第59条第1項には「短期・アルバイトは対象外」という規定はありません。実務上は20〜30分程度の入職時安全教育として実施し、簡単な記録(実施日・科目・受講者名)を残す運用が一般的です。
Q. 特定技能2号は熟練者なので雇入れ時教育を省略できますか?
省略できません。特定技能2号の外国人に高い技能があっても、当該企業・当該職場の機械設備・緊急連絡先・避難経路・危険区域を知っているとは限りません。技能の高さと「この職場の安全ルールを知っているかどうか」は別の問題です。
Q. 監理団体が安全研修を実施している場合、受入企業は何をすれば良いですか?
監理団体(育成就労では監理支援機関)は技能実習計画・育成就労計画に基づく支援を担いますが、労安法第59条上の教育義務の主体は事業者(受入企業)です。監理団体の研修が労安法上の教育を代替するわけではありません。役割分担を書面で確認し、受入企業としての教育記録を別途整備してください。
Q. 在留資格を変更(技能実習→特定技能)した場合、過去の特別教育記録はそのまま使えますか?
同一事業者との雇用関係が継続していれば、特別教育の記録(安衛則第38条で3年保存義務)は引き継げます。ただし、新しい業務に就かせる場合は改めて特別教育が必要です。在留資格変更と業務変更が重なる場合は特に注意してください。



