「うちは食品工場だから危険な業務は少ない」。そう考えていると、思わぬところで労災に遭います。食品産業の労働災害発生頻度は、全産業平均の2倍以上とされています(農林水産省資料)。そして外国人労働者の比率は製造業のなかでも飛び抜けて高い。言語の壁を抱えたままの安全教育は、食品工場ではとりわけ大きなリスクになります。この記事では、食品製造業の外国人労働者特有のリスクと、多言語での安全衛生教育の進め方を整理します。
食品製造業は外国人が最も多い製造業種のひとつ
特定技能の在留外国人数(2025年12月末時点)を業種別に見ると、飲食料品製造業は全分野のなかで上位に位置しています。国籍別ではベトナムが約60%、インドネシアが約20%と、この2国籍で大半を占めます(出入国在留管理庁・特定技能在留外国人数の公表より)。
技能実習制度でも、食品製造業は受入人数が多い業種のひとつです。育成就労制度(2027年4月施行予定)への移行後も、この構造は変わりません。
現場の方ならご存知のとおり、食品工場は24時間稼働・交替制が多く、外国人スタッフが夜間帯の主力になっているケースも珍しくありません。日本語サポートが手薄な時間帯に外国人だけで作業する状況は、言語の壁がそのまま事故リスクになります。
食品工場の3大リスク
食品製造業の労働災害は発生頻度が全産業・製造業平均の2倍以上とされています(農林水産省「食料品製造業における労働安全」)。主要な事故は次の3つです。
切創 — スライサーや包丁類
食肉・魚介・野菜の一次加工ラインでは、回転刃式スライサーや高速カッターを扱います。「刃の向きに手を入れない」「作業中は専用グローブを着用する」という基本は、母国語でしっかり教えなければ伝わりません。日本語の口頭説明だけでは「なんとなく怖そうな機械」という認識で終わり、油断から事故につながります。
挟まれ・巻き込まれ — ミキサー・コンベア・包装機械
製造業全体の死傷事故では、挟まれ・巻き込まれが最多の事故類型(製造業で年間6,416人・令和5年厚生労働省データ)です。食品工場のミキサーや包装機械も例外ではありません。「非常停止ボタンの位置」「機械が動いているときに手を入れない」を視覚的に、母国語で理解させることが最優先です。
転倒 — 水濡れ床・油脂残留
食品工場の床は、洗浄水・油脂・食材の破片で濡れやすい環境です。転倒は製造業全体で年間5,757人の死傷者が出る事故類型(令和5年データ)です。外国人スタッフは入社直後の慣れない環境で特に被災リスクが高く、「滑りやすい床ではゆっくり歩く」「防滑靴を着用する」という指示を雇入れ時教育で確実に伝える必要があります。
そのほか、フライヤーや蒸気ラインでの火傷も食品製造業特有のリスクです。「高温部には触れない」という警告が日本語のみでは、その危険性が正確に伝わらないことがあります。
HACCPと安全衛生教育は別物 — 両方必要
食品製造業の担当者から「HACCPの研修はやっているので、安全教育も問題ないと思っていた」という声を聞くことがあります。ここが大きな誤解です。
HACCPとは何か
HACCP(ハサップ)は、食中毒菌の混入や異物の混入を防ぐための食品衛生管理の手法です。2021年6月に食品を扱う全事業者に義務化されました。HACCPは「製品の安全」を守るものです。
安全衛生教育とは何か
労働安全衛生法に基づく安全衛生教育は、働く人の安全を守るものです。雇入れ時に8項目の教育が義務付けられており(労安規則第35条・つまり新入りのスタッフ全員に実施する義務)、危険有害業務に就かせる前には特別教育(労安法第59条第3項)も必要です。
率直に申し上げると、HACCPの研修を実施しても、安全衛生教育の義務は別途果たさなければなりません。外国人労働者に対しては、どちらも「本人が理解できる言語で」実施することが、安全配慮義務(労働契約法第5条の「雇い主は従業員を危険から守る義務」)の観点から求められます。
雇入れ時教育8項目と食品工場での実践
労安規則第35条に定める雇入れ時教育の8項目を、食品工場の現場に対応させると次のようになります。
1. 機械等の危険性・有害性とその取扱い
スライサー・ミキサー・コンベア・包装機械の取扱い手順と非常停止の位置。母国語の動画教材が最も効果的です。
2. 安全装置・保護具の性能と取扱い
防滑靴・耐切創グローブ・防護メガネ・耳栓(騒音環境)。着用義務の理由を母国語で説明しないと、「面倒だから付けない」という行動が発生します。
3〜4. 作業手順・作業開始時の点検
各ラインの標準作業手順書は、少なくとも危険度の高い工程は母国語で説明することが理想です。「異常があれば報告する」という行動を、外国人スタッフが取りやすい言語と雰囲気で伝えます。
5〜8. 疾病予防・整理整頓・応急措置・その他
食品工場では騒音による難聴、油脂等による皮膚炎も職業性疾病として注意が必要です。これらの説明も母国語で行うことが望ましいです。
HACCP教育を同日に実施する場合は、教育記録を別々に保管することを忘れないでください。安全衛生教育の記録は3年保管の義務があります(労安規則上の実務標準)。
交替制・夜勤シフトでの教育時間確保の工夫
食品工場の悩みのひとつが「教育の時間が取れない」という問題です。24時間稼働のラインでは、全員が揃って教育を受ける機会がほとんどありません。
ここがポイントなのですが、この問題にeラーニングは最もフィットします。
- 自分のペースで受講できる: シフトの前後や休憩時間に、スマートフォンで受講できる
- 繰り返し視聴できる: 理解できなかった箇所を何度でも見直せる
- 受講記録が自動で残る: 誰がいつ何を受講したか、ログが電子的に保存される
集合研修では「Aシフトは実施できたがBシフトは未実施」という状況が生じやすいです。eラーニングなら時間帯を問わず同じ教育内容を提供でき、記録も均一に残せます。
食品工場で夜勤中心に働く外国人スタッフには、母国語で受講できるeラーニングが、教育機会の公平性という観点でも有効です。
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Labonaの多言語対応
Labonaは、日本語・英語・ベトナム語・中国語・インドネシア語の5言語で安全衛生教育eラーニングを提供しています。飲食料品製造業で外国人スタッフが多いベトナム語・インドネシア語にも対応しています。
受講後の修了テストと受講ログが自動で記録されるため、「教育を実施した」という証拠が残ります。監督署や元請からの記録提出要求にも、すぐに対応できます。
まず自社の外国人スタッフの国籍・言語構成を確認し、優先すべき言語から整備を始めてみてください。
まとめ
食品製造業は外国人労働者の依存度が高く、切創・挟まれ・転倒・火傷の4つのリスクが常にある現場です。HACCPの研修は安全衛生教育の代わりにはならないため、雇入れ時教育と特別教育を別途実施する必要があります。交替制シフトが多い食品工場では、eラーニングを活用して時間帯を問わず均一な教育を提供することが、実務上の現実的な解決策です。まず「今、自社の外国人スタッフが理解できる言語で教育できているか」を確認することから始めてください。
よくある質問
Q. 食品工場での雇入れ時教育は、日本語が話せない外国人スタッフにも必須ですか?
はい。雇入れ時教育は国籍・言語を問わずすべての労働者が対象です(労安法第59条第1項)。日本語が話せない場合も、本人が理解できる言語で実施することが安全配慮義務の観点から求められます。
Q. スライサーやミキサーの操作は特別教育が必要ですか?
一般的なスライサー・ミキサーは特別教育(59業務)の対象外です。ただし、特定のプレス機械や電気取扱業務が含まれる場合は特別教育が必要です。自社の機械が「危険有害業務」に該当するかを確認してください。
Q. HACCPの研修と安全衛生教育を同日にまとめて実施してもよいですか?
内容が重複しない限り、同じ機会に実施することは問題ありません。ただし、記録はHACCP教育と安全衛生教育を分けて保管してください。安全衛生教育の記録は3年保管の実務標準があります。
Q. 夜勤シフトの外国人スタッフへの教育はどうすれば実施できますか?
eラーニングが最も現実的です。スマートフォンで受講でき、シフトの前後や休憩時間を使って自分のペースで進められます。受講ログが自動保存されるため、後から誰がいつ受講したかを確認できます。
Q. 食品工場で優先すべき言語はどれですか?
特定技能の飲食料品製造業では、ベトナム語が約60%、インドネシア語が約20%を占めます(出入国在留管理庁の公表データ)。まずベトナム語・インドネシア語の2言語から整備を始めるのが実務的な優先順位です。
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